チャレンジ満載でスタート:新政府 2015.5.20

第34代イスラエル政府は、19日、初閣議をイスラエル博物館で行った。イスラエルがこの地と深い関係にあることを閣僚に認識させるためである。その後、大統領官邸に勢揃いして、報告・写真撮影会が行われた。

リブリン大統領は、新閣僚たちに対し、「この政府は、これまでになく、待ったなしのチャレンジに直面している。(外交内政において)即戦体制に入らなければならない。」と述べた。

まずは、世界的に見て、イスラエルが外交的に孤立し始めているという点と、国内の物価高騰で、緊急に経済政策をとらなければならない点をあげた。

一方、ネタニヤフ首相は、ますます混乱に向かう中東、またイランが、欧米との交渉で足がかりを広げているという現状の中、イスラエルを危機から守ることを最優先すると述べた。また、緊急に経済対策に取り組むと語った。

<パレスチナとの交渉担当はシロワン・シャロム氏> 

頓挫しているパレスチナ自治政府との交渉だが、ネタニヤフ首相はシロワン・シャロム内務相を指名した。女性外務副大臣のホットベリー氏が担当すると思われていたため、これは意外な人選だったようである。(写真中、下の列左から3番目)

シャロム氏は、2国家2民族(国を分けるという方針)を支持していると表明していないため、パレスチナからは冷たい視線といったところである。

ところで、パレスチナ自治政府との交渉は、アメリカのケリー国務長官が、2013~2014年、相当、力を入れてなんらかの合意をめざして奔走したが、結局頓挫するに終わった。今の所、アメリカがこれ以上、介入する気配はない。

その代わりに登場して来たのがEUである。本日、EUの安全保障上級代表フェデリカ・モゲリーニ氏が、パレスチナとの交渉再開に向けて、ネタニヤフ首相、左派労働党ヘルツォグ氏、アッバス議長とそれぞれ会談予定となっている。

しかし、現地では、イスラエルとパレスチナの関係は相当悪化しており、交渉に戻るとはとうてい思えないというのが現状である。

<パレスチナとイスラエル:ますます分離、修復不可能な関係へ>

パレスチナ自治政府は、イスラエルとの交渉が頓挫してから、国際法廷でイスラエルを訴え、国連で国として承認されるための手続きを着々と進めている。

また、電力をイスラエルからではなく、ヨルダンから購入するよう配線工事を行うなど、イスラエルとの関係断絶をすすめている。

イスラエル国内では、パレスチナ人が車でバスを待つ人々に突っ込むというテロも散発している。その度にパレスチナ人がその場で射殺されるなど、憎しみの連鎖が続いている。

今日もオリーブ山で、同様のテロがあり、警察官2人が負傷、パレスチナ人が射殺、一時、暴動となった。

一方、イスラエルも、今日20日から、3ヶ月間、西岸地区からイスラエルに出入りするパレスチナ人が、イスラエルのバスを使用することを禁止するという対策のテスト期間を開始しようとした。

これまで、イスラエル領内で働くパレスチナ人は、どのバスを使ってどの検問所を使って出入りしてもよいことになっていた。そのため、違法労働者を含め、大勢のパレスチナ人がイスラエルのバスを利用し、ユダヤ人が不安になって、バスを利用できなくなっていたのである。

これが実施されると、パレスチナ人ちの通勤期間は、かなり増えることになる。また、アラブ人はアラブバス、ユダヤ人はイスラエルバスという方式が、人種差別と言われてもおかしくない形である。

・・・という記事を書いていたら、この方策が発令されてからわずか数時間後、ネタニヤフ首相が、この対策を停止すると発表した。左派からの激しい反対を受けてのことである。

いやはや、発足したばかりの新政府、さっそくあやうい運転が始まっているようである。

<頭痛の種?バチカンが正式にパレスチナ国家承認> http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4657003,00.html

こうした状況の中、カトリックの法王フランシスは先週、パレスチナ自治政府を「PLO」という名称ではなく、「パレスチナ国家」として承認するという条約に署名した。

実際には、2012年に国連で135カ国がパレスチナを国として承認して以来、バチカンも、事実上は、パレスチナを国家として取り扱ってきたのだが、この度、それを正式に書面で承認したということである。イスラエルの外務省は、この動きを遺憾と表明している。

その後、バチカンはアッバス議長をバチカンへ招き、19世紀のパレスチナ人クリスチャンのシスター2人を聖人に認定すると伝えた。

このときに、法王が、アッバス議長を、”平和の天使”と表現。イタリアのユダヤ人社会を震撼させ、イスラエルでも大きな記事となった。あるイタリア系移住者は、「あの法王はいい法王だと思っていたのに、がっかりだ。」と言っていた。

イスラエルで騒ぎになったのを受けて、バチカンは、「イスラエルに悪意はなかった。」と返答している。

イスラエルとパレスチナの両者が交渉のテーブルにつく状態にはないし、仮についたとしても、何の結論もないばかりか、その前に、逆にテロが増えるだろうというのが現状である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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