シリア・アレッポで空襲続く 2016.9.25

アメリカとロシアが提案したシリア停戦案が、先週月曜以来、頓挫した形となっているが、シリア最大の都市アレッポでは、シリア政府軍とロシア軍による地上への激しい空爆が続いている。

空爆先は反政府勢力だが、犠牲になるのはすでに瀕死状態の市民たちだ。現地医療スタッフよると、金曜には91人、土曜には25人が死亡と伝えられている。

いまだかつてないレベルの空襲で、BBCは、すでにがれきとなった街に、家3件分を飲み込んだ大きなクレーターができている様子を伝えている。

灰色の砂状になったがれきの中から、乳児とみえる男児が、頭から全身灰色になって掘り出されている。奇跡的にも男児は生きていた。病院では、この2日で、医療スタッフ6人が死亡してしまい、続く空襲でさらなるけが人でごった返している。

国連によると、土曜には、空爆で水道施設が破壊され、東アレッポの住民少なくとも200万人が水へのアクセスを失った。今後市民らが汚染水を使うことを余儀なくされ、伝染病の危険もでてくるとみられる。

www.bbc.com/news/world-middle-east-37460849

ロシアとアメリカが提案した案は、いわば最終手段だった。それが頓挫した今、いったいだれがこれを止められるというのか。ロシアのラブロフ外相は、この案を投げ出してはならないと警告する。

その上で、「アメリカが、反政府勢力を過激派とそうでない組織に分離できないでいることが原因だ。」としてアメリカを非難する声明をだしている。

アメリカとロシアが、互いに非難しあっている姿をみて、笑うのはISISだとハアレツ紙(イスラエル・メディア)。

*アレッポ

アレッポはシリア最大の都市(首都はダマスカス)だったが、内戦になってからは、シリア政府軍と反政府軍が戦う激戦地となった。

現在、アレッポの西側は反政府勢力、東側はシリア政府勢力が陣取る。さらにその背後・東側には、ISISがいる。一部東アレッポに反政府勢力の地域が包囲される形で残されている。

アレッポでは、停戦が成功したことがなく、したがって、人道支援が届けられたことは一度もない。

アレッポ

<シリアの言い分>

アレッポでシリアとロシアが激しい攻撃を行っているのと並行し、ニューヨークでは国連総会が行なわれている。上記のような状況の中、シリアのモアレム外相が、シリアを代表して一般演説を行った。

モアレム外相は、”穏健派反政府勢力”がシリア市民を虐殺していると非難した。シリア政府は、それらのテロ組織と戦っているのに、アメリカがそれらを支援しているので、内戦が終わらないとアメリカを激しく非難した。

また、トルコが介入したこと、サウジアラビアとカタールが、シリア国内にテロを拡散しているとして非難した。

一方で、モアレム外相は、ロシアとイラン、レバノンのヒズボラは、シリア政府とともに戦っていると証言した。

モアレム外相は、シリアは、国連主導(ジュネーブ)での政治的解決を望むが、次の2点が条件だと語った。①シリア内部のテロ組織(この定義が問題)の撲滅、②外国の影響力なしでシリア人だけでの対話を行い、シリア人自身が国の将来を決める。

モアレム外相は、政府側、反政府側双方を含むシリアの統一政府を設立し、憲法を立憲することを提案している。つまり、アサド大統領の退任はないということで、反政府勢力のシリア人たちがこれを受け入れることはありえない。

www.haaretz.com/middle-east-news/1.744056

<シリア内戦は今どうなっているのか?>

シリアの内戦は、もともと恐怖政府で国を治めてきたアサド政権に対して、シリア人の反政府勢力が立ち上がってはじまったものである。

しかし、シリア軍を完全に手中に収めるアサド政権は、そう簡単に覆るものではなかった。アサド政権に生きていてもらいたいイランがまずは味方につき、その指令でヒズボラが味方につき、さらにはロシアが背後で支援しているからである。

長引く内戦で、混乱するところへISISなどの過激派が入り込み、今やだれがだれを相手に戦っているのか、サッカーの試合のように色分けしたユニフォームがあるわけでもなく、どの組織がどこと戦っているのか、敵味方の見分けもつきにくくなっている。

そのような中、アメリカとアメリカに味方する欧米諸国やヨルダン、サウジアラビアなどのスンニ派諸国が、ISISだけをねらって空爆を続けているのだから、誤爆も十分ありうる。

しかし、その功あって、シリアでのISISはだいぶ小さくなった。BBCがわかりやすい地図を配信している。それによると、2015年1月から現在までに、ISISに占領された地域がかなり小さくなっている。

特に今年、トルコが強力に、強引に介入して以来、トルコとシリアの国境が大幅にISISの支配から解放されている。しかし、今後、どうなっていくのかは、まったくだれにもわからない。予想すらつかないというのがシリア情勢である。

www.bbc.com/news/world-middle-east-27838034

<エジプト沖で難民の遺体162人>

このような中でサバイバルしている人々は、まさに闇の中で死をまつばかりというところだ。少々でもお金のある人は国外へ逃げようとするのだが、難民になれば、保護はまったくないばかりか、どこへ行っても迫害される道を歩むことになる。

エジプト沖では金曜、エジプトの港からヨーロッパをめさしていた難民船が転覆し、これまでに162人の遺体が収容された。そのほとんどが、泳げない女性や子供だったという。

この難民船には、船底にさらに大勢の難民がいたらしく、その人々は脱出できないまま、船とともに海底に沈んでいると懸念されている。エジプトのメディアによると、この船には、450-600人が乗っていたという。

乗っていた難民は、エジプト人、シリア人、スーダン人、エリトリア人、ソマリ人。これまでに救出されたのは163人だが、ニュースを見る限り、屈強な若い男性ばかりである。

BBCは、エジプトから難民船に乗っていった16歳の息子の遺体をみつけた父親が、号泣している様子を伝えている。あまりにも悲しい姿だった。

www.bbc.com/news/world-middle-east-37454066

国連によると、2015年1年間で、地球全体の難民は、6530万人。第二次世界大戦以来の難民数である。その中で、難民を排出している最大の国は、シリア、アフガニスタン、ソマリ(アフリカ)となっている。

これらの難民の多くは、エジプトなど北アフリカの港から、ブローカーに多額の金を払って地中海を渡っていくのだが、通常、難民船は過剰に人を積んでいるので、多くが途中で転覆し、多数の人々が死ぬことになる。

CNNによると、2015年1年で地中海で溺死した難民は3770人以上。リスクはわかっているはずだが、国連によると今年に入ってから地中海を渡る難民は、昨年より増えている。

*クリスチャンとみられるアフリカ難民が、無事イタリアの岸辺にたどりついて、主に泣きながら賛美を捧げている様子を、一瞬だが含んでいる映像(CNN) http://edition.cnn.com/2016/08/30/europe/libya-migrants-rescued/

<石のひとりごと>

世界には、生きながら墓場にいるような人々が何百万人もいる。一方で、架空のポケモンなどに興じている地域もある。ビル・ゲイツがいうように、確かに人生はあまりにも不公平である。

かといって実際にこの人々のところに行って働く勇気もない。せめて祈ることが精一杯であり、最善かもしれない。

よきものをもらっている私たちは、それを恐れつつ、感謝して、それぞれの地で、自らに与えらた使命をまっとうしながら、生きなければならないと思わされている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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