ネタニヤフ首相復帰:第37新強硬右派政権発足 2022.12.31

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第37ネタニヤフ政権発足

国内外に物議をかもし続けている、イスラエル史上最も強硬右派的な第37ネタニヤフ政権が、29日、国会の承認(賛成64、反対54)を得て、正式に就任となった。首相復帰を果たしたネタニヤフ首相(73)にとっては、6回目の政権となる。イスラエル史上最長の首相として、今、その期間を延長することになる。

新ネタニヤフ政権のメンバーは、女性5人を含む総勢30人。うち閣僚は17人で女性は1人のみ。ネタニヤフ首相のリクードを中心に、右派と宗教派の3党、ユダヤ教超正統派政党のメンバーからなる政府である。

防衛相、外務相など最重要閣僚はすべてリクードで固めている。しかし、問題は、その他の党である。

強硬右派政党である宗教シオニズム党のスモルトリッチ氏には、防衛相内部に防衛相と同等ほど力を持つで、特に西岸地区で、これまでになかったような権力が与えられている。

また、極右2党のうち、ベン・グビール氏には、国家治安相という新しいポジションで、警察を管理する形で、西岸地区の国境警備隊が、イスラエル軍からグビール氏の下に入ることになる。これにより、イスラエルの西岸地区での防衛体制が大きく変わってくる可能性がある。

またもう一つの極右政党ノアム党は、LGBTQを認めないことを全面に出している政党だが、その党首マオズ氏に、イスラエルのアイデンティティに関することを任せる部署で、教育を監視する部署での権限を与えた。

こうした配置を可能にするために、さまざまな新法律を国会で審議したが、ネタニヤフ陣営は、国会過半数なのでどれも通過したため、このこれまでになかったような強硬右派政権が誕生したということである。

さらに国会議長には、リクードのアミール・オハナ氏(46)を指名した。オハナ氏は、ゲイ(同性愛者)であることを公にしている議員である。イスラエルで、ゲイであって国会議長を務めるのは、オハナ氏が初めてである。

新政府がLGBTQに反対するわけではないと強調したかったのかもしれないが、全体的にみれば、やはり、イスラエルが右派ユダヤ教、ファシストに向かうと懸念されてもおかしくはない体勢といえるだろう。

1)リクード

防衛相 ヨアブ・ギャラント氏(64):元IDF参謀総長
外務相 エリ・コーヘン氏(50):元経済、諜報相、ローテーションでイスラエル・カッツ氏と交代予定
法務相 ヤアリブ・レビン氏(53):新政権発足前に臨時国会議長と務めた
教育相 ヨアブ・キッシュ氏(54):前副保健相
コミュニケーション相 シュロモー・カルヒ氏(40):過激発言人物
経産相 ニール・バルカット氏(63):元エルサレム市長
交通相 ミリ・レゲブ氏(57):前文化スポーツ相、女性閣僚
観光相 ハイム・カッツ氏(75):元労働相
イノベーション・化学技術相 オフィル・アクニス氏(49):元地域協力担当相、イノベーション相、労働相
農産相 アビ・ディッチャー氏(70):元国内治安相
ディアスポラ相 アミハイ・チクリ氏(41):ヤミナ党(ベネット前首相)が左派と組んだ時点で、政党から離脱した右派政治家
文化・スポーツ相 ミキ・ゾハル氏(42):前副国会議長
環境相 イディット・シルマン氏(42):チクリ氏と同様、ヤミナ党から離脱し、その崩壊の一因となった右派政治家
エネルギー相 イスラエル・カッツ氏(67):元外相、経済相 ネタニヤフ政権ではベテラン
諜報相 ギラ・ガマリエル氏(48):元社会平等環境保全相

2)シャス(超正統派政党)

内務相・保健相 アリエ・デリ氏(63):副首相も兼任、また2年のローテーションで経済相のベツァレル・スモルトリッチ氏と交代予定 収賄と脱税で2回検挙
厚生相 ヤアコブ・マージ氏(62):元宗教相
厚生相(内部)ヨアブ・ベン・ツール氏(64):複数の閣僚で副のポジションを務めてきた
宗教相 ミハエル・マルキエリ氏(40):初内閣入り
教育相(内部)ハイム・ビトン氏(44):初内閣入り

3)宗教シオニズム党

経済相、防衛相(内部) ベツァルエル・スモルトリッチ氏(42):西岸地区入植地担当(西岸地区支配地拡大支持者)
国家使命相(新部署) オリット・ストロック氏(62):西岸地区入植地や従軍前教育、文化などイスラエルのIDに関する問題に関わる部署
移民相 オフィル・ソーファー氏(47):初閣僚入り

4)統一トーラー・ユダヤ教政党

住宅相 イツハク・ゴールドノフ氏(72)
エルサレムと伝統相(エルサレムと遺産省からの新しい省庁)メイール・ポウラシュ氏(67)

5)オズマ・ヤフディ党(極右として知られる政党)

国家治安相 イタマル・ベン・グビール氏(46)

この省庁は、公安庁から創設された新しい省庁で、警視庁の中で、国境警備隊を総括する。その中には現在は、イスラエル軍の指揮下にある国境警備隊西岸地区担当も含まれている。これほどの権限を、極右政治家で、極端な言動、暴力も含み逮捕歴が何度もある人物が任せられることに国内外で大きな懸念が噴き出している。

ネゲブとガリラヤ地方開発相 イツハク・ワサーローフ氏(30)

今回最年少閣僚で、ベン・グビール氏の右腕とのこと。ネゲブはベドウイン問題、ガリラヤ地方にはアラブ人も多く住む地域である。

遺産相 アミハイ・エリヤフ氏(43) 初入閣のラビでツファットの著明なラビの息子

6)ノアム党(極右、反LGBTQ派として知られる政党)

首相府内副閣僚(ユダヤ国家アイデンティティ担当) アビ・マオズ氏(66)

マオズ氏は、ユダヤ人の国というアイデンティティを維持するということで、教育システムを監視しする。これまでは、教育省が仕切っていた分野である。

7)政党外指名

戦略相 ロン・デーマー氏(51) 在米イスラエル大使を7年間務め、アブラハム合意を実現に導いた一人。外交官であり議員ではない。

www.timesofisrael.com/whos-who-in-the-new-netanyahu-led-government/

新政権3つの目標:ネタニヤフ首相

就任にあたり、ネタニヤフ首相は、新政権の3つの目標を以下のように挙げた。①イランの核兵器開発を止め、イスラエルと世界の安全を守る。②国内の治安を回復する。③近隣諸国との関係回復を拡大する。

以下は第一回目の閣議の様子:イスラエルを守る治安維持を強調するネタニヤフ氏

国内での反発:国会前デモも

1) 筆頭野党ラピード前首相:これまで積み上げたものを壊さないように

ネタニヤフ首相が国会で、講談に挙がると、国会野党席からは、継続したブーイングが叫ばれた。アラブ人議員など退出する議員も多かった。

これからは、筆頭野党党首になる、ヤイル・ラピード前首相は、前政権が、国際社会とイランが核合意に達するのを阻止したこと、アブラハム合意にモロッコとバーレーンが加わったこと、サウジアラビアがアブラハム合意に参加する足固めを行ったことなどを前政権の功績として強調。新政権には、それらを破壊しないようにしてほしいと訴えた。

www.timesofisrael.com/netanyahu-presents-new-governments-agenda-lapid-try-not-to-destroy-the-country/

2) ヘルツォグ大統領:全市民を代表してもらいたい

ヘルツォグ大統領は、IDF関連のイベントでの挨拶で、新ネタニヤフ政権に対し、強硬右派であることに懸念を表明。全市民を代表するように要請するとともに、イスラエルが民主主義国家であることはゆるがないとも語った。

www.timesofisrael.com/as-hard-right-takes-power-president-urges-worried-israelis-dont-say-nation-doomed/

3) 国会前とテルアビブで市民デモ

新ネタニヤフ政権を承認するかどうかの論議と採択が行われていた時、国会の外では、約3000に人が、強硬右派政権の就任に反対するデモを行った。

エルサレムでは、現在、収賄容疑で、刑事裁判中にあるネタニヤフ首相が、今の立場を利用して、無罪放免になるのではないかとの反発を訴える人もいた。

www.timesofisrael.com/netanyahu-presents-new-governments-agenda-lapid-try-not-to-destroy-the-country/

夕方になると、テルアビブで、特に反LGBTQの政府に反発するデモ隊が、アヤロンハイウェイに出て、車の通行を止めるデモを行った。

www.jpost.com/israel-news/politics-and-diplomacy/article-726106

www.timesofisrael.com/hundreds-protest-incoming-coalition-outside-knesset-as-government-sworn-in/

4)西岸地区でパレスチナ人もデモ

西岸地区、ガザ地区では、パレスチナ人たちが、新政権が入植地を拡大する可能性が高いとしてデモを行った。道路いっぱいになるほどの人々である。

石のひとりごと

ついにネタニヤフ首相がカムバックした。しかし、国内外からもなかなか強力な反発が出ている。

今から数週間後、意外にいい動きをしているというような評価になればよいのだが、現時点では、どう考えても、懸念の方が大きいといえるだろう。

そんな人々の声をネタニヤフ首相は、全くいっさい気にしていないようにみえる。確かなことは、“みなさんの声を聞く”という、日本の岸田首相の姿勢では、イスラエルの首相はやっていけないということである。

新政権は、強硬右派や、極右までもが加わる政府だが、ネタニヤフ氏は、イスラエルという国のために、その天才的したたかさをもって、それらをもうまく使いこなすのではないかとも思う。いや、そう願いたい。

2023年、世界はいったいどこへむかっていくだろうか、だれにもわからない。元旦を前に、イスラエルに発足した新しい政権。聖書的に言うなら新しい王が立ち上がったというところか。意外性の強い、新ネタニヤフ政権が、2023ねん、イスラエルにとって、世界にとって、常に最善の判断、導きをしていくように祈る。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。