ユダヤ人高齢者施設で働くパレスチナ人 2019.4.12

先日、ある日本からのグループが、あるエルサレムの高齢者施設を訪問し、交流の時を持った。同行させていただいたのだが、なかなか衝撃的であったので報告する。

その施設は、宗教的なユダヤ教徒の居住地のすぐ隣にあり、黒キッパの男性も出入りする姿もみかけたユダヤ系の高齢者施設(日本で言えば特養)。隣には幼稚園と学校があり、高齢者施設からは子供達の姿がよく見える。静かなよい環境にある。

グループが訪問したのは、まずは介護度3-4で、認知症の人もいるとみえ、出入り口には鍵付きの垣根がもうけられていた部屋。もう一つは、全員が介護度5以上の重度要介護者ばかりの部屋であった。

後者の部屋では、ダイニングに10人ぐらいが、ある人は、テーブルに、多くは介護用車椅子などに座らされ、ランチを待っているところであった。すでに胸元に前掛けをつけている人もいた。日本の高齢者施設とほぼ同様の光景である。

要介護の高齢者たちは、みわけはつかないが、ユダヤ人だけでなく、アラブ人高齢者も入居しているとのことだった。皆、心も体も重度の要介護の人々で、管理者の女性は、「この人々はみなうつ状態だから・・」とおっしゃって、雰囲気をもちあげようと、明るく話しかけていた。

そうした中、日本人グループが歌をうたい、フラダンスを披露されたのだが、それにつられて、気分がよくなったのか、アラブ人女性がアラビア語の歌を披露し、ヘブライ語の歌を男性が披露した。しばしの楽しみを提供できたようだった。

衝撃だったのは、そこで同席していた白衣の介護従事者たちである。

体をくっきり折り曲げたまま動かない黒キッパの男性と、なにやら睨みつけたまま不動の男性、いずれもユダヤ人と見えるかなり高齢の男性の間に座っていた介護従事者は、アラブ人(パレスチナ人)で、その表情は、どうみてもニュースで見るハマスだった。*注意:本当のハマスというわけではない。あくまで見た目が一見、ハマスに見えたということ。

アラビア語の歌を歌った女性をサポートした介護員の男性も、見た目、どうみてもハマス。そばにいた車椅子の男性が、どうも尿意を訴えていたようだったので、この介護員に伝えたが、「ああ、あの人はいつものこと」ととりあってくれなかった。

またそのそばにいた介護員の女性は、ヒジャブを頭にまいたやはりアラブ人だった。どの人も皆笑顔なく、どうも凄みがあった。

日本の高齢者施設のように、「笑顔、敬語」などという、すぎるほどの丁寧、親切な雰囲気はなかったように思う。想像でしかないが、おそらくは、食べるための仕事としてやっているのかもしれない。

ホロコースト生存者もいただろうか。高齢になり、要介護者になったユダヤ人を介護するのはパレスチナ人・・・。ニュースでは、ユダヤ人とパレスチナ人の衝突ばかりが報じられるが、現実のイスラエル社会では、ユダヤ人とパレスチナ人が、このように持ちつ持たれつの場面もあるのだ。

また要介護になった高齢者、またそのケアの様子も、ユダヤ人であろうが、アラブ人であろうが、日本人であろうが、皆まったく同じであることを思わされた。当たり前のことではあるが、筆者には改めて衝撃的であった。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。