テルアビブでのテロ犠牲者3人に:過越前の悲しい葬儀 2022.4.11

People light candles at the site of Thursday night's shooting attack, in Tel Aviv, Israel, Friday, April 8, 2022. Israeli security forces early Friday hunted down and killed a Palestinian man who had opened fire into a crowded bar in central Tel Aviv, killing two and wounding over 10 in an attack that caused scenes of mass panic in the heart of the bustling city on Thursday night. (AP Photo/Oded Balilty)

愛する人・日常と将来を奪われた3つの家族

7日夜、厳戒態勢をかいくぐって発生したテルアビブ中心地でのテロの犠牲者は、現場で死亡した2人に加えて、重傷者の1人が死亡して3人になった。10日、それぞれの葬儀が行われた。15日の過越の前に家族親族を深すぎる悲しみに突き落としている。

犠牲者のトメル・モラッドさん(28)とエイタン・マギニさん(27)は、幼馴染で、ともにテルアビブ大学で学んだ友人だった。この日、一緒にビールを飲んでいて、テロの犠牲となった。

エイタンさん(写真中央)は、先月、アヤラさんと婚約し、ともにテルアビブに引っ越して、結婚式の具体的な準備を始めたところだったという。

10日、アヤラさんは、結婚式ではなく、エイタンさんの葬儀の場に立たなければならなかった。アヤラさんは、涙で「あなたは私にとってすべてだった」と言い、まだ現実が実感できておらず、今も一緒にいるようで、体から力が抜けている感じを語っている。

トメルさん(写真左)は、テルアビブ大学4年生で、最近、新しい職場での仕事を始めたところだった。ユーモアがあり、軍隊では人気ある司令官だったという。友人たちは、「これからたくさんの計画があったのに」と語っている。トメルさんとエイタンさんは、それぞれ実家のあるクファル・サバで葬られた。

3人目の犠牲者、搬送先で死亡したバラック・ルーハンさん(35)は、キブツ・ギノサレの出身で、事件の夜は、このバーで、キブツの仲間たちと会っていて被災した。2008年のオリンピックでカヤックの選手として出場していた人だった。ルハンさんは、妻と3人の幼い子供たちが後に残された。

www.timesofisrael.com/my-anchor-my-world-victims-of-tel-aviv-terror-attack-laid-to-rest/

今回被災したバー、イルカのオーナーは3人で、数百メートル近くにもう一軒バーを経営しており、そのバーは2016年にテロの被害で2人が死亡していたとのこと。現場には、事件の翌日から多くの人が追悼に来ていた。

西岸地区への踏み込み捜索:テロリスト父と兄弟は逃避

テルアビブでのテロの後、イスラエル軍は、ジェニン難民キャンプ方面へ、犯人ラアード・ハゼムの父親と兄弟の捜索・逮捕に向かった。ハゼムの父息子は、パレスチナ自治政府治安部隊の指導的立場にある者たちで、息子のテロ行為を称賛する声明を出していた。

一家は車で逃げようとしており、途中でイスラエル軍の発砲を受けたが、そのまま逃げたとのこと。

www.timesofisrael.com/tel-aviv-terrorists-family-members-escape-after-idf-fires-at-their-car-near-jenin/

西岸地区防護壁強化へ:テロ関係者への社会保障見直し

ベネット首相は、テロで負傷した人々を病院に訪問。警備体制を高めることと、西岸地区でのテロリスト対策以外にも、対策を進めている。

連続するテロ事件の中の2件において、テロリストが、西岸地区との間に設置されている防護壁の破れから、不法に侵入していたことがわかった。このため、議会は、その再整備に3億シェケル(120億円)を計上すすることで合意。高さ9m、長さ40キロの防護壁の整備を開始する。

またベネット首相は、アラブ系市民や、東エルサレム住民で、イスラエルの市民権や、社会保障を受けている者が、たとえば息子がテロで死亡した場合などに、家族がパレスチナ諸団体から報酬を受けている場合は、その特権を剥奪する方針を打ち出し、それらを精査するシステムを、2ヶ月以内に立ち上げると発表した。

しかし、これについては、ベネット政権が過半数割れに陥っているので、どこまで法として可決させられるかにかかっているとも言われている。

www.jpost.com/israel-news/article-703789

石のひとりごと

イスラエルでは、今週15日から過越の祭りが始まるが、遺族たちは喪に服す時になる。大事な家族が守られなかった、大事な息子や夫が死んでしまったという厳しすぎる現実を前に、今後、どのようにこの祭りを覚えるのだろうかと思う。その痛みを軽できるものは何もないだろう。せめて心が怒りや恨みで支配されることがないようにと祈る。

最近、テレビで、渋谷の町で、小さな桜の枝からスタートして、物々交換をしながら、さまざまな人との出会いを紹介する短い番組を見た。持っているもので、その一人一人がそれぞれの人生を懸命に生きている姿が見え、なんとなく涙が出た。

www.nhk.jp/p/72hours/ts/W3W8WRN8M3/episode/te/Z9NPR64XXV/

なにげなく歩いている人にしか見えないのだが、クローズアップすれば、それぞれが懸命に生きている人生があり、輝きがあり、一人ひとりの存在は、本当に貴重であるということを実感させられた。

そうしてそのそれぞれ人生は、さまざまな人が関わりあっていて、他の人々の人生にも重なっている。意味のない人生はひとつもない。神が一人一人命を与えた以上、それは本当に価値のあるものなのである。この番組を見た後、人への敬意が増したというか、人を見る目が多少違って来たような気がする。

ウクライナはじめ、イスラエルでも多くの命が奪われていく日々が続いている。その一人一人の人生、世界が消えていっているということである。人が人を殺すということの罪は、本当に大きい。そうして、まずはその命を創造した神の前に、まったく言い訳のできない大きい罪を犯しているということを知らなければならない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。