欧米とロシアの対立急速悪化:停戦交渉は可能か? 2022.2.28

ウクライナ情勢については、国内でも日々詳しく報じられているが、イスラエルの動きを理解する目的で、まず、日本時間28日朝時点での状況をまとめる。

ロシアのウクライナ侵攻4日目

ロシアがウクライナ侵攻を始めてから4日目。ロシアは、ウクライナの首都、キエフに加えて東の大都市ハリコフへの激しい地上戦を行っている。南のヘルソンはすででに制圧されたとのこと。しかし、今日の時点でキエフはまだ陥落していない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、当初から徹底抗戦の意思を表明し、18-60歳男性を招集しているほか、国民へは火炎瓶を配布。19万近い大軍を前に、総兵力はそ4分の1以下のウクライナ軍が、“意外”にも善戦していると報じられている。

リトアニアの防衛相が伝えたところによると、ウクライナ軍がこれまでに撃墜したロシア軍の戦闘機27機、ヘリコプター26機、戦車146台、軍用車706台、地対空見ミサイル4機。ドローン2、軍用船2で、ロシア兵の死者は4300人となっている。ちょっと多すぎるので、どうかとは思うが、少なくとも、ロシア軍の方にも、被害はかなり出ているということのようである。

また、すぐにも勝てると思ったのか、背後からの補給が脆弱だとの指摘もある。今後、補給が途絶え、ロシア人の死者が増えることで、ロシア国内の反戦機運がさらに高まり、反プーチン思想の拡大になるのではないかとの期待もある。しかし、当然、これもまだ希望的という段階である。

www.cnn.co.jp/world/35184109.html

なお、停戦交渉がベラルーシとの国境で行われるとされる今日、キエフに向かうロシア軍の軍用車両は5キロにも及ぶとCNNが伝えており、かなりの大軍がキエフに向かっているようである。

www.cnn.co.jp/world/35184132.html

www3.nhk.or.jp/news/html/20220226/k10013502311000.html

民主主義世界と専制主義世界の対立の様相

1)国連安保理が機能不全:民主国家と先制国家で意見分かれる

こうした状況を本来、止めるのは安全保障理事会のはずである。しかし、25日に行われた国連安保理15カ国)では、予想通り、ロシアが拒否権を発動したために、ロシアのウクライナ侵攻を非難声明すら出すことができなかった。ロシアと同じ体制の中国は、この時棄権票を投じていた。

この時に国連安保理は、ロシアの孤立を強調しただけで、実質的な対処は何もできなかったことから、安保理が、機能不全に陥っていることを世界に見せつける結果となった。

mainichi.jp/articles/20220226/k00/00m/030/069000c

2)欧米諸国ウクライナ軍事支援増強へ転換

欧米諸国は、援軍をウクライナへ派遣して戦闘に直接加わってしまうと、文字通り第三次世界大戦になってしまうことをかんがみ、今もウクライナ国内へ援軍を送ることはなく、武器や資金供与にとどまっている。

しかし、アメリカだけでなく、ドイツのショルツ大統領や、フランスのマクロン大統領も、直接プーチン大統領との交渉に臨んだにもかかわらず、ロシアは侵攻に踏み込むという事態になった。

このため、24日にはゼレンスキー大統領からの要請もあり、軍事介入には及び腰であったドイツとフランスもこれまでと一転、さらに積極的な軍備支援に乗り出している。以下は、ウクライナを軍事的にも支援する欧米各国とEUの動き

①アメリカ: ブリンケン国務長官は、26日、3億5000万ドル(約400億円)分の武器供与を発表。歩兵携行対戦車ミサイルジャベリンの供与も含まれているとのこと。この他、バイデン大統領は、ポーランド東欧諸国にも防衛・人道支援目的で、64億ドル(7400億円)の供与を計上。議会の承認を待つ。

アメリカはヨーロッパに、平時から軍をおいている。昨年9月時点で、ドイツ、イタリア、イギリス、スペインなどに、6〜7万人の部隊を置いている。常駐はしていないが、NATOに近年加盟した東欧諸国への巡回のような形をとっていたとのこと。今も、NATO加盟国でないウクライナ領内に入ることはないが、特に隣国ポーランドに、難民対処もかねて、兵力を増強している。

②ドイツ:ドイツは、第二次世界大戦後の過去もあり、当初、殺傷能力のある武器をウクライナに送ることはないと言っていた。しかし、26日、ドイツはこの方針を一転、対戦車砲1000基、地対空ミサイル500基と爆薬の供与を行うことを決めた。

なお、ドイツは、大規模な侵攻が始まる前の22日、ロシアの天然ガスを購入するための海底パイプライン「ノルドストリーム2」の停止という思い切った経済の制裁を開始している。

③フランス、イギリス、イギリスも武器供与を表明。その他のNATO諸国も同様の動きを見せている。NHKによると、27日、EUは、ウクライナで全面戦争になているとして、ウクライナへ5億ユーロ(約650億円)の軍事支援を決めた。

3) 欧米:SWIFTからロシアを排斥で最強の経済制裁カード切る

欧米諸国は、援軍をウクライナへ派遣して戦闘に直接加わってしまうと、文字通り第三次世界大戦になってしまうため、これまでは、主に経済制裁とウクライナへの武器供与などを行ってきた。

諸国は、プーチン大統領とラブロフ外相の個人資産凍結含む経済制裁をそれぞれが発表していった。しかし、さすがに、SWIFT (国際銀行間通信協会・ドル建てで支払いの媒体) からのロシアの追放はさすがに手をだすことができていなかった。原油高高騰なと自国への影響が懸念されたからである。
しかし、27日一転、欧米諸国はSWIFTからロシアを排斥すると発表。日本もこれに合意した。これにより、ロシアとの貿易が、大規模に麻痺することになる。報道によると、その規模は、6300億ドル(約72兆8000億円)。今後、原油高からはじまり、世界に大きな影響を及ぼす可能性が懸念されている。

しかし、ロシアは、すでに、こうした事態に備え、ドル建ての経済から脱出するべく、ロシアと中国による貿易網の形成も始めていると言われており、SWIFTからの排斥がどこまでロシアに影響を及ぼすのかは、時間をみないとわからないとのこと。

www.nikkei.com/article/DGXZQOCB196OP0Z10C22A1000000/

なお、これまでにSWIFTから排斥の制裁を受けている国の中には、イランが含まれている。(2018年以降)

www.nikkei.com/article/DGXZQOGR270990X20C22A2000000/

4)プーチン大統領は核兵器準備も含めた準備を指示

このように欧米諸国が大胆な動きに出ていることから、プーチン大統領は、欧米が不当な制裁をしているとして、核戦力も含めた最大限の警戒体制を取るよう指示した。核兵器をも準備するということである。

www.nikkei.com/article/DGXZQOCB274PJ0X20C22A2000000/

しかし、同時に、ウクライナとの停戦交渉を行う用意があるとして、ベラルーシ国境へ代表団を送るとも述べた。おそらくは、世界にショックを与えて、一気に、解決へ向かおうとするロシアの考えではないかとの分析もあるが、偶発的なことで核戦争にまで発展しないとも限らない危険な状況になっている。

これを受けて、国連総会は、28日、臨時総会を行うと言っている。全世界からの非難決議をロシアへつきつけるということである。しかし、ここまで来てしまったプーチン大統領にそれがどれほどの影響があるのかは、疑問である。

今日直接停戦交渉への試み:降伏はしないとゼレンスキー大統領

上記のように、核兵器をちらつかせ、キエフ周辺に大軍団を包囲させた上で、ベラルーシ国境での停戦交渉である。当初、ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領が、ベラルーシ国内での交渉を提案した際には、これを拒否した。

ロシアの要求は、ウクライナがNATOに加盟しないことの確約と、ウクライナの完全非武装、ゼレンスキー大統領の辞任などをあげている。当然応じられるものではないが、市民の被害を抑えるためにも、とりあえず交渉には出てみることを決意し、前条件なしで、交渉に応じることにしたとのこと。

しかし、今日の交渉を前に、キエフではすでに大規模な戦闘になっており、ゼレンスキー大統領は、「降参するつもりはない」と言っており、交渉が結果を残すとは思えない状況になっている。

www.jiji.com/jc/article?k=2022022700450&g=int

石のひとりごと

いよいよ欧米諸国とロシアとの対立が、後戻りできない様相になっている。中国は大きな動きはみせていないが、これまで欧米とは違う路線で、親ロシアの姿勢である。しかし、ロシアがここまで暴走するとは中国も思っていなかったのではないかとの分析もある。

わずか数日のうちに、ここまで大規模な、世界を二分する戦争にもなりかねない状況になったことに、驚異と底知れない重さを感じさせられる。まさに歴史の大きな転換期に立っているのだろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。