ベネット政権へ揺さぶり:ネゲブでベドウィンのデモ・エルサレムで右派のデモ 2022.1.14

ネゲブでのデモ スクリーンショット

文字通りすべてのセクターを含む統一政権で出発したベネット政権。不思議に課題を次々にクリアし、この多様性こそがこの政権の強さかなどともみられていた。しかし、今、その多様性にも大きな揺さぶりがきている。

一つは、ネゲブでのベドウィンによる植林活動に反発するデモが、もう3日も続いており、ネゲブを基盤に置くアラブ政党ラアム党が、統一政権に協力できない流れが始まっている点。

もう一つは、西岸地区で違法ではあるが、入植活動をしていた地域を撤去させたことに反発する右派たちが、テルアビブで大規模なデモを行った点である。

ネゲブでのベドウィン数百人が治安部隊と衝突

ネゲブ地方では11日から、ユダヤ機関の植林問題で、ベドウィンによるデモが始まった。ユダヤ機関が植林しようとした地域は、まさに砂漠で何もない地域ではある。

しかし、ベドウィンたちは、広く砂漠に住むため、植林行為は、自分達に領域を狭める、言い換えれば自分達を追い出す行為だと訴えたのであった。これを受けて、ユダヤ機関は、すでに植林を中止している。

しかし、ユダヤ機関(KKL―JNF)は、ネゲブへの植林を、もう15年も続けているのであり、これまでは何の問題もなかったのであった。今回炎上しているこの問題は、たんに今回だけ、植林だけの問題ではないということである。

ネゲブには、数多くのベドウィンの部族(かつて砂漠を移動しながら生活していたが、今は定住している)が住んでいるが、イスラエルの認可を受けていない地域がまだ多数残っている。

これら無認可の村では、下水道などのインフラが整っておらず、教育システムも不十分なままで、イスラエルでは、最も貧しい地域である。

イスラエルは、これを改善しようと計画したが、全部の地域、すべてにインフラなどを整えることは、不可能である。そこで、ベドウィンの都市をいくつか認定し、無認可の地域住民にはその内外周辺に家屋を作って移動してもらおうとした時期があった。

しかし、ベドウィンたちは、決まった四角い土地や家の中に住むという欧米式の生活様式ができなかったために、まだ無認可の地域に住むベドウィンが多く残されたままになっている。

これとは別に、ユダヤ機関は、昔からのシオニストのビジョンにそって、砂漠を緑にしようしているのである。しかし、ユダヤ機関のみ流所では、何もない砂漠でも、移動生活をするベドウィンにとっては、「このへんは全部自分の領域」なので、他人が植林をすることは、とても許せることではないのである。

今回、ユダヤ機関が植林しようとした地域は、アル・アトラシュと呼ばれる部族の領域であったとのこと。しかし、イスラエルとしても、国の領土であり、砂漠に植林することは国のビジョンでもあるので、これをひっこめることは、シオニスト、右派たちの反発を食うことになるのである。

11日から始まったデモは3日目に入り、13日には、デモ隊が、31号線を封鎖し、治安部隊に向かって大群衆が投石するなどして、暴力行為に出た。治安部隊は、威嚇手榴弾や、催涙弾で対応。少なくとも12人が負傷し、3人が病院に搬送された他、13人が逮捕された。

この事態の中、この地域に基盤を置く、ラアム党のアッバス議長は、ユダヤ機関KKL―JNFが植林をやめない限り、国会での投票に行かない、いいかえれば、政権に賛成票を投じないと言った。すると、右派が、アッバス議長がこれを撤回するまで、自分も国会に行かないと宣言。左派議員も同様の動きに出た。過半数ぎりぎり61議席のベネット政権にとっては、これは危機的な状況である。

www.timesofisrael.com/hundreds-of-bedouins-clash-with-police-over-controversial-negev-tree-planting/

右派数千人が反政府デモ:エルサレム首相官邸前

13日、エルサレムのベネット首相が住む首相官邸前に、右派勢数千人が集まり、西岸地区での入植活動をしていたホメシュ(違法前哨地)を撤去させた政府に反対するデモを行った。ホメシュでは、昨年12月に、テロ事件が発生し、イシバの学生が1人死亡している。

しかし、デモ隊はこの問題だけにとどまらず、上記ベドウィンの問題についても、「我々はユダヤ人の国を求めている。」と訴え、ベドウィンの訴えで、シオニストのビジョンである植林を取りやめたベネット政権に対して辞職を求める声を上げた。

デモには、右派宗教政党のスモルトリッチ氏や、極右のベン・グブール氏や、リクードの議員なども参加していた。

www.timesofisrael.com/right-wing-activists-rally-in-jerusalem-to-overthrow-evil-government/

ベネット政権はこれまでなんとか、さまざまな障害を乗り越えてきたが、今、コロナ問題で大きな課題を抱える中、うちからの問題にも直面しているということである。さて、ベネット首相、この問題をどう乗り切るのか。おそらく、主に祈りつつの毎日であろう。国の平穏を願いつつ、主の介入を祈る。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。