再総選挙情報:ネタニヤフ首相ついに終了するか? 2019.8.8

夏休みのんびりムードのイスラエル社会だが、政界は、9月17日の再総選挙に向けてまるでチェスのような動きになっている。その中で、どうやら、ネタニヤフ首相の13年にわたる統治の時代が終焉を迎えるのではとの流れになり始めている。

1)ネタニヤフ首相に不利な流れ:右派の分裂

 現時点での世論調査によると、次回の選挙では、右派リクード(ネタニヤフ首相)35議席、中道左派ブルーアンドホワイト(ガンツ氏+ラピード氏)35議席と互角である。

しかし、ブルーアンドホワイトが右派意外の勢力として数える場合、左派やアラブ政党が含まれることから、基本的にブルーアンドホワイトによる連立政権樹立は不可能である。したがって、次回も大統領は、ネタニヤフ首相に連立樹立を委任するとみられる。

しかし、前回、連立政権を樹立できなかったネタニヤフ首相が、今回、樹立できる確率は低い。

前に樹立できなかったのは、同じ右派ながら、リーバーマン氏(イスラエル我が家党)が連立に加わらなかったため、国会で過半数を占めることができなかったからである。リーバーマン氏は、現在もネタニヤフ首相の連立には加わらないと断言している。

さらに今回は、ネタニヤフ首相に不利な動きが続いている。右派の分裂である。

まずは昨年末、右派勢の間では大きな動きがあった。当時防衛相であったリーバーマン氏が、ガザへの対応に合意できないとして政権から離脱。続いて、ベネット氏(元教育相)が、その防衛相のポジションを要求し、かなわない場合は政権から離脱するとゆさぶりをかけた。

ネタニヤフ首相は、北部情勢を利用してこれをうまくかわし、ベネット氏は政権維持を優先するとしてこの要求を取り下げたのであった。ところが、その直後、ネタニヤフ首相は、国会を解散。総選挙を宣言する。ベネット氏はすっかり信用を失った形となった。

これを巻き返すため、ベネット氏は、自身が立ち上げたユダヤの家党を、相棒のシャキード氏とともに離脱。あらたに世俗派にも理解を示すとする「新右派党」を立ち上げた。

ところが、前回の総選挙で、この党は、予想外にも議席獲得最小得票率に達することができず、ベネット氏は入閣どころか、国会での議席も失ってしまった。ネタニヤフ首相は、ベネット氏とシャキード氏を解雇し、暫定政権から追放した。

これは、言いかえれば、ネタニヤフ首相が将来、味方になる可能性のあった2人を完全に失ったということでもあった。

一時は、政治生命を失ったかにみえたベネット氏とシャキード氏であったが、この後、まきかえしを図る。

特にシャキード氏は、ユダヤの家党(ペレツ党首)に加わり、新右派党(ベネット党首)を統一した右派連合の形で、次回の選挙に出る方向性を模索した。ベネット党首はこれに合意した。

www.jpost.com/Israel-Elections/New-Right-official-Shaked-is-a-figurehead-Bennet-pulls-the-strings-596656

しかし、次なる課題は、極右と目されるオツマ・ヤフディ党(イタマル・ベン・グヴィール党首)が、右派連合に加わるかどうかであった。

世俗派にも寛容な立場であることを強調しているベネット氏はこれに反対。一方、相棒のシャキード氏は、加えることに賛成すると意見が割れた。最終的に、トゥクマ党は右派連合に入らず、単独で選挙に出ると発表した。

その後の調査によると、オツマ党は、最小投票率を獲得できないという結果になった。もしオツマ党が右派連合に加わっていれば、この党に流れて失う票を考えると、ネタニヤフ首相の右派勢力は、4議席を失ったと指摘されている。

このように、ネタニヤフ首相の立場は、徐々に悪化しているということである。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/266826

しかし、そこはイスラエル。何が起こるかわからない。それでもネタニヤフ首相が何らかの形で、政権をとるかもしれない。

しかし、その場合、次なる課題が待ち構えている。総選挙の2週間後、ネタニヤフ首相の汚職問題に関する尋問が始まる。ネタニヤフ首相の疑惑が完全に晴れないかぎり、いずれにしても、政権維持は難しいとみられている。

ではいったい、だれがどのような政権を立ち上げるのだろうか???

2)鍵をにぎるリーバーマン氏(イスラエル我が家党)

 前回、ネタニヤフ首相の連立政権樹立を阻止したのは、リーバーマン氏だが、今回も結局、リーバーマン氏が、どちらにつくかでだれが首相になるかが決まる形に変わりはない。

リーバーマン氏のユダヤの家党は、現在、前回の選挙から5議席も伸ばして10議席とも11議席ともと予想されている。リーバーマン氏本人が、政権をとることはないが、今回もリーバーマン氏がどちらにつくかで政権がだれになるかが決まるという鍵的な存在になっている。

リーバーマン氏は、自身のイスラエル我が家党とリクード、ブルーアンドホワイトの3党が、右派左派を含む統一政権を立ち上げることを主張している。これにより、リーバーマン氏が理想とするユダヤ教政党抜きの政府が可能になる。

しかし、ネタニヤフ首相がリクードの党首のままでは、この3党が協力することは、ほぼ不可能である。リーバーマン氏は、リクードが、党首を変えて選挙にのぞみ、統一政権をめざすよう、呼びかけている。

では、だれが、ポスト・ネタニヤフになるかがだ、リクードの選挙名簿で2番目は、現在、国会議長を務めるエデルステイン氏となっている。人格的に紳士、穏やかで、時期大統領と目されるが、首相の器ではないと言われている。

また、リーバーマン氏が提唱する統一政府については、国民の59%が反対との意思表示をしている。

*ネタニヤフ首相意外の党首は認めない忠誠署名問題

こうした中、リクード党のダビッド・バイタン議員が、リクード党員らに対し、時期選挙でも、政府指導者に立つのはネタニヤフ氏のみであると署名させていたことが明らかとなった。

リクードの選挙名簿トップから40人が、署名したという。ネタニヤフ首相ばこれに感謝するコメントを出している。しかし、他党からだけでなく、リクード内部からも、批判が相次いだ。

www.jpost.com/Israel-Elections/Likud-MKs-embarrassed-by-loyalty-oath-to-Netanyahu-597768

www.jpost.com/Israel-News/Likud-petition-Netanyahu-is-our-leader-597593

<石のひとりごと:予想不可・ポスト・ネタニヤフ>

ネタニヤフ首相は13年以上に渡る在職で、多くの貢献をしてきたことは、明らかである。トランプ大統領の信頼もあり、これからアメリカの中東和平案が出てくるかどうかという時に、新たな首相になることは大きなかけである。

首相にむかないエデルステイン氏、政治経験のない元将軍ガンツ氏、元アナウンサーのラピード氏、どの人物もネタニヤフ首相ほどの貫禄はない。とはいえ、13年以上も同じ人物が首相で、中東和平が進まない中、別の道を探りたいというのも国民の思いのようである。

イスラエル情勢は、ますます緊張しているのに、この選挙。いったいどこへ向かっていくのか。本当にまったく予想不可能である。その分、主のみこころが働きやすいということか・・・

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。