ロシアとの交渉:シリアのイラン撤退について 2018.7.24

<イランのミサイル基地を空爆:今月4回目>

上記事件の前日22日、シリア北西部ホムス近くにあるイランのミサイル製造工場とみられる設備が空爆を受け、破壊された。シリア国営放送は、イスラエルの空軍機によるものと報じた。イスラエルは、ノーコメントだが、おそらくイスラエルであるとみられる。

この設備は以前にも破壊されたことがある地域で、欧米が化学兵器工場ではないかと疑っていた地域でもある。攻撃により、ヒズボラ数人が死亡したとの情報もあるが不明。とりあえずは、工場が破壊され物損のみとされている。

ネタニヤフ首相は、シリア領内にイランの設備は容認しないと言っているが、今月に入って、シリアのイラン関連施設が破壊されるのは、4回にものぼっている。これについて、たたける時にたたいているという見方と、いよいよイランがシリアに進出しているとの見方と両方ある。

www.timesofisrael.com/israel-jets-said-to-strike-chemical-weapons-site-in-syria/

<イスラエル国境から100キロのイランも容認しない:ネタニヤフ首相>

23日、プーチン大統領が、ラブロフ外相とロシア軍長官をイスラエルに派遣してきた。ネタニヤフ首相がモスクワでプーチン大統領と会談してから2週間後である。ハイレベル外交であるにもかかわらず、申し入れからわずか数日後の訪問であった。

シリア西南部をアサド政権が、制圧し始め、ロシアとしてもイスラエルとの国境ゴラン高原に関する取り決めを、早期にしておかなければならなくなってきたのである。

ロシアは、シリアからイランを完全に退去させることは非現実的だと主張している。しかし、イスラエルの懸念もかんがみ、以前はゴラン高原から80キロまでイランは撤退するとしていたが、今回、100キロまでとして交渉にやってきたのであった。

これに対し、ネタニヤフ首相は、弾道ミサイルがあれば届いてしまうので、結局100キロでも不十分だとこれを拒否した。ラブロフ外相らの訪問は、ちょうと北部でダビデの石投げが発動した数時間後だったので、ロシアもなっとくせざるをえなかっただろう。

イスラエルはあくまでもイランの完全撤退を主張している。その他、イスラエルは次のことも要求した。

①イスラエル軍はシリア領内で自由に動くことができる(自国の防衛に危機がせまる事態になった場合) ②シリアから長距離弾道ミサイル、ハイテク武器製造停止 ③対空ミサイル除去 ④武器が出入りする国境の閉鎖(特にシリアからレバノン、イラクからシリア) 

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5315360,00.html

イスラエルが、強気に要求を出しすぎているようであるが、結局のところ、イスラエルが自国の防衛に関して妥協することはないということである。

<あらゆる戦争の母>

シリア内戦後、今最も危ないのは、イスラエルとイランがシリアをはさんで衝突することである。ロシアもこれはさけたいところであろう。

イランのロウハニ大統領は、核合意から離脱したアメリカと対立する中で、「イランとの戦争は、あらゆる戦争の母になる(つまりは世界戦争)」とアメリカに対する警告を発した。

edition.cnn.com/2018/07/22/world/iran-rouhani-mother-wars/index.html

イランにとって、イスラエルとアメリカは同盟国であるから、もしイスラエルがイランと戦争になれば、それはすなわちアメリカとの戦争でもある。

世界戦争の図式がだんだんととのい始めているようで、背筋が凍る思いである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。