イスラエル軍・トルコで野外病院設立へ:被災者2300万人の甚大被害の中 2023.2.8

トルコへ出発するイスラエル軍の医療部隊 IDF

トルコ・シリア大地震:救出隊・72時間の壁との戦い

トルコとシリア国境周辺で6日早朝に発生したマグニチュード7.8の大地震。生存可能な時間とされる“72時間の壁”を目前に、膨大ながれきの下からの生存者救出活動が、夜昼通して続けられている。これまでに8000人ががれきから救出されている。

活動を行なっているのは、地元救援隊と、イスラエル、日本、韓国、アメリカ、中国、ドイツ、レバノン、湾岸諸国など世界30ヵ国からきた救援隊である。普段は協力しない国々も一緒に働いている。しかし、余震は200回以上も発生し、気温は氷点下の極寒で、困難をきわめているという。

死者は、トルコ5434人、シリア1712人だが、時間が経つごとにその数は増えており、最新の情報では、計7700人となっている。

被災は文字通り、あっという間に全てを失った。救援隊が来ないまま、家族がまだ瓦礫の下にいると叫んでいる人がたくさんいるという。寝ている間に発生した大惨事だったので、「起きたら地獄だった」と語っている。

救出された女の子(AP Photo/Ghaith Alsayed)

しかし、奇跡的な話も報告されている。シリアの被災地で、がれきの下にいた、生まれたばかりの女の子が救出されたが、まだ母親と臍帯で繋がっている状態だったという。

母親は死亡していたが、臍帯を通して女の子の命は守られていた。しかし、この家の家族は全員死亡しており、この女の子はただ一人の生存者だった。

トルコのエルドアン大統領によると、トルコにおける被災者は、全人口8500万人のうち1300万人とみられ、国民の15%に及ぶという。トルコでは、政府が用意したシェルターやホテルなどに避難している人は38万人。

被災地では、多くの人々が、シェルターなどに避難しているが、極寒であり、伝染病が蔓延する可能性は非常に高い。人々には、飲み水は必ず沸かしてからと指示が出ている。

被災者数はトルコ、シリア合わせて2300万人になるとの見通しである。エルドアン大統領は、トルコ国内の被災した10州に、向こう3ヶ月感の緊急事態宣言を発令した。

www.timesofisrael.com/idf-to-set-up-field-hospital-in-turkey-to-treat-injured-in-earthquake/

死者の中にユダヤ人2人・パレスチナ人55人確認

トルコ南部被災地、アンタキヤにあった小さなユダヤ人コミュニティの指導者、サウル・セヌギオグルさんとその妻フォーツナさんの遺体が、崩壊した自宅の下から発見された。シナゴーグは全壊ではなかったため、トーラーの巻物は無事救出できたという。

www.timesofisrael.com/head-of-tiny-jewish-community-in-turkeys-antakya-feared-dead-torah-scrolls-saved/

シリアで被災した地域には、ラミル、ラタキヤ難民キャンプや、アレッポにあるネイラブ、ハンドラと難民キャンプが、含まれているが、これらのキャンプには、多くのパレスチナ難民も住んでいた。

パレスチナのメディアによると、これらのキャンプに住んでいたパレスチナ人55人が被災して死亡したことがわかった。これについては、自治政府の在トルコ大使が確認している。

www.jpost.com/breaking-news/article-730844

イスラエルの救援活動開始:イスラエル軍と2民間組織

先にトルコへ出発した救出部隊150人は、すでに瓦礫の下にいる被災者の救出活動を行っている。3人救出したとの報告が入っている。以下はイスラエルの救援部隊の様子。

www.israelnationalnews.com/news/367123

イスラエルは8日、続いて230人のイスラエル軍医療スタッフ(医師、看護師、救命救急師など)を派遣した。トルコの政府の要請に基づき、被災地アダナに医療機器を十分備えた野外病院を、被災地アダナに設立し、負傷者の治療にあたる。リーダーは、救援のベテラン、軍医のエロン・グラスバーグ大佐。

出発するユナイテッド・ハツザラ Times of Israelより

これに加え、民間のボランティア救援隊ユナイテッド・ハツザラによって組織された医療関係者(医師、薬剤師、心理トラウマ専門家など)25人も、10トンの人道支援物資を携えて、トルコ南部被災地、ガジアンテップへ向かった。

リーダーはこちらもベテランのヨシ・コーヘン氏。目的地到着後は、イスラエル軍救援隊と連携しての活動となる。

ユナイテッド・ハツザラの一行には、別の支援組織、トラウマの専門家など少数のイスラエイドのメンバーも同乗。現地を視察し、どんな支援が必要かを調査するとのこと。

政治的な問題で、海外からの支援が入りにくいシリアについて、ネタニヤフ首相は、テントや薬品、毛布などの支援物資を届ける予定だと語った。シリアは、支援を拒否しているので、物資だけの救援になるとのこと。

www.timesofisrael.com/another-israeli-aid-delegation-takes-off-for-southern-turkey-after-deadly-quakes/

石のひとりごと:世界の役に立てることは特権とイスラエル

イスラエルは、ナチスドイツに600万人もの市民が殺される中、世界から見捨てられたユダヤ人の国である。それが建国するやいないや、怒りや恨みを訴えるのではなく、率先して世界を祝福する国になっている。

救援部隊に出ていくイスラエル人たちは、「隣人のために働ける時だ」と言いながら出発している。国民も全員が、これほどの人材と費用を使っていることに、両手上げて同意している。これは注目すべき点ではないかと思う。

しかし、被災地は、中東でもかなり厳しい地域である。今はまだ緊急事態なので、国々も協力もしているが、そのうち、どろどろした争いになっていくかもしれない。

イスラエルにとっても、新たな治安上の問題に発展していくことも懸念されているところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。