ガザ国境紛争再開:10人死亡 2018.4.8

先週金曜に引き続き、7日(金)にもガザ国境での衝突が発生。ガザ側の情報によれば、10人が死亡。500人以上が負傷した。*死者負傷者数は、情報がガザからのものであるため、メディアによって差がある。

先週の衝突では、17人が死亡。その後重傷者3人が死亡して20人となり、今週と合わせて30人が死亡したとみられている。

今回の死者の中には、パレスチナ人記者ヤセル・ムルタヤさんが含まれていた。土曜に行われた葬儀には、数百人とハマスのハニエ最高指導者も参列した。ハマスは、イスラエルが、記者を狙い撃ちしたと大きく訴えているが、イスラエルはこれを否定している。

www.timesofisrael.com/hundreds-at-funeral-for-journalist-killed-covering-mass-gaza-protests/

<7日(金)の様子>

ガザのパレスチナ人らは、先週金曜以降、国境防護壁から数百メートル周辺にテント村を形成し、踏みとどまっていた。

2回目の金曜が近づくにつれ、国境付近で燃やすためのタイヤを1万個ほども集め始め、イスラエル軍の射撃手を混乱させるための大きな鏡を持ちこんだり、野営病院の設営などをしている様子が報じられた。

イスラエル軍は、タイヤ燃焼で生じる黒煙を吹き払うため、大きな扇風機を用意するなどして衝突に備えた。

7日(金)は午前中から、パレスチナ人らが、タイヤを燃やして黒煙を上げ始めた。パレスチナの旗の間にナチスドイツの鉤十字の旗もあった。イスラエルは催涙弾も使い対処。時間が経つにつれて死亡の報せが入り始めたが、夕刻までに沈静化した。

デモの参加者は、平日よりは多い2万人と推測され、3万人が参加した先週より減っていたとイスラエル軍はみている。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/LIVE-COVERAGE-Standoff-resumes-Gazans-set-thousands-of-tires-ablaze-548997

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/In-pictures-20000-Palestinians-protest-in-Gaza-549055

<デモはフェイスブックからはじまった?>

このデモについては、ガザの政治活動家アブ・アイティマ氏(34)が、フェイスブックで数ヶ月前に、「もし何千人ものパレスチナ人が、国境破りをしたらどうなるだろうか。」と書き込んだことにヒントを得た結果ではないかと言われている。

アイティマ氏は、Yネットのインタビューで、あくまでも平和的デモを支持するものであり、実際に群衆が国境破りをするとは思えないと語る。

「イスラエルへの暴力に効果がないことは明らかだ。私は、イスラエル人を排斥しようとは思わない。ただ南アフリカのように人種差別の今の政府がなくなって、イスラエル人とパレスチナ人が、民主国家の元で、ひとつになって住むことだ。」と語ったている。

イスラエルは、アパルトヘイト国ではない。今もすでに民主国家である。人種差別がまったくないとはいえないが、ユダヤ人とアラブ人は今もすでに同居している。しかし、イスラエルは、ユダヤ人の国という性質を維持しなければならないため、今以上にパレスチナ人全部の帰還をイスラエルが受け入れることはないと表明している。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5221944,00.html

デモは、もしかしたら、フェイスブックから始まったかもしれないが、ハマスはこれを十分活用している。紛争の最中に、シンワル指導者が現場に来て応援して奨励している。

また、ハマス報道官によると、ハマスは、死亡した者の家族には3000ドル(約35万円)、負傷者には200-500ドルを支払っているとのこと。

www.timesofisrael.com/hamas-will-reportedly-pay-families-of-gazans-killed-in-israel-clashes/

<ガザ沖でイスラム聖戦の攻撃計画を摘発>

イスラエル諜報機関シン・ベトとイスラエル軍は、ガザ国境での紛争が始まる以前の3月12日、ガザ沖でイスラエルを攻撃しようとしたイスラム聖戦の計画を未然に防いでいたことを明らかにした。

それによると、漁船に見せかけた船が、イスラエル領海へ入りこみ、それを停止しに来たイスラエル海軍の船を2隻目が攻撃し、さらに3隻目が近づいて、イスラエル兵を誘拐する計画を遂行しようとした。

イスラエル軍は、これを未然に察知し、関係者とともに、首謀者マフムード・ジュマを逮捕した。ジュマは、この攻撃で5000ドルを約束されていたという。

ジャマは、2012年ごろ、漁船を使って、エジプトからハマスに300キロの爆発物を運搬している。2014年ごろには、武器製造のためのファイバー150パックをハマスに届けていた。また地下トンネルからライフルもハマスに届けていた。

ネタニヤフ首相は、これらはガザ国境でのデモが、ハマスの真の目的(イスラエル打倒)をカモフラージュするものだということだと語った。

www.timesofisrael.com/shin-bet-idf-thwart-islamic-jihad-attack-on-navy-boats-off-gaza-coast/

なお、イスラエル海軍は、近年、ハマスが、陸上では地下トンネルを使うように、海底からもイスラエルを攻撃しようとしているとの情報があり、警戒していたという。

<国際非難とイスラエルの反論>

先週17人が死亡したことを受けて、翌4月1日、まずはトルコのエルドアン大統領が、「イスラエルの非人間的な行為、ネタニヤフ首相はテロリストだ。」と非難した。

これを受けてネタニヤフ首相は、「世界で最も道徳的な軍隊は、市民(クルド人)を空爆する国から道徳を教えてもらう必要はない。」とやり返した。

www.bbc.com/news/world-middle-east-43611859

ヨルダンとエジプトは、イスラエルが過剰な武力を行使していると非難した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/243881

国連は、先週金曜以降、イスラエル軍に実弾を使わないよう警告したが、イスラエル軍は、銃撃しているのは、国境から侵入してくる者たちで、多くはハマス戦闘員であると反発。侵入者のCCTV映像を流している。

しかし、多数の死者が発生しているのは事実で、その中にはティーンエイジャーも含まれていることから、イスラエルへの国際非難は高まりつつある。先週に続いて2回目となるこの金曜の紛争を受けて、EUは、本日土曜の会合で、イスラエルが過剰に武器を使用していると指摘した。

www.timesofisrael.com/idf-uses-tear-gas-live-fire-as-thousands-protest-at-gaza-border/

イスラエルのリーバーマン防衛相は、イスラエルは、ガザからイスラエルへ侵入しようとする者への厳しい対処は続ける方針だと語り、「国境に近づくことは命とりになる。愚かなことはしないように。」と、ガザの人々に呼びかけている。

また、「ハマスは、ガザと市民の復興に使うべき2億6000万ドルもの資金をすべて(トンネルなど)テロ施設に費やしている。ガザ市民は、イスラエルと戦うよりも、指導者を変えた方がよい。」と語った。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/gaza-news/Ahead-of-fresh-standoff-Hamas-reveals-payouts-to-injured-protesters-548990

<サウジアラビアの以外な反応:イスラエルには存在の権利がある>

ガザ国境での紛争について、同盟国アメリカは、「ガザの人々は、緩衝地帯に近づかないようにせよ。」と警告し、今回もイスラエルの側に立った。また国連安保理でのイスラエルへの非難決議はアメリカが拒否権を発動し、可決されなかった。

最近、イスラエルに近づいていると言われるサウジアラビアだが、2日月曜、ビン・サルマン王子が、アメリカの雑誌へのインタビューで、パレスチナ人が国を持つ権利があると同時に、「ユダヤ人は、少なくともその祖先からの土地に国を持つ権利がある。」と重大な発言をした。

湾岸アラブ諸国がイスラエルの存在を認めるのは始めて。

www.timesofisrael.com/saudi-crown-prince-recognizes-israels-right-to-exist-talks-up-future-ties/

<石のひとりごと:紛争と平和>

ガザ周辺で紛争になってはいるが、イスラエル国内はそんなこととは正反対。今日までの過越の1週間で、地中海のビーチやガリラヤ湖、国立公園で、休暇を楽しんだ市民は150万人にのぼっていた。

いわゆるゴールデンウイークで、どこへ行っても超満員。カイザリヤは4万8000人、エンゲディは3万4000人で、ダビデの滝など、文字どおり芋の子を洗う状態。ガザと目と鼻の先のアシュケロンのビーチですら3万2000人だった。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5223084,00.html

エルサレムも非常に気持ちのよい気候で、木々は緑も美しく、花を咲かせている木も多い。野の花は乾き始めてはいるが、まだ蝶がひらついている。今日土曜は安息日なので、走る車もなく、静まりかえっている。何種類もの鳥が美しい声を聞かせてくれて、なんとも気持ちが良い。

過越休暇の最後で、家族たちが集まっているのだろう。アパート前無料駐車場は、車でひしめきあっている。今午後3時。皆おいしいものを食べた後で昼寝でもしているのか、陽だまりの中でおだやかな静けさである。

昨日金曜午後、プロムナード付近を散歩した。ゆっくり散歩する人々や、家族づれ。子供たちは走り回っていた。赤いアイスクリーム売りのトラックがいる。世俗派もいれば、正統派の夫妻も歩いている。

芝生の上でくつろいでいる家族づれの女性はイスラムのヒジャブ姿だ。付近に住むパレスチナ人の家族である。その向こうにはエルサレムの旧市街とオリーブ山の光景がひろがっている。まさに世界一祝福されている町だと実感するような日であった。

しかし、この平和そのものにみえるエルサレムから、車でわずか2時間のガザ国境では、この日だけで10人が命を落とした。なんとも考え難い現実だ。イスラエルは、紛争と平和が同居する国なのである。

このように、全国のイスラエル市民が平和にしていられるのは、今日も休日返上でガザ付近に駐留し、まったくもってやりたくもない射撃手になってくれている治安部隊兵士たちのおかげである。

ハマスは、10年間、ガザ地区の管理を任され、結果、ガザを破壊しつくした。さらにまだ市民を死に追いやっている。それが今、イスラエルに戻るという。世界はそれに同情する。

しかし、それはありえないだけでなく、もし仮にありえたとしても、それこそ土地と平和を破壊することである。ガザの若者たちも世界も、この現状を知る由もない・・・いや知ろうともしなていないのかもしれないと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。