ハンスト・パレスチナ囚人問題で南北国境緊張 2015.8.21

緊急裁判なし収監に抗議して60日以上のハンガーストライキを行い、生命の危機に陥っているイスラム聖戦メンバー・モハンマド・アラアンを巡り、南北国境の治安にまで影響が及んでいる。状況は以下の通り。

1)シリアからミサイル・イスラエルが反撃

20日、ゴラン高原シリア側クネイトラから、ガリラヤ北部、ゴラン高原イスラエル領内に向けてミサイルが計4発撃ち込まれた。

幸い、ミサイルはすべて空き地に着弾したため被害はなかったが、イスラエルは直ちに空軍と砲撃隊も伴って、ゴラン高原のシリア側、アサド大統領支配下14カ所へ反撃を行った。

今回のミサイル攻撃について、イスラエル軍は流れ弾ではなく、イランの支援を受けたイスラム聖戦によるものとの見方を発表した。しかし、イスラム聖戦スポークスマンはこれを否定している。

イスラエル軍は、今回のミサイル攻撃に、イラン革命軍のアル・クッズ旅団が関係していると指摘。イランとシリアがイスラエルをシリアでの戦闘に巻き込もうとしている可能性があると言っている。

イスラエルへのミサイル攻撃にイランが関わっている可能性が高いことを受けて、イスラエルは、イランと核問題で最終合意に達した6カ国に対し、イランの経済制裁を緩和し、最終的に1000億ドル(約13兆円)がイランに入る事の危険性を、改めて訴えている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4692922,00.html

2)アシュドドとベエルシェバに迎撃ミサイル配備

モハンマド・アラアンの健康状況が悪化した場合、ガザのイスラム聖戦が攻撃してくるとの情報があるとして、20日、イスラエルはアシュドドと、ベエルシェバを守る迎撃ミサイルを配備したと発表した。

3)東エルサレムの暴動

エルサレムでも、モハンマド・アラアンをめぐる暴力的な抗議デモが発生している。パレスチナ人が投石するなどして、治安部隊と衝突。治安部隊も東エルサレムのパレスチナ人地区に一斉捜査を行い、多数を逮捕している。

<イスラエルの対処:モハンマド・アラアンは釈放へ>

ハンストのモハンマド・アラアンを巡って、南北国境が緊張していることを受けて、19日、イスラエルの最高裁は、モハンマド・アラアンの拘束を解除することを決めた。言い換えれば釈放である。

病院では、静脈栄養を開始。消化器官の回復をみながら経管栄養に切り替えて行くことになった。これにより、モハンマドの体力は回復しつつあるという。

モハンマドの健康状態については、メディアの間で混乱がみられる。一時、意識回復と報じられ、次には脳死状態と情報が錯綜している。様々な情報から推察すると、現在、モハンマドは集中治療室で、人工的な鎮静状態(意識なし)に置かれ、人工呼吸器につながれているとみられる。

すでに脳死になっているのか、このまま鎮静剤をやめれば意識が回復するのかは、まだ明らかではないが、今後、自発呼吸が可能であれば、呼吸器もはずす方向だと伝えられている。

最高裁が釈放との最終決断を出した後、モハンマドの家族は、囚人面会ではなく、ごく普通の病院訪問の形になっている。しかし、モハンマドの釈放を受け入れられないユダヤ人過激派の行動が懸念されるため、モハンマドの部屋には、警備員が配備されている。

*そもそもモハンマド・アラアンはなぜ逮捕されたか

アルーツ7によると、モハンマド・アラアンは、自爆テロリストを養成していたとの罪で2006年から2009年にもイスラエルの刑務所で服役していた。

今回も大規模なテロを計画していたとの情報に基づき、昨年11月に逮捕されていた。

公的治安閣僚のギラッド・エルダン氏は、「メディアも病院も、モハンマドがどれほど危険人物であったかを十分に報道していない。モハンマドを釈放すれば、今後テロと、刑務所でのハンストを助長することになる。」と危機感を訴えている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/199716#.VdaFvaUWnA8

<今回、何がおこったのか>

今回の流れをまとめると次のようになる。

モハンマドが、裁判なし逮捕に抗議して刑務所内で行ったハンストが60日を超え、生命の危機が懸念されるようになった。

イスラエル政府は、法整備を行った上、刑務所の医師に対し、強制的に食べされるよう命令したが、医師はこれを人権無視だとして拒否した。

しかし、モハンマドが意識不明の重体となると、釈放が決定し、その後は、本人の意志を確認できないまま静脈栄養を開始した、ということである。

病院側は、意思確認がなくても、栄養補給しなければ死亡したのであるから、釈放されたことでもあり、意識が回復したとしても、文句は言えないはずだと言っている。

脳死を疑われるまでの状況に陥ったことを考えると、今後テロ行為をする状況にまで回復するとは思えず、別の囚人が、同様のハンストを試みることも、そう簡単にはできないだろう。

イスラエルとしては不幸な中にも、とりあえずは最善ということになるのではないだろうか。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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