シリア情勢の今:ロシア、トルコ、中国の動き 2019.7.16

ナスララ党首が言うように、シリア内戦はほぼ終焉に近づき、もはやヒズボラが活躍しなくてもよくなった。アサド政権を相手に戦っていた反政府勢力も、IS残党も、今は、シリア北東部のイドリブ県に集中している。

この残党への最後の攻撃を行っているのが、ロシア軍とシリア軍である。攻撃を受けている反政府勢力とその家族は悲惨だが、トランプ大統領は不思議にもこの件には介入しようとしない。こうしたことからも、トランプ大統領の興味は、来年の大統領選挙に以移行したと分析される傾向につながっている。

1)ロシア:シリア内戦終焉へ最後の仕上げ

アメリカとイラン情勢で、メディアにほとんど出てこなくなったのが、シリア情勢である。しかし、その背後では、ロシアとアサド政権により、イドリブに残された反政府勢力とその家族に対して、相当残虐なことが行なわれているようである。

ロシアとイラン(ヒズボラ含む)の介入で、アサド政権が勢力を回復し、イスラエル南部やゴラン高原クネイトラなどからも、反政府勢力を追い詰めて、今や、シリア東北部イドリブ県に反政府勢力とその家族が追い詰められた状況となっている。

アルジャジーラによると、攻撃しているのは、主にシリア軍とロシア軍で、国連によると、4月以降だけで、23の病院の他、学校などが爆撃を受けて破壊された。

ロシアによる爆撃は今も続いており、7月13日だけでも市民22人が死亡。国連によると、4月以降の集中した攻撃で、少なくとも子供130人を含む540人以上が死亡した。戦闘員を入れると、死者は2000人を超えると、シリア人権保護監視団体は訴えている。

ここでもシリア市民による救出隊ホワイトヘルメッツが活躍している。

www.aljazeera.com/news/2019/07/russia-syria-assault-idlib-leaves-500-civilians-dead-190707063546686.html

www.aljazeera.com/news/2019/07/22-civilians-killed-government-airstrikes-syria-190713150926382.html

今、爆撃を受けている人々は、ISを含む反政府勢力である。イドリブにおける悲惨な状況は、世界からは無視状態で、爆撃を続けるロシアの行為については、先のG20でも、話題にされることもなかったとの批判も上がっている。

2)トルコにロシア製S400地対空ミサイル配備開始

トルコは、今のエルドアン大統領になってから、イスラム化への未知をたどり、イスラエルを憎む道を選ぶようになった。

シリア内戦においては、当初、NATOの一員として、(しぶしぶ)アメリカ側に立っていたが、シリア領内の宿敵・クルド人勢力を牽制する中で、やがてロシア、イランに協力するようになった。

また、トルコは、360万人ものシリア難民を受け入れていることから、これ以上、国境を越えて、シリア難民が流入することはさけたいと考えている。そのため、アメリカではなく、シリアで最も影響力のあるロシアに接近する方が重要になっている。

しかし、トルコは今も、NATO軍(ロシアに対抗する欧米29カ国軍)の一員である。ロシアに近づきすぎて、NATO側の情報を漏えいするのではないかとも懸念されている。

こうした中、トルコは、ロシアのS400地対空ミサイルを購入することでロシアと契約を締結した。S400は、ロシアが開発したもので、欧米NATO軍(ロシアに対抗する欧米など29カ国からなる軍隊)には、有効な対処能力がないという類の武器である。

アメリカは、これに強く反発し、もしトルコが本当にS400を配備するなら、トルコが、今、アメリカから購入しようとしているF35ステルス戦闘機の販売を停止すると警告した。F35がトルコの手に渡れば、そのままロシアがその技術を盗んでしまう可能性が出てくるからである。

しかし12日、S400は、予定通り、ロシアからその第一陣が到着。これを受けて、アメリカはF35の輸出を凍結すると発表した。また、S400の残りの部分がトルコに到着することになれば、アメリカはトルコに対する経済制裁を発動すると言っている。

いよいよアメリカ対ロシア、イラン、シリア、トルコという図式が明確になりはじめている。

jp.reuters.com/video/2019/07/12/ロシア製地対空ミサイル購入に米激怒-トルコを待ち構える「制裁」とは字幕・12日?videoId=573411066

3)中国:シリア復興へ乗り出し(一帯一路構想)

一方で、中国が、シリアのインフラ再建介入に動き始めている。6月18日、中国は、シリアの外相と北京で会談し、シリアの復興に中国が大きな役割を果たす用意があると明らかにした。シリアは、地中海に面しているため、中国からヨーロッパに続く新シルクロード構想、一帯一路プロジェクトの一環とみられる。

しかし、シリアはまだ内戦が終わったわけではなく、中国経済も陰りをみせはじめていることから、イスラエル国家治安研究所(INSS)は、中国の進出は、急には実現しないと分析している。

中国は、イスラエルの重要な港、ハイファ港でのインフラ整備を請け負っており、アメリカはイスラエルに懸念を表明したが、イスラエルは、たとえ中国になんらかの情報を取られたとしても、大きな脅威にはならないとの余裕である。

www.inss.org.il/publication/will-china-reconstruct-syria-not-so-fast/?utm_source=activetrail&utm_medium=email&utm_campaign=INSS%20Insight%20No.%201187

<石のひとりごと>

ロシアを背景に、イラン、イラク、シリアがつながり、今また中国まで登場となれば、ユーフラテス川の東側にすでに大国が構えている状態である。今はアメリカ軍がいるので、これらの国々が、ユーフラテス川を越えて大きく移動することは不可能である。

しかしやがて、アメリカ軍がいなくなれば、これらの大国が、自由にユーフラテス川を越えてイスラエルに攻めてくるということも可能になってくる。終末の舞台ができ始めているようでもある。聖書の記述は以下の通り。

第六の御使いが鉢を大ユーフラテス川にぶちまけた。すると、水は、日の出るほう(東側)から来る王たちに道を備えるために枯れてしまった。・・・彼らは全世界の王たちのところに出て行く。万物の支配者である神の大いなる日に備えて、彼らを集めるためである。(黙示録17:12−14)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。