ハマスとの交渉保留へ:政権交代の可能性受け 2021.6.7

上2人は戦死後、遺体がハマスの手にあるハダール・ゴールディンさん(左)、オロン・サウルさん、下段が捕虜になっているヒシャム・アル・サイードさん(左)とアベラ・メンギズさん

別ラインで捕虜交換の交渉か

ハマスとイスラエルは、11日の戦闘後、エジプトを介しての間接的な交渉を水面化で始めている。戦後処理については、エジプトが、ハマス、パレスチナ自治政府、イスラエルをカイロに招待して、交渉を行うと言っている。

6日には、アシュケナジ外相がカイロを訪問したとのことだが、まだ大きな動きは報じられていない。

この交渉に、イスラエルは、ガザに捉えられたままになっているイスラエル人2人とイスラエル兵2人の遺体を取り戻すことを含めていると伝えられており、この件については、両者の間になんらかの交渉が行われているとみられる。

これについて、ハマスは、戦後処理の交渉とは別ものと条件付けた形で、イスラエルとの交渉を行っていたもようである。

この交渉において、ハマスは、イスラエルの刑務所にいるハマスメンバーの返還を求めているが、その数は1000人を超えている可能性もあり、イスラエルが到底受け入れるものではなさそうである。

しかし、今、これについても、イスラエルで政権が交代する可能性が出てきたとして、両者の交渉が、保留になったとのこと。(すべてが水面化なのでおおまかな情報しかない)

ハマスとの捕虜交換による痛み

イスラエルは、2011年、ネタニヤフ首相の決断で、ガザで捕虜となっていたイスラエル兵、ギラッド・シャリートさんを取り戻すために、パレスチナ人テロリスト1027人を釈放したことがある。

その中の一人が、今現在、ハマスを指導しており、交渉にも出てきているヤヒヤ・シンワルである。シンワルは、イスラエル人を殺したことにより、終身刑で受刑中であったところ、シャリートさんとの交換の一人として釈放されていた。

イスラエルは今、そのシンワルに、捕虜交換としてさらなるパレスチナ人テロリストの釈放を求められているということである。これは一例で、シャリートさんの帰国は喜ばしいことではあったが、後に釈放した1027人によるテロでイスラエルは多きな被害を受けた。

このため、今では、こうした捕虜交換がタブー視される傾向にある。さらに今、取り返すべきイスラエル人2人は、ハマスに拉致されたわけではなく、精神的な病であったとはいえ、自らガザへ入った人でもあった。人権を重視するイスラエルだが、政府の対応は難しいといえる。

しかし、2014年のガザとの戦争で戦死し、そのままハマスの捕虜になっているイスラエル兵、オロン・サウルさん、ハダール・ゴールディンさんの両親たちは、息子の遺体の返還を求め続けており、政府はこれを軽んじることはできない。

ハマスは6日、かつて、ガザで捕虜にしていたシャリートさんの当時の映像と、今ガザで捉えられた状態の2人のイスラエル人の声の録音を送りつけてきた。しかし、総じて、イスラエルが、ハマスの要求通り、テロリストをハマスに変換することはほぼないとみられている。

*ガザで捕虜になっている2人について

ガザに捉えられているイスラエル人は、1人は、アシュケロン在住エチオピア系移住者のアベラ・メンギツさん(当時30)家庭は非常に貧しく、仕事にも恵まれず、イスラエル軍からは従軍不適格とさるという悲惨な人生を歩み、そのうち精神を病んでいた人であった。

メンギズさんは、2014年、兄が死亡してから精神状態がさらに悪化。2014年、自らフェンスを乗り越えて、ガザへ入り込み、身柄を拘束された。

もう一人は、ネゲブ在住のベドウイン、ヒシャム・アル・サイードさん(当時29)。こちらも超貧しい家庭である。ヒシャムさんも精神的な病で、徘徊歴がある中、2015年からガザに迷い込んだとみられている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。