プーチン大統領キエフ制圧か否か?:決断せまられるイスラエル政府の方針 2022.3.5

ベネット首相とラピード外相 MARC ISRAEL SELLEM/POOL

3月5日まとめ:ゼレンスキー大統領の支援要請に応じられない世界

1)侵攻から1週間:予想以上に戦うウクライナもロシア軍が欧州最大原発を制圧

ロシアのウクライナへの侵攻が始まって1週間が過ぎた。ロシア軍は、キエフ、ハリコフ、南部ハリソンやマリウポリなど3方向から軍を侵攻させているが、3日、ハリソンがロシア軍によって制圧された。その後、南部のマリウポリ、キエフ郊外のチェルニーヒウが、包囲されているとのこと。

今では、軍事施設に限らず、住宅街にまで攻撃が拡大して、市民の犠牲者が確認されているだけでも331人と増え続けている。

ニュースで映し出される景色は、まるで、内戦下のシリアのような、本格的な戦場のようになっている。市民らの多くは、地下鉄駅に避難しているが、マイナス5-6度という寒さに加え、もう1週間になり、食糧や水が不足し始めている。

こうなると、いよいよ市内での強奪というようなことも始まっていく可能性が懸念されている。

また4日には、北部のチェルノブイリ原子力発電所がロシア軍に制圧されたのに続いて、欧州最大とも言われるザポリージャ原子力発電所で火災が発生。世界を震撼させた。もし爆発したら、チェルノブイリの10倍の放射能が漏れ出す可能性があるといわれているためである。

その後、IAEAが調査した結果、原子力発電に関わる重要なエリアは、影響を受けていなかった。しかし、発電所はその後、ロシアが制圧しており、チェルノブイリと同様、いわば危険な人質をとられたような形である。

またNHKによると、ウクライナの発電は、65%が原子力でまかなわれており、この制圧で、その40%をロシアにとられたことになる。今後の出方では、ウクライナで、深刻な電力不足になる可能性もあるということである。そうなれば、国は文字通りパニックに陥るだろう。

ロシアとウクライナの停戦交渉は、これまでに2回行われた。2回目の時に、主要都市で、市民が避難するための人道回廊を用意することで合意。その際には一時停戦することについても話し合われたとのこと。

www.reuters.com/markets/europe/top-wrap-10-ukraine-seeks-ceasefire-humanitarian-corridors-talks-with-russia-2022-03-03/

3回目の交渉は、今週末にも交渉は行われる見通しとのことだが、プーチン大統領は、あくまでもウクライナの中立化(NATO加盟しないとの保証)と非武装化を要求。さらには、ゼレンスキー大統領暗殺の試みが3回もあったとのことで、結果が出るとは思えない強気の様相である。

ニュースによると、キエフなど各都市の市民らが脱出を急いでいるが、ウクライナでは、軍支援の対象となる男性(18-60歳)が出国できないので、母子だけを国外に向かうバスや電車で送り出す悲壮な様子、残った市民が火炎瓶を大量に作っている様子など、まるで第二次世界大戦を思わせるような様子が伝えられている。

その様子から次のみことばを思い出した。

だがその日、哀れなのは身重の女と乳飲み子を持つ女です。ただ、あなたがたの逃げるのが、冬や安息日にならぬよう祈りなさい。その時には、世の初めから、今に至るまで、いまだかつてなかったような、ひどい苦難があるからです。もし、その日数が少なくされなかったら、ひとりとして救われる者はないでしょう。しかし、選ばれた者のために、その日数は少なくされます。(マタイ福音書24:20-21)

2)読めないプーチン大統領の動き:報道規制開始・ロシア市民もロシア脱出へ

キエフが予想外にまだ陥落していないということと、キエフ郊外にまで迫る長さ5キロにもなるロシア軍隊の車列が、なぜかキエフ近くで前に進まず、隊列は60キロ以上にまで伸びて、渋滞状態にあることが報告されている。

もしかしたらというほかないが、プーチン大統領が、次の一手をどうするのか、世界の動きみながら、考えているのではとの分析もある。

しかし、報道によると、ロシア兵の間では士気が低く、作戦を知らされないまま駆り出されてウクライナ行きの戦車に乗せられたものもいるようだとのこと。背後からの支援も十分ないまま、マイナス6度にもなる寒さの中での立ち往生では、この膨大なロシア軍の軍勢がそう長く止まることが難しいだろう。プーチン大統領いったい何を考えているのか。

ニュースでも伝えられているように、ロシア国内では、プーチン大統領への反対デモが続いている。これまでに7000人近くが逮捕されたとのこと。プーチン大統領は、偽情報拡散を防ぐとして、フェイスブックを遮断。ツイッターも制限する。

ロシアでは、これまでからもすでに、プーチン大統領に批判的なメディアに制限をかけてきたが、BBCがロシアでの活動を停止すると発表している。その他のアメリカ系メディアもロシア領内での活動を停止すると言っている。

www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0506Q0V00C22A3000000/

こうした中、ロシアへの非常に厳しい経済制裁で、ロシアのルーブルは、急落、国債も半値以下となった。ロシアが債務不履行になる可能性が3倍になり、今後、世界経済に影響が広がってくると言われている。こうした中、ロシア市民の間でも、ATMから現金を急ぎ引き出そうとする人々の列になっているという。

www.nikkei.com/article/DGXZQODL01CIU0R00C22A3000000/

さらには、今後、厳しい経済制裁への影響から、ロシアを離れるロシア市民が増えてきていることも報じられている。どこかのメディアが、プーチン大統領は、ウクライナとロシアの2国を破壊しようとしていると言っていた。まさにそんな様相である。

ウクライナを見捨てたNATO?:ゼレンスキー大統領が落胆と怒り

こうした中、ゼレンスキー大統領は、NATOに、ウクライナ上空を飛行禁止区域にするよう、要請を出した。ロシアの爆撃機がウクライナへ入ってこないようにするためでる。万が一にも核施設が、ロシア軍機に攻撃されることがあれば、ウクライナだけの問題にとどまらないからである。

NATOは、4日、ブリュッセルで緊急会議(NATO加盟国とフィンランド、スウェーデンも含む)を開いた。その後の記者会見で、ストルテンベルグ事務総長が、この要望には応じられないと答えた。

ウクライナ上空を飛行禁止区域にするということは、NATOが責任を持ってこれを守ることになり、もしロシア軍機が、区域に入ってきたら撃墜しなければならなくなる。そうなれば、これはもう第三次世界大戦になってしまうというのが理由である。

もっともといえば、もっともだが、別の言い方では、ウクライナがロシアの空爆を受けるのを見捨てるということである。ゼレンスキー大統領は、深い失望を表明し、世界は、核への攻撃は断固守らなければならないのではと述べ、国連安保理にこの上空飛行禁止指定を、国連安保理に実施してもらうよう要請すると表明した。安保理は今日開催予定。

www.timesofisrael.com/ukraines-zelensky-in-plea-to-europe-if-we-fall-you-will-fall/

ゼレンスキー大統領は、「もしウクライナが倒れたら、次はあなたたちだ。世界は、ウクライナを見守るだけでなく、助けてほしい」と述べた。確かに、世界はウクライナ支持を表明してはいるのだが、はて軍事となると、外から支援を送るだけで、中でともに戦うことができないでいる。実質的な助けにはなっていないということであろう。

この様子からは、ホロコーストの時代の1938年に開かれた国際エビアン会議で、ドイツなどからのユダヤ難民を受け入れる国がなかったということ、また、連合軍が、ドイツに勝利することを優先し、アウシュビッツで、日々6000人が殺されているのに、その救出を優先しなかったというような世界の態度を思い出させられる。

こういうことから、イスラエルは、最終的には、原則、自国の防衛は自国でするものという結論に至ったわけである。

イスラエルもロシア避難へ方向転換するか

イスラエルは、国連総会ではロシアへの非難決議に賛成票を投じた。しかし、イラン問題で、ロシアとの関係を維持しなければならないことから、これまでのところ、ウクライナへのめだった支援は行っていない。ゼレンスキー大統領は、イスラエルに、対ミサイルシステムの供与を要請したが、それも実施しなかった。

これまでのところ、イスラエルは、物資だけでなく、緊急医療チームを派遣するなど、世界でも早くに人的な人道支援を実施している。しかし、ゼレンスキー大統領としては、イスラエルにもっと軍事支援をしてほしいのである。

ゼレンスキー大統領は、自身もユダヤ人で、家族はホロコーストの犠牲者でもある。ゼレンスキー大統領は、全世界のユダヤ人に向けて、助けを要請する声明も出している。

blogs.timesofisrael.com/today-ukraine-is-israel-we-implore-jews-across-the-world-to-come-to-our-aid/

イスラエル国内でも、ベネット政権が、ウクライナに少なくとも表向きは沈黙を守っていることについて、政治家の間から、批判も噴出しはじめている。イスラエルには、多くのウクライナ出身者がおり、その家族がウクライナにいるという人が少なくないのである。

ベネット首相は、ゼレンスキー大統領だけでなく、プーチン大統領とも電話で複数回、会談している。先週には、ドイツのショルツ首相がイスラエルを来訪し、ベネット首相と会談。ベネット首相が、後で、プーチン大統領に、ショルツ首相からのメッセージを伝えたとの情報もある。

今のままの態度を明確にしないことが功を奏して、ベネット首相は、今の所、両方にアクセスがあるといえる。両者へのなんらかの影響力もあるとは思われるが、仲介というほどの働きにはまだなっていない。こうした中、イスラエルが態度を明確にしていないことに、アメリカが怒りを表明したとのこと。

イスラエルのテレビ、カンニュースによると、ここ数日の間に、ロシアが手を引くのか、今後も、市民への攻撃をエスカレートさせるのかを見極めた上で、イスラエルも明確に方向転換をするのではないかと伝えている。

www.timesofisrael.com/israel-said-likely-to-shift-to-more-pro-ukraine-stance-as-russian-invasion-escalates/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。