ベレシット月面探査機着陸失敗 2019.4.12


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写真出展:ベレシットと月(エルサレムポスト)

今年2月21日に、アメリカのケープカナベラルから打ち上げられたイスラエル初の宇宙探査機ベレシット(はじめに:または創世記)が、予定通り、4月11日午後22:15(日本時間朝4:15)、月面への着陸態勢に入ったが、最終的には月面に激突したとみえ、着陸は失敗に終わった。

成功すれば、アメリカ、ロシア、中国に続いて4番目に月面探査を成功させた国になり、私立の会社によるものとしては、世界初になるはずだった。

11日、ベン・グリオン空港では、22:00 ”月” として旅客機の到着案内掲示板に、ベレシットの着陸時間を掲示。着陸は同時中継され、イスラエル中が、期待を持って見守っていた。

ネヤニヤフ首相夫妻と息子のヤイールさんは、イスラエル政府(4000万ドル出資)とともに、このプロジェクトに投資した南アフリカのイスラエル人億万長者モリス・カーン氏(6000万ドル出資)と、テルアビブ近郊ヤフダのコントロールセンターで、着陸の瞬間を待った。

ベレシットは、月面探査のための機材のほか、聖書やホロコーストの犠牲者で月への旅を夢見ていたペテル・ギンツ君(16)の月面から地球を見た絵などを含むタイムカプセルを載せていたという。リブリン大統領は、大統領官邸に、9-12歳の子供達80人を招いて、共に着陸を見守った。

ベレシットは、着陸態勢に入った後、月の表面が間近になった状態でのセルフィーを送信。しかし、その直後、ベレシットからの連絡は途絶えた。この時点で急速に落下したとみられる。その後まもなく、記者会見が行われ、着陸は失敗したと発表された。

ネタニヤフ首相は、「最初の失敗なら、また挑戦すればよい。月に近づいたのだから、イスラエルは2-3年後には必ず着陸する。挑戦したことがすでに達成だ。」と語った。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/261738

ベレシットのために費やした資金は、総額1億ドル(約110億円)。ここまで来るのにかかった時間は8年以上である。

カーン氏は、着陸失敗後の記者会見にて、「私たちは夢を選ぶ。」と語り、「次回の挑戦への思いがあるようだ。次は必ず成功する。今夜のことは誇りに思うべきだ。」と語った。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/261741

リブリン大統領は、子供達を前に、「失望する理由はない。私たちの少ない資源で、月直前まで行ったことは、大きな達成だ。本気でやれば成功する。確かにすこしがっかりだが、達成したことに比べたら小さいことだ。あなたがたとともに今夜を過ごせて幸せだった。

私が子供のころは、月に行くなど夢にも思わなかった。みなさんが月へ行き、さらに偉大なことを成し遂げる科学者になってくれることを楽しみにしている。挑戦したいと思ったら、できるということを学んだ。今夜はイスラエルとその国民、またその子供たちにとって重要な夜だった。」と語った。

大統領と子供たちは、国家ハティクバを歌ってから帰宅の途についた。

<挑戦魂:ベレシットは酒場での会話から>

ベレシットは、9年前の2011年、3人のイスラエルの起業家、ヨリブ・バシュ氏とヨナタン・ウェイチラウブ氏、クフィル・ダマリ氏が、酒場にて、資金を集めて、グーグルがスポンサーでのルナ・エックスプライズに参加することを思いついた。

ルナ・エックスプライズとは、無人探査機で月面を探査することに成功したグループに賞金を出すとするコンテストで、2007年に、Xプライズ財団(人類の発展のためのスポンサー)が、全世界に向けてよびかけたもの。スポンサーはグーグルであった。最高賞金額は2000万ドル(22億4000万円)にのぼった。

しかし、2015年になっても成功するグループが出ず、コンテスト期間は何度か延長された。その後、最終的に残ったのは、スペースIL(イスラエルチーム)を含む5社となったが、どのグループも成功しないまま2018年3月31日を迎えたため、コンテストは、新しいスポンサーが現れるまでは賞金なしで継続されることとなった。

ヨリブ・バシュ氏ら3人は、投資家モリス・カーン氏とともにスペースILを設立。イスラエル国立のIAI(Israel Aerospace Industry)と共同出資で、研究を続けた。2018年に賞金なしになってからも、挑戦を続けていたことになる。

<石のひとりごと:失敗してもいい国イスラエル>

イスラエルほど小さい国が、アメリカやロシア、中国といった大国にならんで、月面着陸に、ここまで達成したということは、特筆に価する。

だいたい、イスラエルのように小さく、資源もない国で、月面着陸という現実では全く可能性がない夢のような話に挑戦しようとした人がいたこと、またそれに乗って、成功するかどうかもわからないことに大金を出した人がいたという点が、イスラエルなのである。

いったいその力はどこから来るのか。イスラエルの建国の父テオドール・ヘルツェルは、かつて「望むならそれはもう夢ではない。」と語った。これがイスラエル人すべての座右の銘である。イスラエルの建国自体が、月へ行くほどの夢物語だったのである。

イスラエルは、失敗が許される国。失敗は、そこから学び、次へつながるためのものと信じている。国民も、こんな大きなプロジェクトが失敗しても、だれの責任かと追及することはない。世論から叩かれることもない。だから大きなことへの挑戦ができる。

失敗しても愛されているという信頼関係は、ユダヤ人の親子関係にもみられるものである。これは信仰の問題ではなく、彼らのDNAの中にある資質のようなものかもしれない。こうして、新しいことにたえず挑戦して、先取りをしながらユダヤ人は生き延びてきたのである。

日本ではよく、「イスラエルに行きたいけど、お金がない。休みがとれない。」という声を聞く。本気であれば、道は必ず開ける。まずはそれをイスラエルから学んでいただければと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。