トランプ新大統領10日目:火花が中東へ 2017.1.30

トランプ大統領が就任して10日になる。以来、メキシコの壁、TPP離脱など世界中がトランプ新大統領の一挙一動に振り回されている。

特に今は、中東・アフリカ7国からの、イスラム系移民者を締め出す政策を打ち出し、アメリカのみならず、世界中に混乱が広がり始めた。特にアメリカには多数のイラン人が住んでいるため、アメリカとイランの関係に大きなひびが入り始めている。

加えてトランプ大統領は、ISISを30日以内に撲滅すると宣言。イスラム過激派を撃滅するとして、すでにイエメンでのアルカイダ系武装組織の攻撃に乗り出し、市民を含む死者は57人に上っているという。

www.bbc.com/news/world-middle-east-38787239

こうした中、イスラエルは、親イスラエルと目されるトランプ大統領の就任とともに、西岸地区入植地でユダヤ人家屋の建設を促進し、エルサレム、西岸地区の合併に近づく動きを見せて、イスラム社会からの反発を買うようになっている。

今後、イスラエルは、”強い”トランプ政権に守られるのか、逆にアメリカとともにこれまで以上に憎まれる存在になるのか・・・。

かなり早いペースでトランプ大統領が動いているので、配信が間に合っていない状況だが、まずは、イスラエルに関係するニュースから、全体像をまとめてみる。

<イスラエル入植地関連>

1)東エルサレム・西岸地区入植地での建設拡大へ

トランプ大統領が就任後、イスラエルで真っ先に動いたのは、西岸地区入植地の合法化案(Regulation Bill)を国会ですすめている右派ユダヤの家党のベネット党首だった。

ベネット党首は、エルサレム郊外にあり、1967年ラインよりパレスチナ側にあるユダヤ人入植地マアレイ・アドミムのエルサレム市への合併、続いて西岸地区のC地区(ユダヤ人入植地)をイスラエル領として合併する案を早急に進めると主張した。

この法案は、将来的にイスラエルが、東エルサレムと西岸地区を合併してしまう可能性を含んでおり、二国家二民族(国を2つに分ける案)を事実上、不可能にしてしまうとして、問題視されている案である。

ネタニヤフ首相は正式には、二国家二民族を支持する立場をとっているため、治安閣議(ベネット党首含む)は、この法案に関する審議は、トランプ大統領との直接会談が終わるまでは延期するとの決断を出した。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Bennett-We-will-annex-Maaleh-Adumim-first-and-then-the-rest-of-Area-C-477236

この後の22日、トランプ大統領とネタニヤフ首相は、電話会談(30分以内)を行った。トランプ大統領は、2月中にもネタニヤフ首相を、ワシントンへ招くとのことだが、日程はまだ未定。両者は、軍事諜報を含む関係を強化することで一致したと伝えられている。

www.jpost.com/Israel-News/Benjamin-Netanyahu/Netanyahu-Trump-have-first-phone-call-479287

この直後からイスラエル政府は、東エルサレムにユダヤ人家屋566軒、続いいて西岸地区に2500軒の建築承認を次々に発表した。

詳細は、東エルサレムのギブアット・ゼエブに652軒、マアレイ・アドミムに102軒、ハル・ギロに4軒。西岸地区最大の入植地ですでに「市」となっているアリエルに899軒。その他、西岸地区の入植地6つ、となっている。

また、エルサレムとベツレヘムの中間にあり、テロが頻発するエチオン・ブロックと呼ばれる入植地についても、ネタニヤフ首相とリーバーマン防衛相が合意して、エフラタに21軒、ベイタル・イリットに87軒、承認が出された。

さらには、ラマラ近郊にあるベテルにも20軒の承認が出された。

これらは、オバマ政権時代に建設にブレーキがかけられていた地域で、いわばそれが解禁になったような形である。ただし、これらはほとんどが既存の入植地内部での建築許可であり、入植地を拡大したというわけではない。

www.timesofisrael.com/after-pm-talks-to-trump-israel-okays-2500-new-settlement-homes/

2)大エルサレム構想!?

トランプ大統領就任後、交通相と情報相を兼ねるイスラエル・カッツ氏は、”イスラエル主導案”として、アメリカに打ち出していく案を治安閣議に提出した。親イスラエルと目される大統領の誕生で、チャンスを最大限利用しようというものである。

内容は、エルサレム市拡大、新西壁鉄道駅、ヨルダンに続く鉄道、ガザ沖人口島建設などとなっている。

①エルサレム市メトロポリタン化案

エルサレム近郊で、1967年ラインによるとパレスチナ側になる入植地(マアレイ・アドミム、ギブアット・ゼエブ、グッシュ・エチオンなど)が、現在、中途半端な位置に置かれているとして、これらをエルサレム市に含めて、正式にイスラエルの法律を適応し、エルサレム市のサービスが届くようにするという計画である。

これらの地域は、ロンドンやパリも有しているような郊外区としてある程度の自治をもちながら、エルサレム市の一部とみなされる形である。現在、東エルサレムのアラブ人地区がすでにその形をとっている。

これにより、エルサレム市は実質拡大することになり、今は30%以上がアラブ人というエルサレムの人口比が変わり、エルサレムがユダヤ人の町という色彩が強くなる。

②西壁鉄道駅案

イスラエルは現在、テルアビブとエルサレムをつなぐ高速鉄道を建設中だが、その経路をエルサレム旧市街まで引き延ばして、西壁駅を作る案。旧市街自体が、1967年ラインよりパレスチナ側にあることから、問題になりうる。

www.timesofisrael.com/israel-advances-western-wall-train-plan/

③ヨルダンと鉄道で直結案

地中海のハイファ港と、内陸ヨルダンをつなぐ鉄道を建設し、貿易を促進する。

④ガザ沖人口島建設案

ガザ沖に人口島を建設し、淡水化工場、発電所を建設する他、ガザと世界を結ぶ接点とする。これにより、イスラエルの治安が守りやすくなる。

以上は単に案で、実施されるかどうかは不明だが、親イスラエルと目されるトランプ大統領がいるうちに、一気に、地域の主導権をかためてしまおうというイスラエルの思惑がうかがえる。

3)国連安保理は沈黙

上記のように、”調子に乗っている”ようなイスラエルの動きに対し、パレスチナ自治政府は、トランプ政権に対処を期待するとの声明を出したが、トランプ政権は当然、無反応だった。*トランプ氏自身親入植地派と目されている。

トランプ大統領就任後で、新しい米国連大使ニキ・ハーレイ氏が就任後に開かれた国連安保理では、先月、厳しい反イスラエル入植地決議を出したばかりであるのに、今回は、何の対応も打ち出さないまま、閉会となった。

パレスチナの国連代表リヤド・マンソール氏は、「イスラエルの動きは、国連安保理の決議2334をまったく無視したものであり、それを止めるのが安保理の責任だ。」と主張した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4913116,00.html

パレスチナ自治政府のアッバス議長は来月2月7日、パリのオーランド大統領を訪問し、今月15日に、フランス主導で、70カ国以上が集まって安保理決議2334に合意確認したことについて、話し合うことになっている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Abbas-Hollande-to-meet-to-continue-work-of-Paris-peace-conference-479714

<エルサレムへの米大使館移動関連>

トランプ大統領は、就任後すぐにでも米大使館をエルサレムへ移動することを公約にあげていた。しかしながら、これについてトランプ大統領は就任後、「それについて語るのは、今は時期早尚だ。」と言い、公約とは違い、すぐには実現しそうにない流れとなっている。

www.jpost.com/American-Politics/Trump-Too-early-to-discuss-moving-US-embassy-to-Jerusalem-479764

米大使館ついては、西側指導者らも、「実施すると爆弾を踏むことになる。」と警告を発している。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、もしアメリカが大使館を移動するなら「イスラエルを認める」とする基本合意を撤回すると言っている。つまり、オスロ合意の破棄であり、戦争への一歩になるということである。ヨルダンのアブダラ国王も、「赤線を超えることになる。」と言っている。

<パレスチナ人テロ頻発>

トランプ大統領就任に関係があるかどうかは不明だが、ここしばらく、ガザ地区からの銃撃や、西岸地区内では、走行車両への銃撃や車で突っ込むといったテロが頻発している。幸い、市民に死者や負傷者はない。

イスラエル軍は、情報が入るたびに西岸地区で、テログループの摘発を行っている。先週木曜には、西岸地区ジェニンの難民キャンプで、ハマス関係者8人が逮捕され、ここで武器製造機器が押収された。この時イスラエル軍兵士1人が負傷した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4913178,00.html

土曜夜には、その同じジェニンへ、テロリストの摘発に突入したイスラエル軍に対し、パレスチナ人らが、爆発物を投げつけて抵抗した。イスラエル軍の反撃で、パレスチナ人1人(19)が死亡した。死亡したパレスチナ人は上記逮捕者8人と親戚関係にあったという。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4914285,00.html

しかしながら、一般のパレスチナ人たちがそこまでの戦闘意識を持っているかどうかは不明というのが、イスラエル軍に調べからする見方でもある。

ガザでは電力不足で反ハマス・デモが発生した。(前回オリーブ山便り参照)普通の市民たちは、とにもかくにも日々の生活が安定していれば、それが最善なのかもしれない。

www.timesofisrael.com/trump-too-early-to-talk-of-moving-embassy-to-jerusalem/

*バス横転事故でユダヤ人を助けたパレスチナ人家族

パレスチナ人といえば、テロのイメージがあるが、全員がテロリストではない。

イスラエルでは、先週木曜夜、西岸地区の入植地近郊で、ユダヤ人のバス会社エゲッド(公共交通機関)のバスが谷間へ落下横転し、2人が死亡、多数が負傷という大事故が発生した。

この時、事故を最初に発見し、警察に通報したのはパレスチナ人家族だった。最初に現場に到着した救助隊によると、このパレスチナ人家族は、大雨で寒い中、パジャマのまま、事故現場にかけつけ、犠牲者の救出をしていたという。

パレスチナ人でもユダヤ人の命を助けるために必死になれる人もいるということを忘れてはならない。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4913959,00.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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