ガザ情勢リンボー状態 2018.10.21

戦争と紙一重のガザ情勢。17日夜、グラッドミサイルがベエルシェバに着弾し、イスラエル空軍がガザへの空爆を行い、19日金曜に向けて緊張が高まったが、戦争に突入することはなかった。

イスラエルもハマスも大きな戦争にはしたくないためか、どっちつかずのリンボー状態が続いている。しかし、来週、パレスチナ自治政府が、ガザへの送金を完全に停止するかどうかを決めることになっており、今一度危機が来る可能性が懸念されている。

<ベエルシェバ家屋にミサイル着弾:奇跡の脱出で負傷者なし>

17日(水)早朝4時前、ガザからグラッドミサイルがベエルシェバに向けて発射された。サイレンが鳴ったため、家の1階で寝ていたミリ・タマルさん(39)は、2階のそれぞれの部屋にいた子供達3人(8歳、9歳、12歳)を連れて、防護室に駆け込んだ。

防護室に駆け込んだ直後、この家にミサイルが着弾。家は防護室のみをのこして全壊した。ミリさんと3人の子供達は、まさに間一髪で助かったことになる。4人は、のちに警察によって防護室から救出された。

大きなミサイルであったため、ミリさんの隣にも破片が飛び、ベランダを破壊した。道路にも破片が散乱していたという。

この攻撃で、ミリさんと3人の子供たちを含む7人が、一時病院でショックの経過観察を受けたが、負傷者もなかったのは奇跡であった。

この直後、イスラエル空軍が、ガザのハマスとイスラム聖戦拠点を攻撃したが、ガザでも負傷者の報告はない。もしこの時、ベエルシェバで負傷者や犠牲者が出ていたら、今頃戦争になっていたことは間違いない。

なお、大破したミリ・タマルさんの家は、国が全額、再建を保証するが、数ヶ月かかるみこみ。一家は現在、ホテルに滞在している。ホテル代やしばらくの生活費は、ユダヤ機関などからも献金されている。

3人の子供達を守りきったミリさんは「メスライオン」とも言われ、その行動が賞賛されているが、ショックは大きく、あとに心理的トラウマを残さないか懸念されるところだ。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5372931,00.html

<ガザ国境にイスラエル軍戦車部隊派遣>

ベエルシェバへのミサイル攻撃を受けて、イスラエル軍のエイセンコット参謀総長は、アメリカ訪問の予定を繰り上げて帰国した。

リーバーマン国防相は、ただちにガザへの通路ケレン・ショムロンとエレツ検問所を閉鎖。これにより、電気の配給を大幅改善するためのカタールからの出資による燃料が差し止められた。ガザの漁業海域を3海里縮小するよう命じた。

ネタニヤフ首相はただちに治安委員会を開催。会議は5時間半にわたって行われたが、内容に関するメディアへの発表はない。しかし,反撃のレベルを上げたと漏れ伝えられている。

18日、十数代の戦車を含むイスラエル軍の攻撃部隊が、ガザ国境に配置された。日中堂々と戦車を配置することで、19日の国境でのデモをけん制するねらいがあったとみられる。

ベン・グリオン空港では、木曜、念のため、フライトがガザ上空を飛ばないようルート変更したとのこと。ベン・グリオン空港は、今、観光のピークを迎えており、チェックインが長蛇の列をなしている。フライトが停止するような戦争にならなかったのは幸いであった。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5374311,00.html

<ハマス:金曜デモで国境に近づかないよう指示>

ベエルシェバへのミサイル攻撃について、ハマスとイスラム聖戦は、「この攻撃はイスラエルの包囲網解放の益になるものではない。」として、攻撃の責任を否定する共同声明を出した。

またハマスは、19日金曜、毎週行われている「帰還」へのデモに先立ち、パレスチナ人らに国境に近づかないよう指示をだした。

これは、エジプトと国連が、必死にハマスとイスラエルとの交渉を続けている中で、エジプトが圧力をかけたとみられる。

しかし、実際には19日金曜には、先週の1万5000人からは減少したものの、1万人がデモに参加。タイヤを燃やしたり、イスラエル軍に投石するなどして、イスラエル軍が反撃、ガザの健康局によると、    人が負傷。2人が死亡した。

アルーツ7によると、ガザの暴徒は、イスラエルからガザへのガスのパイプを破壊したという。自らの首を絞めるような行為である。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/253509

さらに20日土曜朝、国境の有刺鉄線を破ってイスラエル側へ侵入し、イスラエル軍が放棄した監視拠点に、デモで死亡したパレスチナ人の写真を立てるという行為を撮影し、ネットに勇ましい音楽とともにアップしたりした。

また土曜午後には、多数の放火風船が飛来し、安息日であるのに、地元の消化チームが出動させられた。イスラエル軍は、風船を飛ばそうとしているパレスチナ人に攻撃を行った。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5375728,00.html

<イスラエル南部住民の声>

リーバーマン防衛相は、国境に戦車を派遣してはいるが、もしガザでの暴力が沈静化するようなら、21日日曜にも、カタールからの燃料のガザへの搬入を再開するとも示唆している。

ガザの市民生活が崩壊寸前であることから、人道支援というアメをムチとともに使うことがイスラエル政府の今の所の方針なのである。

しかし、これについて、イスラエル南部の市民たちは、満足していない。ミサイルは、17日夜中に着弾したが、南部地域では、16日にもサイレンが鳴り響いて、住民は防護室シェルターに駆け込んでいる。

可愛らしい風船の塊に取り付けられた発火物や爆弾は、前にもましてイスラエル南部に飛来し、いくつかはエルサレムにまで飛んできている。これらによる火災で焼き尽くされた畑地は広大である。

スデロット住民のバス運転手ボリスさんは、「アラブ人はアラブ人どうしでも平和に暮らすことができてない。イスラエルと和平が成り立つわけがないということを政府はわかっていない。」と不満を述べていた。

とはいえ、イスラエルがガザを一掃しても、何の得もない。攻撃によってガザの多くの市民が犠牲となるのことは避けられず、国際社会からはイスラエルが非難されるだろう。さらに一掃したのちのガザの復興をイスラエルが背負わされることになる。

とはいえ、ガザ情勢はリンボー状態だが、「仏の顔も三度まで」ならぬ、イスラエルの堪忍袋がいつまでもつかは、もはや時間の問題かもしれない。

<ぎりぎりの仲介:エジプト>

ハマスとイスラエルの間を仲介しているのは、主にエジプトである。仲介にあたるのはエジプトのアッバス・カーメル諜報部長官。

カーメル長官は、17日水曜ハマスを訪問。金曜のデモを縮小するようハマスに圧力をかけ、国境から500メートル離れるよう要請したが、ハマスはエジプトのこの要請を拒否したとのこと。(エルサレムポスト)

この後、カーメル長官は、木曜、ラマラでファタハ幹部と会談する予定であったが、ベエルシェバへのミサイルでキャンセルとなった。来週、ラマラを訪問する可能性がある。

ファタハは、パレスチナ自治政府を主要な立場で運営している組織だが、自治政府そのもではない。エジプトは今回、あえて、ファタハにアプローチしようとしている。

ファタハは、ハマスが、ファタハとの和解よりも、イスラエルとの合意を目指していることについて、トランプ大統領のまだ明らかにされていない中東和平案の片棒を担ごうとしていると非難している。

来週、ファタハでありパレスチナ自治政府のアッバス議長が、ガザへの送金を差し止めるかどうかが今、焦点となっている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Hamas-rejects-Egyptian-demand-to-stop-Gaza-border-protests-569846

<これからどういう道が考えられるのか:元イスラエル軍作戦部門長官・国家治安委員ギオラ・エイランド氏電話会見より>

実際のところ、イスラエルもハマスも大きな衝突を望んでいないのは確かである。今後どういう道があり得るのか、元イスラエル軍作戦部門長官で、国家治安委員でもあるギオラ・エイランド氏によると次の3つが考えられるという。

①何もしないで、ハマスからの時々の小さな攻撃に耐え、大きな衝突にはしない。

②積極的にハマスを攻撃する。

③ハマスを一つの国と考え、その指導者をハマスとは別に、一つの独立国の指導者と考えて、ガザの復興に向けて協力する。

エイランド氏の考えでは、ガザの市民生活が崩壊することは、ハマスにとっても好ましいことではない。イスラエルにとっても、ガザ市民が人間らしく生活することで、テロへの意欲も削がれると考えている。したがって、市民生活の復興は、両者の共通の目標であるから、ハマスとイスラエルが、その点にむかってなんらかの(合意ではなく)”アレンジメント”にいたる可能性はある。

この場合、資金が武器等に使われないよう、復興プロジェクトに応じて送金するシステムにすれば、支援金の不正使用は防ぐことは容易であるとエイランド氏。

しかし、パレスチナ自治政府とファタハであるアッバス議長が、ガザへの送金を完全に停止して、ガザの復興を妨害するとしたら、①か②の悪い道しか残らない。エイランド氏は、アッバス議長のみが交渉の相手とみなす野党の考えには同意できないと語る。

つまり・・・今ハマスとガザがなんらかのアレンジメントに到達し、両者の間の平穏が長期間続くことが最善の道であるということである。

22e7b304-d251-4fea-abca-e4ef9d2d85c9.wav

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。