ガザ紛争:一夜明けて 2019.3.26 7:00(日本14:00)

<イスラエル軍による反撃空爆>

25日早朝5時20分に、テルアビブ北部、モシャブ・ミシュメレットの民家にロケット弾が直撃したことを受け、訪米中のネタニヤフ首相は、「責任はハマスにある」と断定。容赦ない武力による反撃を行うと宣言した。

その後、アメリカからイスラエルの治安関係者との会議を実施。ガザ国境へ2部隊を派遣し、空軍関係を中心に予備役兵1000人の招集を開始した。ハマスとイスラエルの交渉を仲介しているエジプト政府関係者はガザから脱出した。

イスラエルが、ガザへの空爆を開始したのは、ミシュメレットへの攻撃からちょうど12時間後の26日午後17:30(日本時間夜中2時半)。ガザのハマス指導者イシュマエル・ハニエのオフィスや、イスラエル軍いわく、”ハマスの極秘基地”を含む施設を断続的に空爆した。(写真出展:ynet)

イスラエルの空爆が始まると、ガザから、イスラエル南部、ネゲブ地方ににむけてロケット弾が30発撃ち込まれ、数千人の住民が、夜中、サイレンが鳴り響く中、シェルターに駆け込むことを余儀なくされた。スデロットで、民家が被害を受けたが、人的被害はなかった。

ハマスは、「テルアビブを攻撃しようと思っているものはいない。ロケット弾は事故。悪天候による。」などと苦しい言い訳を出したが、イスラエルはとりあわず、攻撃を続けた。

www.timesofisrael.com/hamas-investigating-rocket-fire-official-cites-bad-weather-as-possible-cause/

空爆開始から約5時間後の午後10時ごろ、パレスチナメディアが、「ハマスがエジプトの仲介で停戦に応じた」と伝えた。しかし、この時点では、双方とも攻撃は停止しなかった。

www.timesofisrael.com/tense-calm-in-gaza-periphery-after-night-of-rocket-barrages-idf-strikes/

結局、双方とも攻撃をやめ、静かになったのは、朝3時15分ごろ(日本時間朝10時すぎ)からで、現在朝7時(日本時間14時)、とりあえず、平穏が戻った状態となっている。

今回の武力衝突では、イスラエルが空爆を始める前にハマスは、関連施設から逃亡していると伝えられていた。一般住民もおそらくハマス関連施設から離れたのであろう。激しい空爆にもかかわらず、ガザでの死者負傷者の報告は、今のところない。

イスラエル側も公営シェルターを準備するなどしていたため、負傷者の報告はない。ロケット弾の多くは空き地に落ちたと伝えられている。朝までには60発が撃ち込まれたとのこと。

www.timesofisrael.com/hamas-says-ceasefire-reached-after-heavy-barrage-from-gaza-pounds-south/

<今後のみこみ>

まだ予断を許さないことは言うまでもないが、ハマスは、4月30日の”土地の日”から、国境で、大規模なデモを行うと宣言していることから、まだまだ高い警戒態勢は、続くだろう。

しかし、今回の攻撃で、国境警備への言い訳もできたし、ハマスのミサイルはかなり破壊されたと思われるので、イスラエルにとっては好都合、ハマスにとっては確かに、「失敗」であったかもしれない。そう願いたいところである。

右派で教育相のナフタリ・ベネット氏は、「ハマスとの停戦に応じてもすぐに戦闘になる。」と攻撃続行、打倒ハマスを訴えている。しかし、今のイスラエル政府は、ハマスとガザ地区を一掃してしまうことは避けたいと考えている。

一掃したら、その後の復興をイスラエルが責任を負わなければならなくなるし、もしそうしなかった場合、ISやトルコ、イランが入ってくるだろう。けっしてハマスを歓迎するわけではないが、なんらかの合意で、ハマスを縛ってガザの管理者という立場を維持させておくほうが、イスラエルとしては、まだ”まし”なのである。

今後も、サバイバルと尊厳をかけた水面下での駆け引きは、ますます狡猾で、厳しくなっていくだろう。そうなると、やはり、軍参謀総長の経験しかないガンツ氏より、海千山千の政治家、ネタニヤフ首相に投票する国民が増えるだろう・・・ということは容易に想像できる。

<一瞬の奇跡>

モシャブ・ミシュメレットで直撃を受けた家族の父親、ダニエル・ウオルフさんは、家族が今生きているのは、本当に奇跡であった。指示されたことをしていなかったら、今頃、家族を葬っていただろうと、恐怖をたたえた表情で語った。

ダニエルさんによると、朝5時20分は、通常はベッドで爆睡している時間だった。しかし、たまたまこの日は、ダニエルさんが、スマホをみながら、ソファで寝入ってしまったために、サイレンの音を聞いて起きることができたという。

それからあわてて子供たち、妊娠中の妻、母親を起こして、シェルターに駆け込んだ。駆け込みながらロケット弾が、家に直撃したという。シェルターにあ入りきっていなかった母親は負傷したが、部屋にいたら、大変な大怪我をおっていたはずである。

この攻撃で家は大破。家の前に停車していた車もめちゃめちゃになっていた。

イスラエルにいると、サイレンの訓練もあるし、今回、攻撃を受けた地域は、2014年以来、攻撃がなかった地域である。早朝でもあり、そのまま逃げなかった人も多かったことだろう。ダニエルさん一家が、ちゃんと逃げたのはまさに奇跡であった。

ダニエルさん一家は、30年前にイギリスからイスラエルに移住していた。このため、イギリスの駐イスラエル大使ダビッド・クオレイ氏は、「イギリス人家族が無事でよかった。こんな攻撃にいかなる理由もありえない。」とツイッターでつぶやいた。

www.timesofisrael.com/father-says-its-a-miracle-family-survived-gaza-rocket-that-leveled-their-home/

<石のひとりごと>

ガザから70キロ以上も離れた地域で、しかも、無数にある家の中で、ダニエルさん宅にのみ直撃である。日本でいうなら、たとえば、富士山あたりから東京の住宅地へ飛ばされた1発のミサイルが、たまたま加藤宏さん宅を直撃したということである。

たまたまとはいえ、まるで狙われたかのような攻撃である。家族のショックは、いかばかりか・・・

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。