ラマダン直前の金曜日:最強の警戒体制の中で 2022.4.1

A Palestinian woman walks past Israeli security forces patrolling Jerusalem's Old City on March 31, 2022. (Photo by Menahem KAHANA / AFP)

西岸地区入植地ネエベ・ダニエルのテロでイスラエル人1人重傷

テロがあったバス Knesset

イスラエルでは、この2週間の間に11人がテロの犠牲になる事態となり、ベネット首相が、新たなテロの波を警告していたところ、31日朝にも、エルサレム南部、西岸地区の入植地、ネエベ・ダニエルでテロが発生した。

バスに乗っていたユダヤ人男性(28)が、同じバスに乗っていたパレスチナ人(30)にスクリュードライバーで、殴られ、重傷となった。テロリストは、別のバスの乗客がその場で射殺した。

www.timesofisrael.com/israeli-seriously-wounded-in-stabbing-attack-near-west-bank-settlement/

こうした中、イスラエルでは、2日から、イスラム教ラマダンが始まる。ガンツ防衛相は、通常の治安部隊に加えて、イスラエル軍から1000人を出して、国内各地での治安維持を図っている。

ブネイ・ブラックでのテロ(5人死亡)の後、珍しく、パレスチナ自治政府のアッバス議長が、テロを非難する声明を出していたが、これはガンツ防衛相が、ラマダンを前に、テロの波を抑える目的で、アッバス議長に圧力をかけて、声明を出させていたとのこと。

イスラエルでは、ラマダンを前に、強い危機感で対策が進められている。

ラマダン前・本気の治安維持最強:予算1億8200万シェケル(約70億円)

1)治安部隊増強・テロリスト事前逮捕にむけて

Israeli soldiers patrol on March 30, 2022 a village south of Jenin  (Photo by AFP)

西岸地区では、テロを起こす前に防ぐため、イスラエル軍12大隊が、テロリストやその関係者の摘発をおこなっている。

ブネイ・ブラックで5人を殺害したテロリストに関係する町、ジェニンでは、パレスチナ武装勢力と銃撃戦になり、パレスチナ人2人(17歳、23歳・自治政府情報)が死亡。イスラエル軍は数十人を逮捕した。こうした作戦は今も続けられている。

首相府によると、治安強化にむけて、1億8200万シェケル(約70億円)を計上したとのこと。その中には、国境警備隊員200人を訓練配備、防弾チョッキやヘルメットなどの装備への費用なども計上されている。

www.timesofisrael.com/government-agrees-to-nis-181-million-emergency-boost-for-police-as-terror-swells/

また、今はいつどこで銃撃が発生するかわからないことと、先には警察が到着する前に市民が銃でテロリストを倒していたことから、ベネット首相は、銃を持つ市民は、銃を持つように呼びかけた。その後、銃の所持許可申請が、通常は1日60件ほどであるところ、30日1日だけで、500件を記録した。

www.timesofisrael.com/firearm-applications-skyrocket-after-spate-of-attacks/

2)防護壁増強

壊れ壊れて通過できる防護壁

最近のテロでは、イスラエル領内に違法に侵入していたパレスチナ人によるものであったが、西岸地区との間に設立されている防護壁は15年も前に設立されたものであり、もう機能していない部分もあることがわかった。

まだ完成されていない部分も残されたままになっていた。今後、増強されていくと思われる。

www.timesofisrael.com/significant-failure-state-comptroller-visits-broken-west-bank-border-fence/

3)ラマダン対処:アメよりムチ?

4月4日から始まるラマダンでは、イスラム教徒がエルサレムに巡礼にやってくる。イスラエルは、ラマダン期間中は、ガザや西岸地区からパレスチナ人がエルサレムの神殿の丘へ入るための制限を緩和するとヨルダン国王にも約束していた。

しかし、予定より制限は強化するもようである。しかし締め付けだけでは、反発を増強させることになるので、高齢のパレスチナ人でエルサレムに入れる人数と時間を増やすなど、ムチだけでなく、アメの部分も残すなど、綿密な計画が検討されている。

イスラエルは、これまで、パレスチナ人の敵対心を和らげるため、寛容を示す傾向にあった。最近も、ガザのパレスチナ人8000人にイスラエルでの労働ビザを出し、労働許可を2万人までに増やすなどして、関係改善に努めてきた。

しかし、その結果が、増え続けるテロだったということである。イスラエルが今、再び強硬姿勢に舵を切ったのではないかと解説する記事もある。

その表れといえるのかどうかだが、政府は、今この時に、あえて極右政治家で、東エルサレムでは暴動のきっかけになったこともあるベン・グブール氏に、ラマダン前に神殿の丘へ入る許可を出している。あえて、パレスチナ人の感情を掻き回し、治安の悪化を招くような動きである。イスラエルの怒りが現れているようでもある。

グブール氏は、SNSで死の警告を受ける中、31日朝8時ごろ、警察官らによる最高レベルの警護の中で、神殿に立ち入り、15分ほど歩き回った。グブール氏は、「私は負けない。降参しない。」と言いながら歩いた。幸い、今の所、大きな衝突は発生しなかった。

ガンツ国防相は海外のユダヤ人もねらわれると警告

ベネット首相が、国民に銃の所持を呼びかけたほど、事態はこれまでよりも深刻とみるべきかもしれない。イスラエル軍のコハビ参謀総長は、このテロの波は、イスラエルだけでなく、世界中にいるユダヤ人もターゲットになる可能性があると警告した。

これまでのところ、ベネット首相が、警告を発したことについては、少し後になって、必ずそのようになってきているように思う。大きなテロの波になっていかないよう、とりなしが必要である。

国内では、これほどまでにアラブ人社会に武器が入り込み、殺人事件が発生していたにも関わらず、最近では、外交に力を入れすぎて、国内治安が手薄になっていたとの批判も挙がっていた。今、ベネット政権は、本腰を入れて、国内の治安維持に乗り出している。

www.timesofisrael.com/kohavi-said-to-warn-terror-wave-could-spread-to-jewish-israeli-targets-abroad/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。