パリ中東和平会議からトランプ新大統領就任へ 2017.1.20

いよいよトランプ大統領が就任する。これに先立つ1ヶ月の間、イスラエルでは、西岸地区入植地とエルサレムについて、様々な動きがあった。

<パリ中東和平会議>

昨年12月、国連安保理で、オバマ政権が拒否権を発動しなかったことでイスラエルに対する反入植地決議案2334が可決されたのに続いて、1月15日、パリで、フランス主導のイスラエル・パレスチナ問題に関する国際会議が開催された。

参加国は、退任直前のアメリカのケリー国務長官と72カ国の代表たち。当事国のイスラエルは欠席。パレスチナも招かれていないという当事者抜きの国際会議であった。

イスラエルは、この問題は、当事者であるイスラエルとパレスチナが直接話し合いを行い、エジプト、ヨルダン、サウジアラビアなど近隣中東諸国が関わるべきであり、欧米が当事者抜きで行う国際会議など無意味だと訴えた。

一方、パレスチナは、イスラエルといくら直接交渉しても、ラチがあかないので、国連はじめ、幅広い国際社会からプッシュしてもらうしかないと考えており、こうした国際社会の動きは歓迎する立場をとっていた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4907050,00.html

<何が決まったのか>

基本的には、昨年安保理で可決された反入植地決議案2334を、72カ国が確認、賛同したということである。

つまり、1967年(六日戦争)以後、イスラエルの主権下に入ったとイスラエルが主張する東エルサレムを含む西岸地区でのイスラエルの入植活動は、国際法上違法であるという認識で一致したということである。

また、72カ国は、今や風前のともしびと言われる二国家二民族案*こそが、あくまでも平和への道筋と再確認し、イスラエルとパレスチナ双方に話し合いへの圧力をかけた。国際社会は、今年中に再度、同様の会議を行うとしている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4907695,00.html

最大の問題はエルサレムである。安保理の決議、並びにパリでの会議によると、現在のエルサレムは、”違法な”東エルサレムを含んでいるため、そこをイスラエルの首都とすることは国際法上の違法とされる。

パリでの会議後の声明では、トランプ次期大統領が、米大使館をテルアビブからエルサレムに移動させると公約していることについて、実施するべきでないと表明した。この会議自体が、オバマ大統領のトランプ封じだとも言われている点である。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Analysis-If-the-US-Embassy-moves-to-Jerusalem-are-we-looking-at-a-new-intifada-478535

しかし、この会議は、国際社会の共通の認識をイスラエルにつきつけただけで、実際的な動きにつながることはない。

イスラエルにとっては、さらに孤立を深めた感はあるが、イスラエル紙によると、安保理では、イスラエルは国際法違反という犯罪的なイメージの言葉が使われていたのに対し、このカンファレンスでの声明では、一部表現が和らいでいたことから、イスラエルとしても、そのまま静観するという流れになっている。

<イスラエルはどうするのか?>

国連安保理ならびに、パリでの会議以後、さすがに国会でのRegulation Bill(西岸地区入植地を合法化する法案)の審議は行われていない。

しかし、Yネットによると、右派ユダヤの家党ベネット党首は、トランプ新大統領が就任すると同時に、エルサレム郊外の入植地マアレイ・アドミムを合併する審議を推し進める考えを表明している。

マアレイ・アドミムは、安保理がいう国際法上違法な、1967年以降にイスラエルが開拓した入植地である。エルサレムからわずか10分のところにある大きな入植地で、これを合併すると、エルサレムのアラブ人:ユダヤ人の人口比が圧倒的にユダヤ人に有利になる。

これまでからも合併が論じられてきたが、これをエルサレムに合併すると、地理的に西岸地区が2つに分断されることになるため、パレスチナ人たちは、「パレスチナ国家設立」への実質的な妨害だとして、激しく反発していたのであった。

ベネット投手は、トランプ新大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言し、西岸地区の入植地にも理解を示していることを受けて、逆にいまこそ西岸地区を合併に導くチャンスだと考えている。

トランプ氏の就任に先立ち、エルサレムのバルカット市長は、トランプ大統領の就任を歓迎するメッセージを発表した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/223522

一方、パレスチナ自治政府は、トランプ氏に、大使館をエルサレムに移動することは、”我々の赤線を超えることになる”と、明確な反発を表明している。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/223518

<トランプ新大統領はどう出る?>

明日就任するトランプ次期大統領は、次期駐イスラエル大使に、ユダヤ人入植地支援を行ってきたフリードマン氏を指名している。フリードマン氏を通して、トランプ氏自身も、過去に入植地ベテルに多額の支援を行っている。

エルサレムへの大使館移動については、今の所、具体的な手順は示していないが、トランプ氏は、「約束は忘れていない。」と言っている。しかし、歴代大統領でこの件を約束し、実現した大統領はいない。

オバマ大統領は、退任最後のメッセージで、エルサレムへの大使館移転問題を意識したと思われることにおいて、「一方的な行動をとれば、爆発する可能性がある。」と警告した。

国連安保理や国際社会の上記のような動きの中、就任後、トランプ氏が、エルサレムへの大使館移動の公約など、どのようにイスラエル問題に取り組むのか、就任演説からして、注目されるところである。

www.timesofisrael.com/trump-i-did-not-forget-jerusalem-embassy-move-pledge/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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