ラピード首相率いる暫定政権発足:意見の違いを超えた一致を訴え

ラピード首相とその右側にいるベネット前首相 GPO

ラピード首相、着任からの動き

6月29日、ベネット前首相と交代し、次期政権が決まるまで暫定政権を率いることになったラピード首相。元ジャーナリストとして、治安維持の専門家でないという弱点をカバーするため、まずは、国内治安維持ディレクターのロネン・バル氏とのミーティングを行い、2日、首相府での最初のスピーチを行った。

その後、7月3日(日)、初めての閣議を開催。首相席に座るラピード首相の右には、相棒のベネット前首相が座っている。ベネット氏は今後、特にイラン問題に関わる他、ラピード首相に万が一のことがあれば、首相代理を務めることになる。

発閣議にあたってのラピード首相の閣僚と市民へのメッセージの概略は以下の通りである。(政府プレスオフィス提供資料より)

内容は、イスラエルの国の存在の重要性とともに、国の維持、発展という共通の目的を覚え、意見の違いに飲み込まれるのではなく、それとともに協力していく姿勢を訴えている。

ラピード首相発閣議のメッセージより:共通のゴールのために違いを超えて一致をよびかけ

・・・まず最初に、第13代首相であったナフタリ・ベネット氏に感謝を申し上げる。あなたの真剣さに、友情に、そして、この1年、経済から治安に至るまで国を導き、ここしばらく見ることができなかった多くの成果を上げられたことに感謝する。また、この1週間、さまざまな合意が交わされる中、政権移行が整然と行われるよう、見守ってくださった、イスラエル市民にも感謝を申し上げる。

イスラエル国家は、私たちの誰よりも大きい。私たちのだれよりも重要だ。国はこれまでからも存在していたが、これからもずっと、私たちの後にも存在し続ける。国は私たちだけのものではない。

イスラエルの国は、何千年もの間、祖国を夢見てきたディアスポラ(国外流浪、在住のユダヤ人)の人々のものである。同時に、これから生まれてくる将来の世代のものでもある。

その人々と私たちは、どちらにも共通すること、つまり、私たちが一つになるために、益となる道を選ばなければならない。合意できないことは、これからも常に出てくるだろう。問題はそれにどう対処するかであり、それが私たちを左右することがないようにすることだ。

意見の不一致は、それが政府の安定を揺るがしたり、国内に反発を拡大させないなら、必ずしも悪いことではない。ただ、私たちは、皆同じ目標を持っていることを覚えるべきでる。それは、ユダヤ人の国で、民主国家、自由で、強く、先をいく、繁栄の国、イスラエルを覚えるということである。

しかし、本当に重要なことにおいては、皆が同じように信じているというのが、深いイスラエルの真実である。それは、イスラエルは、ユダヤ人の国であるという点である。独立は1948年に始まったのではない。ヨシュアが、ヨルダン川をさたって、イスラエルの人々を永遠に、その土地、イスラエルと結びつけて以来である。ユダヤ人の土地とその人々が結びついた時からである。

1)イスラエルは自由民主主義国家で自衛権を維持する

私たちは、イスラエルが、自由民主国家であり、市民はすべて、政府を変える権利、自分の人生を決める権利をもていると信じている。基本的人権を否定される人は一人もない。尊敬され、自由であり、働く自由、そして自分を守る権利を持つ。

私たちはまた常に軍事力を維持しなければならない。それなしに治安はありえない。私はホロコーストサバイバーの息子である。当時まだ13歳であった父、ユダヤ人少年が殺されそうになったとき、彼をその脅威から守る人はいなかった。

1944年の冬のある夜、ブダペストのゲットーで、祖母は私の父に言った。「わが子よ。あなたは知らないかもしれないけど、今日はあなたのバルミツバ(成人式12歳)なの。ケーキを焼いてあげられないし、あなたの父は帰ってこない。」私の祖父は、マウントハウゼン強制収容所で殺されていたからである。

「でもひとつだけ、私にできることがある。」そう言って祖母は、小さい香水(シェネル5番)の瓶を取り出した。祖母がそれを、どうやってそのときまで維持することができたのかは、だれにもわからない。彼女はそれを壊して、「少なくとも息子のバルミツバが悪臭の中ではなかった」と言った。

私たちは、自己防衛しなければならない。私たちは常にイスラエル軍を維持していく。その力は明白に強力で、敵が恐れるほどのものでなければならない。

私たちは、空、海、陸、すべてにおいて、私たちの兵士、警察官が守られるように祈る。私たちは、息子たちが帰ってくるまでの間、ただ静かに休んでいることはない。イスラエル軍兵士のための祈りには次のように書いてある。「全能の神が、私たちに向かって立ち上がってくる敵を討ち滅ぼしてくださるように。」

ハダル・ゴールディンとオロン・サウルを忘れない(ガザに遺体が囚われている)。アビラ・メンギツ、ヒシャム・アル・サイードを忘れない。(ガザで捕虜状態)

2)イスラエルはユダヤの国である

私たちは、イスラエルがユダヤ人の国であるということを信じる。国のキャラクターはユダヤである。そのアイデンティティはユダヤである。ユダヤ人でない市民との関係もユダヤ式になる。レビ記(聖書)は次のように命じている。「あなたがたといっしょの在留異国人は、あなたがたにとって、あなたがたの国で生まれたひとりのようにしなければならない。」(レビ記19:34)

イスラエルの治安が保証される限り、イスラエルは、平和を求める国である。イスラエルは、パレスチナ人を含め、中東諸国に手を出し述べる。そして伝える。「私たちが、ここから動くことはもう2度とないと認める時が来ている。だから共に生きる道を共に学んでいこう。」

3)アブラハム合意の可能性とイランの脅威

アブラハム合意には、たいへんな祝福の可能性があると信じる。先のネゲブ・サミットにおいて、UAE、バーレーン、エジプト、モロッコとイスラエルは、治安と経済において、覚書に署名した。今後さらに大きな祝福が続いていく。

イスラエルは、一人だけで生きているのではない。世界における私たちの位置、関係を維持していく。最大の友であり、同盟国であるアメリカとの関係を強化する。反ユダヤ主義と、反イスラエル主義について、国際社会の枠組みの中で対処していく。

イランの問題は、今イスラエルにとって最大の脅威である。イランが核兵器を持たないよう、また国境に近づいてこないよう、できるだけのことをする。私は、イスラエルを破滅させようとするすべての者の前に立つ。ガザからテヘラン、レバノンからシリア。私たちを試すことはやめよ。イスラエルは、あらゆる脅威、あらゆる敵に対処することができる。

6)違いを乗り越えて

国会での私の部屋には2人の写真がある。ベングリオン首相と、メナヘム・べギン首相だ。イスラエルにとって、最も重要なこの2人の首相はライバルであり、時に激しく言い争った。しかし、彼らは常に、同じ目的に立っていることを覚えていた。イスラエル国家を道徳的にもしっかりした国に立ち上げることである。

この目標は、すべての分裂を超えるものである。一致できない時に、大事なことは、自分が言い争いに勝つことではない。むしろ、その合意できない点がありながらも、この共通の目標のために、共に働いていけるかどうかということである。

今の暫定政府に投票しなかった人々、この政府を将来的にも支持しない人々もこのメッセージを聞いている。聞いてくれただけで感謝する。今は、国のために共に働いていくことをお願いしたい。政府は、あなた方のためにも働くことに全力を尽くす。先人たちが言っていたことを繰り返す:私たちは兄弟なのだ。

私たちの前にあるチャレンジは膨大だ。イランとの戦い、国内でのテロとの戦い、教育の危機、物価高、個人のセキュリティのレベルを強化すること。。。チャレンジがこれほどまでに大きい時に、不一致に飲み込まれる余裕はない。共通の目標のために、私たちはお互いを必要としている。

子どもたちが私たちを見ている。彼らに何を見て欲しいのか。私たちが、ユダヤ人の民主国家、強く発展した良い国に立ち上げる様子だろう。ともにいてこそ私たちは勝利する。

石のひとりごと

ラピード首相のこれまでの動きをふりかえると、自分が首相になることが、最大の目標でないことは確かではないかと思う。イスラエルにとって、一番良いことを常に、真剣に自分ごと以上に考えているということである。これは、ベネット前首相も同じであった。

この点、ネタニヤフ前首相は、いい意味で、自分が首相になることを最大の目標にしていると思う。それは、自分自身のために、首相の地位にとどまるという欲望ではなく、自分でなければ、イスラエルを守れないという、強い確信があるからである。

いずれも、形は違うが、なによりも、イスラエルを大事にしているということに違いはない。こうした、国への健全な思いというものが、どうにも羨ましくも感じるところである。

ラピード新政権とその内閣の上に主の導きと祝福が常にあるように。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。