ハマス:封鎖解除ないなら停戦もなし 2014.7.24

国連事務総長、ケリー米国務長官とエジプトを中心に国際社会が、ガザでの紛争停戦に向かって努力している中、23日夜、ハマスのカリッド・マシャアル政治部門指導者が、カタールのドーハで記者会見を行った。

イスラエルが海上ならびに国境の封鎖を解除するまでは停戦に応じないという。マシャアル政治部門指導者は、国際社会が提唱するような、とりあえず停戦し、それから根本的な問題も含めて交渉をするといった停戦には応じられないと言っている。

まずは、イスラエルが次の条件を満たすなら、停戦を考えてもよい。その条件とは、①イスラエルの海上封鎖、並びに、国境封鎖を(永遠に)解除する。②イスラエルが、シャリート兵士と交換に釈放し、再逮捕した逮捕した者たちを釈放する。ただし、人道的休戦については全く拒否をするつもりはない。

つまり、「ハマスの要求を100%受け入れるなら、停戦してもよい。それ以外の停戦はありえない。」ということである。さらに、「なお、ハマスは、イスラエルにいるパレスチナ囚人すべてが解放されるまで、イスラエル兵の誘拐は継続する。」と付け加えている。

*ガザの封鎖とは?

ガザの封鎖については、複雑な経過がある。イスラエルは、2005年にガザから完全撤退し、国境は基本的に閉じた状態となった。2007年にハマスがライバル組織のファタハを武力で追い出し、ガザを制圧。時にイランから武器が密輸入されているのがわかってから、イスラエルは海上封鎖も始めた。

ガザには空港もないことから、ガザ地区は出口のない監獄だと言われるようになった。ガザでは、エジプトへの地下トンネルを掘って、物流を維持していた。トンネル暗黙の了解のような時代、エジプトのケンタッキーフライドチキンが、ガザへデリバリーされていたこともある。

その後、フロティーラ事件などで国際社会からも批判が相次ぎ、イスラエルは建築物資の搬入などを含め、段階的に、物流を許可するなどの交渉が行われてきた。この間、ガザに出入りするジャーナリストたちによると、ニュースとはうらはらに、イスラエルとガザの間でビジネスはけっこう行われていたもようである。

また、ガザとエジプトの国境は2010年に一部解放となり、トンネル産業に頼らなくてもよくなりはじめた時期もあった。しかし現在のシシ政権は、地下トンネルを積極的に破壊。ガザ地区は再び封鎖状態となった。

しかし、封鎖状態というが、今、これだけ本格的なイスラエル攻撃用のトンネルや、長距離ミサイルが倍増して登場しているということは、それらの資材や武器が、搬入できていたということである。

ガザ地区が、ハマスに支配されている限り、イスラエルが国境を開放するなどありえないと思われる。

<逆の反応。。。!?>

ところで、基本的にハマスと、日本を含む欧米の民主主義思想とは大きく違っていることを理解する必要がある。

民主主義的な思想であれば、市民の犠牲者の数と、破壊の大きさ、逆にイスラエルへの被害は比べられないほどに少ないことを考えれば、いくら不条理にみえても、とりあえず停戦を受け入れるだろう。しかし、ハマスは、逆に、イスラエルが封鎖を解くなら、停戦を考えてやってもよいという態度である。

人道的休戦は、ガザ市民のために行うものなのだが、ハマスは、まるで、休戦に応じてやってもよいといった態度である。イスラエルは約束した休戦期間は反撃せず、検問所から数百台の物資をのせたトラックを通過させ、搬入を行っている。

一方、ハマスは、その人道休戦の間もイスラエルにミサイルを撃ち込んでいる。だれのための休戦かと言いたいところである。

<ハマスの狙いは何か>

専門家の分析によると、ハマスが今、目標にしているのは、「イスラエルに対する勝利」のイメージを得ることである。

エジプトの新政権がハマスの母体であるムスリム同胞団を弾圧し、ハマスはいよいよ孤立している。生き残るためには、イスラエルに対して果敢に戦い、勝利を得るという組織本来の姿を世界に示さなければならない。

そこに市民の犠牲を最小限にするという視点はない。むしろ、目標の達成のためには、市民の犠牲は、増えた方が好都合なのである。

<実はハマスの方が目標を達成しつつある!?>

そういう意味では、ハマスは今のところ、目標を達成しつつある。その大きなできごとが、世界の航空会社が、ハマスのミサイルを恐れて、ベングリオン空港への乗り入れを停止したことである。イスラエルにとっては非情に悪いイメージ。また観光、経済への打撃にもなる。

これはハマスにとって大きなご褒美になってしまった。ハマスは「イスラエルがガザを封鎖するから、我々もイスラエルを封鎖した。これはイスラエルに対する勝利だ。」と言った。

ハマスのこうした態度と、イスラエルを訪問したケリー国務長官に、イスラエルが要請したとみられ、24日朝、米連邦航空局は、アメリカの各航空会社に発令したイスラエルへの運行禁止令を解除した。

しかし、いったん運行停止を決めたヨーロッパの航空会社が、アメリカに続いて運行を再開するかどうかはまだ不明である。大韓航空もまだ運行再開の動きはない。

また、世界の大都市では、反イスラエルデモが行われている。特にパリでは激しい暴動にまで発展し、深刻である。

オーストリアでは、ハイファのプロサッカーチームが練習試合を行っているところ、パレスチナの旗を掲げたデモ隊が競技場に乱闘。選手らに襲いかかった。選手らは、警察に守られて控え室に戻ったが、デモ隊の一人は、ナイフをもっていたという。

また、特に過激でなく、また反ユダヤ主義者でもない普通の市民が、「イスラエルのガザへの攻撃を見ていられない。」とデモに参加するようになっている。

東京でも、18日、イスラエル大使館前で、300人が反イスラエルデモが行っている。 http://www.asahi.com/articles/ASG7L4JF3G7LUTIL02B.html

さらに懸念されることは、イスラエル国内ともいえる近場の西岸地区では、少年誘拐殺人事件に加えて、ガザ地区市民への同情から反イスラエル感情がさらに高まっている。入植地周辺では毎夜パレスチナ人と治安部隊が衝突しているが、悪化して来ているという。(ベテル住民情報)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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