パレスチナ人へのワクチン接種開始も保留へ 2021.3.6

イスラエルでの労働に向かうパレスチナ人たち(夜明け前) スクリーンショット

イスラエルに出入りするパレスチナ労働者にワクチン

国際社会からは、イスラエルがワクチン計画の最先端をいっているのに、パレスチナ人へのワクチン接種は、かなり遅れているのはどういうわけかと非難が出ている。

イスラエルは、イスラエル国内で働くパレスチナ人12万人(8万7000人がイスラエル国内、3万5000人が西岸地区入植地)にワクチンを接種することを決め、4日、パイロットプログラムとして、シャアレイ・エフライムの検問所で、700人に接種を実施した。接種を担当したのは、COGAT(イスラエルのガザ・西岸地区協力コーディネーター)である。

その後、7日に、シャアーレイ・エフライムを含む7つの検問所で、本格的に接種を進める予定であった。しかし、6日、イスラエル政府はこれを保留にすると発表した。

問題は、資金の出所のようである。パレスチナ人への接種については、外部の感染予防系の団体からその費用の送金が入る予定になっているのだが、その出所に問題があると判断されたもよう。(はっきりとは報道されていない)

パレスチナ人の感染と複雑なワクチン接種状況

パレスチナ人は、東エルサレムに約37万人。西岸地区とガザ地区に約500万人いる。東エルサレムは、イスラエルが自国領土とみなしているので、東エルサレムのパレスチナ人は、イスラエル保健省からワクチンの接種を受けることができる

1)西岸地区

しかし、BBCが報じたところによると、東エルサレムにあるパレスチナ人の病院では、そこに住んでいる医師、看護師は接種をうけたが、西岸地区やガザからくるパレスチナ人の患者たちには、ワクチンの接種は行われていないという。

西岸地区は、パレスチナ自治政府の管轄であり、ガザ地区は、ハマスの管轄(パレスチナ自治政府も関与)なので、イスラエルのワクチンプログラムには入らないからである。

パレスチナ自治政府は、基本的にイスラエルからのワクチン供給を拒否した形で、ロシアのスプートニクなど4社と、70%の住民分をカバーする量の契約を終えている。しかし、実際の供給は、遅れに遅れており、2月、ようやく、ロシアから1万回分が届いただけである。

同じ頃、イスラエルが5000回を供給すると言ったが、実際には、2000回が供給されたにとどまった。パレスチナ自治政府は、このほか、国連のコバックスから、人口の20%をカバーするだけのワクチンが供給される予定になっているが、これもまだ届けられていない。

www.bbc.com/news/55800921

ニューヨークタイムスによると、これまでに届いたロシアのワクチン1万回分とイスラエルからの2000回分のワクチンのうち、2000回分はガザ地区へ。200回分は、ヨルダン政府のリクエストで、ヨルダン王室の法廷に回された。残りの9800回分の10%は、まず、パレスチナのサッカー選手たちと、案の定というか、パレスチナ自治政府高官やその護衛たち、PLO高官らに回されたとのこと。その残りの90%は医療従事者となっている。

しかし、その配分が不透明で、批判も出ていた。パレスチナ自治政府の汚職ぶりは、パレスチナ人たちももううんざりしているところである。

www.nytimes.com/2021/03/03/world/middleeast/Palestinians-Israel-vaccine-favoritism.html

jp.reuters.com/article/us-health-coronavirus-palestinians-vacci/palestinian-covid-19-vaccine-rollout-under-fire-over-doses-for-vips-idINKCN2AU2FZ

イスラエルが、供給に慎重なのは、ワクチンがもしかしたら、ハマスなどテロリストに先に回っていく可能性も否定できないからかもしれない。

なお、イスラエルが、どこまでパレスチナ人のワクチン接種の責任があるかについては、非常に難しい問題である。エデルステイン保健相は、オスロ合意(1995)によれば、パレスチナ人は、医療については、自分たちで責任を負うことになっていると説明している。

しかし、一方で、イスラエルとパレスチナ人は、実際には混じり合っているというのが現状である。イスラエル国内には、12万人が働きに来ているほか、西岸地区やガザ、またイスラエルに自由に出入りできる東エルサレム在住のパレスチナ人たちは、多くは、西岸地区に家族親族をもっており、常に行き来している。神殿の丘も、金曜ごとに1万人以上のパレスチナ人が、押し寄せているのである。

西岸地区のユダヤ人入植地の工場では、労働者のほとんどは、パレスチナ人である。防護壁をくぐって入ってくるパレスチナ人もいる。イスラエル人とパレスチナ人をくっきり分けるのは困難である。

ということは、イスラエル人のほとんどが、ワクチン接種を終えても、パレスチナ人が終えていなければ、再び感染が入ってくる可能性も出てくる。パレスチナ人のワクチン接種について、イスラエルは無関係ではいられないであろうが、かなり難しい問題である。

www.aljazeera.com/news/2021/2/22/gaza-starts-covid-19-inoculation-drive-amid-vaccine-shortage

2)ガザ地区

ガザ地区(人口約200万人)では、パレスチナ自治政府が送った2000回分が、2月17日、ようやくイスラエルとの国境から搬入された。これが最初のワクチンである。続いて、2月22日、ロシア製ワクチン(ロシアとUAEの支援)2万2000回分が届き、医療従事者が接種を受けた。

パレスチナ人の間で感染急増中

パレスチナ人の感染は、1月に一時下がっていたが、再び増加に転じており、1日の感染者は、12月のピーク時に近い、2000人近くになっている。死者は、1日に13−15人で、計2110人が死亡している。

ガザ地区の人口は、約200万人で、これまでの感染者は5万4400人。死者は543人。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。