ネタニヤフ首相から世界に向けて 2021.5.22

停戦直後:イスラエルから世界へのメッセージ

国際社会では、イスラエルに対する否定的な感情が広がり、各地で反ユダヤ主義暴力が深刻になっている。国際社会の理解を得ることが急務である。

しかし、それは、いわば「まだ鉄が熱いうちに」でなければならない。この戦闘はハマスというテロ組織がはじめたものであり、イスラエルがはじめたものではない。民主国家としてのイスラエルは、国家として当然の防衛をしたのだということを知ってもらわなければならない。その上で、パレスチナ人との新たな関係再建を進めていく必要がある。

しかし、そのチャンスは、時間が経つほどに、失われていく。停戦当日の午後、ネタニヤフ首相は、YouTubeを経由して、テルアビブの防衛庁から全世界にむけて以下のようなメッセージを発した。今回は、特に、アメリカがイスラエルの自衛権を認めたことが、イスラエルにとっては、大きな支えとなっている。ネタニヤフ首相はこのメッセージの中でも、アメリカへの感謝を述べている。

*アメリカ国民のバイデン大統領への支持(Times of Israel記事より)

アメリカでは、2国家共存案を支持する中で、イスラエルの自衛権を支持するバイデン大統領の今回の紛争への対処を評価している有権者は56%だという。18―34歳の若年者にいたっては81%にのぼっていたとのこと。民主党員の80%、共和党員の77%は、バイデン大統領の今回のガザ問題への対策を評価していると答えいた。

ニューヨークやロサンゼルスで、反ユダヤ主義暴力が発生する中、ちょっと混乱するような数字ではあるが、国としての方針はバイデン大統領が指し示したように、イスラエルの自衛権を認めるとの方針であるということである。

www.timesofisrael.com/81-of-young-americans-back-bidens-response-to-gaza-violence-poll-finds/

以下はネタニヤフ首相のメッセージ(翻訳は筆者によるもので公式ではないため、イスラエル首相府からの公式の英文を続けて掲載しています。)

この戦いはイスラエルが始めたのではありません。テロ組織にハマスが、挑発的な形でロケット弾を4000発を、多くの都市と私たちの首都にまで撃ち込んできました。このような犯罪行為を受けて、なにもしないでいる国はないでしょう。イスラエルもそうです。

しかし、私たちの戦いは通常とは違っていました。地上で最も人口が密集している地域で、その市民たちの間にいるテロリストとの戦いだったのです。彼らは、自分たちの側の市民を盾にしながら、私たちの市民の上にロケット弾を撃ち込んできました。

私たちはあらゆる手を尽くして、武装勢力でない市民たちを巻き添えにしないようにしながら、私たちの市民を殺そうとする武装勢力を攻撃しました。

亡くなった全ての命には遺憾を覚えます。しかし、断固として言えることは、イスラエル軍ほど道徳的に行動する軍は、世界中、他にないということです。

長年の友であるバイデン大統領に感謝を申し上げます。大統領は、この戦いの間ずっと、イスラエルと共に立ってくださいました。バイデン大統領は、明確に、そして直接的に、アメリカはイスラエルの自衛権を支持すると言ってくださいました。

またバイデン大統領は、イスラエルに迎撃ミサイルを補充すると言ってくださいました。これはイスラエル人、同時にパレスチナ人の命を守るために欠かせないものです。アイアンドームがなかったら、ミサイル発射を止めるために、地上戦をしなければならなかったでしょう。そうなると、犠牲者の数は天にも届くほどになっていたかもしれません。

だからバイデン大統領、あなたに感謝します。またイスラエルとともに立ってくださった全ての国の指導者の方々に感謝します。この方々は、命を重要視する民主主義と、死に栄光を帰すテロ組織との違いを明白に認識されたのです。その違いと民主主義への支持は、世界全体の未来に通じる重要な点だと思います。

“Israel didn’t initiate this conflict. We were attacked in an unprovoked manner by the Hamas terrorist organization that fired four thousand rockets into our capital and into our cities. No country will sit aside when it’s attacked in such a criminal fashion. Israel is no different.

But we did do something different. We were fighting terrorists who are hiding among civilians in one of the most densely populated places on earth. They were firing rockets on our civilians while using their civilians as human shields. We did everything in our power to prevent civilian casualties, unnecessary casualties of non-combatants, while trying to attack the combatants who are trying to murder our citizens. We regret every loss of life, but I can tell you categorically, there is no army in the world that acts in a more moral fashion than the army of Israel.

I want to thank President Joe Biden, a friend of many years, who stood by Israel throughout this conflict. He expressed clearly, unreservedly, America’s support for Israel’s right of self-defense. And I am also grateful to President Biden for offering to help replenish our stocks of missile interceptors. That’s so important to saving Israeli lives, and coincidentally, Palestinian lives. Without Iron Dome, we would have had to have a ground invasion of Gaza to stop them firing their missiles and the casualty list would have soared to stratospheric heights.

So thank you, President Biden, and thank you too for the many leaders around the world who have stood by Israel. They know how to distinguish so clearly between a democracy that cherishes life and a terrorist organization that glorifies death. I think that distinction and that support is crucial for our common future. Thank you”.

*停戦前に70カ国外交関係者にネタニヤフ首相が伝えた説明

このメッセージに先立ち、ネタニヤフ首相は、まだ停戦に入る前から、駐イスラエル大使や、各国外交関係者70人をテルアビブの防衛省に招いて、なぜこの紛争が発生したのか、イスラエルがガザで行っているのは何かを詳細に説明し、単純にガザの市民を無差別に攻撃しているのではないということを示していた。

石のひとりごと

ネタニヤフの停戦後の世界に向けたメッセージ。停戦からまだ数時間後のことである。国を代表して、時を逸することなく、国際社会に理解を求めようとする姿。パレスチナ人たちが、通りで勝利宣言をするのに対し、一国の首相として、公式のコメントをだしたということである。

確かに、ネタニヤフ首相には、私たちが知らないような課題や罪があるのかもしれない。彼をよく思わないイスラエル人はけっこう多い。

しかし、それでも彼の祖国イスラエルに対する熱心と首相としての自覚は相当あると思わされる。常に手探りで、間違うことはある。しかし、常にその時に考えうる最善を尽くしているようにみえるし、できることは全て実行する。

祖国を信じ、祖国の軍を信じる。そして置かれた首相という立場で、あらゆる責任を追う覚悟が見えると思うのである。

今、イスラエルでは、新たな政府に交代する可能性はなくなったとの見方が優勢だ。神が見ているのは、本気の心だということを改めて思わされている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。