エジプト情勢アップデート 2014.3.29

<結局恐怖政治?>

エジプトでは2011年に反政府デモ(アラブの春)でムバラク大統領が失脚。続いてムスリム同胞団関係者でイスラム主義者のムルシ大統領が政権を引き継いだが、わずか1年後、世俗派市民とエジプト軍が立ち上がり、再び政権を世俗派に戻した。

エジプト軍のシシ最高司令官を中心とする世俗・暫定政権は、ムスリム同胞団の弾圧を開始。ガザのハマスもムスリム同胞団なので、エジプトとガザとの間にあった地下密輸トンネルを次々に破壊。国境も閉じて、ハマスは経済的にも立ち行かなくなっている。

さらにエジプトの裁判所は24日、ムスリム同胞団539人の処刑を決定したと発表した。罪状は警官の殺害や、コプト教徒(キリスト教徒)を殺害だと伝えられている。しかし、中にはアルジャジーラの記者も含まれているとニューヨークタイムスは伝える。

同時にエジプト軍の総司令官で国防相のシシ将軍が、大統領候補に出馬すると発表した。候補といっても対抗馬になりそうな人物はいないので当選は間違いなしとみられる。

シシ氏は、エジプトを安全な国にする国民に訴えているが、異例の500人以上もの処刑に、「エジプトは恐怖政治に逆戻りするのではないか」と世界を震撼させた。欧米は人道の観点からも多いに懸念するとして、エジプトへのさらなる支援削減をつきつけている。

<イスラエルとの関わり>

イスラエルにとっては、エジプトとの和平条約が維持され、国境のシナイ半島の平和が維持されるならば、だれが支配者であってもかまわないというのが基本スタンス。

しかし、エジプトがイスラム主義政権であるより、世俗政権である方がイスラエルにとっては都合がよい。またハマスだけでなく、シナイ半島もエジプトが一掃してくれることはありがたいともいえる。しかし、どこまで信頼できるかはわからないので、イスラエルは無言で、慎重にエジプトの動きを見守っている。

今回、欧米が、エジプトのムスリム同胞団539人の処刑に大きく反応していることについて、イスラエルでは慎重であるべきとの批評記事があった。

無論、大量処刑自体を肯定することはできないが、エジプトが処刑判決を出したのは、ーエジプトの主張によればだがー、反体制派運動や、異教徒への迫害で、殺人などの罪を犯した者たちだという。

かつて”ハマスの息子”モサブ・ハッサン・ユーセフ氏が警告していたように、ムスリム同胞団という組織は80年以上もエジプト政府を悩ませてきた組織。今やエジプトだけでなく、世界中に支部を持つ巨大なイスラム主義組織である。

mスリム同胞団は、ハマスだけでなく、アルカイダの基盤にもかかわった(つまり生み出した)という経過もある。やるなら徹底的に弾圧しないと、戦いが終わらないことをエジプトはよく知っているのである。

それにしても殺人犯をさっさと処刑するエジプト。殺人犯でも処刑しないイスラエルは今、国内に殺人犯を放つことになっている。中東で民主主義を維持しながら生き残るイスラエルのジレンマを見るようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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