ソフトバンクがイスラエルの投資プラットフォームOurCrowedに2500万ドル投資:孫氏の300年ビジョンとは 2021.10.29

ソフトバンクの投資部門、ビジョンファンドが、イスラエルの投資プラットフォームのOur Crowedに2500万ドル(30億円)を投資(一部買収)したことがわかった。OurCrowedとはどんな会社か、ソフトバンクのビジョンも合わせてお伝えする。

ソフトバンクがOur Crowed を一部買収

OurCrowedのCEOジョン・メドベッド氏

イスラエルに基盤を置くOurCrowdは、企業や個人投資者と、投資先の会社を結ぶ、投資のプラットフォームである。

コロナ禍で、今、IT関連や医療など、さまざまな分野への投資者は増える傾向にある中、Our Crowedも、急成長している。会員数は、2020年は2万5000人、2021年は7万5000人と、3倍となった。

投資者全体でみると、195カ国から14万人が、280社と30基金に投資し、新規投資額は、2021年だけで、5億ドル(550億円)。投資総額は、177億8000万ドル(2兆円近く)にのぼる。これにより、50社以上が目標達成(売却?)したとのこと。

以下は、Our Crowedの2020年にイスラエルで行われたグローバル投資サミットのハイライト(CBN編集版)である。このサミットでは、世界180カ国以上から、投資家が数千人集まり、イスラエルのスタートアップ企業に会い、投資契約を結んでいく。

OurCrowedのサミットでは、コロナや地球温暖化に対処する様々な技術を開発するイスラエル人企業がブースを出している。

いわば社会貢献しながら利益を生み出すという形である。このため、このサミットには、アラブ諸国も投資家が参加しているという。世界では反ユダヤ主義の悪化が問題になる中、実は世界はイスラエルの技術に依存しはじめているようでもある。

この有望プラットフォームのOurCrowedに日本のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が、2500万ドル(約30億円)を投資(買収)して、実質パートナーになったということである。

OurCrowedのCEO、ジョン・メドベッド氏は、ソフトバンクが加わることで、OurCrowed のプラットフォームがさらにグローバルに拡大するとの期待を語ている。この話題は、以下のイスラエルのメディアでも報じられている。

www.jpost.com/jpost-tech/softbank-makes-strategic-investment-in-ourcrowd-683252

www.timesofisrael.com/japans-softbank-buys-25m-stake-in-israeli-investment-firm-ourcrowd/

*イスラエルは情報技術の世界的センター

イスラエルには、近年、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンなどのトプ企業がR&D(研究開発拠点)を置くようになっている。イスラエルに有能な人材が多いだけでなく、スタートアップ企業を育てやすい環境を国が整えていることもその一因である。またこのように、世界の最先端企業が、集まっているので、市場の拡大も期待できる。日本の企業も、イスラエルに次々と参入している。

ソフトバンクも、数年前からイスラエルに参入して拠点を置くとともに、世界的にも幅広い人脈を持つ元モサド長官のエリ・コーヘン氏を顧問とした。NTTもイスラエルに研究拠点を設置し、元駐日イスラエル経済公使のノア・アッシャー氏がトップを勤めている。

www.nikkei.com/article/DGXMZO65647030Q0A031C2EAF000/

“金の卵”を育てるソフトバンク・ビジョンファンド(SVF):1年で純利益6.4倍の3兆円突破

日本では、コロナ禍で、企業が新たなプロジェクトに投資することを手控える傾向にあり、内部留保が2.6%増えて475兆161億円になっている。そうした中で、これほど大規模な投資を、しかもイスラエルに対して行なったソフトバンクと孫氏に注目してみた。

ソフトバンクCEOの孫氏によると、ソフトバンクは2020年度の純利益が、3兆552億円で、前2019年度の4766億円の実に、6.4倍にまで成長していた。その背景にあるのが、ビジョンファンドと呼ばれる投資部門である。

ビジョンファンド(SVF)は、ソフトバンクが2017年に立ち上げた投資に特化した会社である。日経新聞によると、SVFには1号、2号があり、1号は、サウジアラビア政府などから資金を募って設立したものだという。今や世界最大級のベンチャーキャピタルである。

孫氏は、ビジョンファンドは、企業に投資して成長させる、言い換えれば、白い卵をいったん腹の中に抱え込み、金の卵に変えて生み出すガチョウのようなものだと語る。孫氏のいう金の卵とは、100億円で売却するか上場を果たした企業のことである。

孫氏がビジョンファンドを立ち上げた当初は、腐った卵を産むだろうと批判されたという。しかし、この4年ほどの間に、186社への投資し、15社を新規上場にまで導いて、ソフトバンクにも3兆円の純利益をはじきだしている。ようやく今、収穫期に入ったと孫氏は語る。

また10月に入って、ようやくSVFから、日経企業への投資が実現した。今年立ち上がったばかりのアキュリスファーマという医薬品会社である。これまで日本の企業が小さすぎるために投資できなかったが、少額での投資が可能になったことと、日本でも少しづつスタートアップの会社が育ち始めているとのことである。

www.nikkei.com/article/DGXZQOUB28BFO0Y1A021C2000000/

孫氏が今めざすのは、AI革命である。白い卵を金の卵にするためには、大きなビジョン、大きな資金、グループシナジー(企業同士の事業提携や協業など相乗効果)が必要になるが、それを引っ張るのがAIだというのである。(以下の2021年3月の講演ハイライトよりまとめ)

孫正義氏の30年/300年ビジョン:情報革命と戦略的協力の戦略へ

その孫氏は、何を目的にこれほどのビジネスをたちあげているのか。同じく2021年3月のビジョン発表会で以下のように語っている。

自分はソフトバンクを通じて何をしたいのか。それは、情報革命で、人々の悲しみを少しでも軽く、喜びを増やすことだと語る。孫氏は、今後AIという人工頭脳により、世界には決定的なパラダイムシフト(価値観等の革命的変革)が来ると断言する。その中でのソフトバンク、また自分自身の役割は、成長し続けるソフトバンクのDNAを設計することだと語る。

孫氏は、ソフトバンクのビジョンを語る際、30年では足りない。300年ぐらいでお話ししたいと語る。物事は過去があって現在、現在があって未来がある。そのため300年先を見るためには、300年前をみなければならない。

300年前に起こったのは、産業革命であり、機械の開発によるパラダイムシフトであった。今からはAIにより、それを超えるパラダイムシフトがくると予測する。パラダイムシフトで、人々の生活、感動、楽しみ方、教育、医療、働き方、すべてが決定的に変わってくる。人類、人口知能の知恵がクラウドに蓄積されていく。こうした社会の中で、重要になってくるのが情報革命なのである。

したがってソフトバンクは、情報技術を通して、人々を幸せにすることがその使命であり役割であり、この理念は、創業以来、全くぶれていないと孫氏は語る。

とはいえ、特定の技術やビジネスモデルの設立に固執はしないと強調する。ソフトバンクが、優れたチップや独自のビジネスモデルで世界に貢献するとか、名前を残すことが目標ではないというのである。これからは、世界中に多くの情報革命系の会社が出てくるので、それらとともに、同志としてすすんでいきたいというのである。

どういうことかというと、ビジネスのスタイルが今変化していると説明する。20世紀型、昭和時代のビジネスは管理・支配型で、自前主義の研究開発というスタイルであった。このため、マネージメントに占める出費が51%に上っていた。

しかし、21世紀型は、自前だけで全部を完了するのではなく、パートナー戦略(ジョイントベンチャー)ですすんでいく。中央集権の支配型ではなく、自律と協力という形である。この場合、マネージメントの出費は20-40%になる。まさに戦略的シナジーグループの形である。

だからこそ自己進化と自己増殖する。そうして、30年後には、世界中からチームの一員として、必要とされる企業になっていたい。ではそのために自分がしなければならないことは何かというと、これから300年、成長し続ける企業のDNA、組織構造を作っていくことだと語った。

石のひとりごと

ソフトバンクは私たちにも非常に身近な企業である。難しいことがよくわからない庶民として、まず頭に思いうかぶのは、ソフトバンクだけに限ったことではないが、携帯料金の複雑さである。また次々に新しいバージョンが出るので、次の新しいシステムに乗り換えるたびに、新しいスマホが必要になり、なにかわからないうちに料金が加算されている。人々の幸せのために、まずはそこを改善して欲しいのだが。。。とも思ったりもする。

しかしながら、孫氏の、300年先までも視野にいれた、大きなビジョンを聞いて大変感動した。特にこれからは、昭和型の中央政権型ではなく、自律、協調型を目指すという点である。中央集権型は、責任が社長任せになりやすいので、自分ごとで仕事をしないという危険性が出てくる。縦割りにもなってしまう。皆がやる気だった昭和時代はそれでよかったが、平和な平成時代を経て、その悪い面が所々に出始めているというのが今の日本の社会だろう。

AIでこれからどんな社会になっていくのだろうか。孫氏の言う情報革命についていけるだろうか。昭和生まれの人も、今はできるだけ頭を柔らかく、へりくだって、とにかくなんでも受け入れていく覚悟が必要だ。

ホロコーストの不条理から立ち上がっていったユダヤ人女性の声に、今日も背中を押される思いがする。What you have to do, you have to do!

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。