イスラエル史上最も予想不能な選挙 2015.3.12

総選挙を6日後に控え、イスラエル国内はますます選挙にわきはじめている。エルサレム・ポストのベテラン政治部担当記者ギル・ホフマン氏は、今回の選挙はこれまでで、最も先行きの読めない選挙だと語った。予想外の動きは以下の通り。

1)ネタニヤフ首相(リクード)の読み違い?

今回の選挙は、ネタニヤフ首相が任期終了を待たずに国会を解散したことによって始まったものである。ネタニヤフ首相は、楽勝を予想していたと思われるが、その予想は間違いだったとホフマン氏。

予想議席数は、最初は右派リクード(ネタニヤフ首相)と、左派シオニスト陣営(労働党のヘルツォグ氏とハツナ党のリブに氏)の接戦だった。しかし、アメリカ議会での演説を終え、選挙日が近づくにつれてシオニスト陣営の方が予想議席数を伸ばし始めている。

11日の予想では、トップは、シオニスト陣営で、120議席中24議席。ネタニヤフ首相のリクードは21議席と、差が若干開き始めた。

それだけではない。選挙の後、だれに連立政権交渉を指名するかを決めるのはリブリン大統領である。ネタニヤフ首相とリブリン大統領は不仲なことで有名で、ネタニヤフ首相はこれまでリブリン氏が大統領にならないように努力していたとホフマン氏は語る。

通常なら、最多数議席を獲得した党首が、連立交渉へのゴーサインをリブリン大統領からもらうわけだが、大統領とは意見があわないネタニヤフ首相は、なんらかの形で、若干不利になるとも考えられるというわけである。

● 戦いは選挙が終わってから始まる

ホフマン氏によると、選挙の結果はどうであれ、問題はその後だという。

もしリクードが最多数議席を獲得すれば、右派政党との連立は問題なく、スムーズに政権を樹立することができる。しかし、このままシオニスト陣営が、最多数議席を取った場合、事はそう簡単にはすすまない。

シオニスト陣営と連立を組む党がみあたらないからである。ユダヤ教政党が、2年後には女性であるリブニ氏が首相になることを前提としたシオニスト陣営と組むことは難しい。

また、リーバーマン氏率いるイスラエル我が家党や、ベネット氏のユダヤの家党などの右派が、左派政党の連立に加わることはあり得ない。中道のラピード氏も今回は最大野党を目指すと言っており、よほど国のためになると判断しない限り、連立には加わらないとみられる。

つまり、たとえ選挙で勝ったとしても、シオニスト陣営が国会で過半数をとるためには、結局、リクードを取り込む以外には、連立政権を立ち上げることができないのである。

では仮にリクードと連立を組んだとしよう。その場合、ネタニヤフ首相が、”ヘルツォグ首相”や”リブニ首相”の元で、外相などの大臣職に甘んじる事はありえない。連立を組む条件として、まずは2年間、ネタニヤフ首相が首相になるという条件を突きつけて来る可能性が高い。

つまり結局、ネタニヤフ首相・・・というのがホフマン氏の推察するシナリオである。

しかし、ホフマン氏自身も言うように、こうした専門家の読みが全く外れることも大いにありうる。まだ14%もの有権者が、どこに投票するか決めていないといっていることもその原因の一つだ。 またこの他に注目されている予想外の要因は以下の2点。

2)以外に人気?:未来がある党のラピード氏

前回の総選挙では、中流世代に優しい政治を訴えた未来がある党(元ニュースキャスターのヤエル・ラピード氏党首)の経済改革に期待が高まり、議席数1位の19議席を獲得するという予想外の結果となった。

ネタニヤフ首相との連立交渉で財務相の座を勝ち取ったラピード氏だったが、口ほどにも変化をもたらすことができず、最後にはネタニヤフ首相から、財務相を解任されるという流れになった。そのため、今回の選挙では、未来がある党は、大幅に議席を失うとみられていた。

ところが、現時点では、その未来がある党(ラピード氏)が、14議席で3位である。住宅価格の高騰に困り果てた有権者が、やはり内政重視を訴える党を支持する傾向がまだ続いているということだろう。テルアビブでは先週、3万人以上が、内政に失敗しているとして、反ネタニヤフラリーを行ったところである。

3)アラブ人の投票率で動くアラブ政党

もう一つの注目はアラブ人政党である。今回は、主要アラブ政党3つが合併して出馬したため、予想議席が、ユダヤの家党などの右派政党をはるかに超えて、13議席となっている。

イスラエルでは、通常、アラブ人の投票率はかなり低いため、主要3党がそれぞれ3-4人づつ議員を出すという形だった。しかし、今年からの新制度で、最低得票率3.25%を達成できない党は、まったく国会に入れない事になる。そのため、3党が歴史的な合併をしたことで、一気に13議席という勢力になったのである。(この3党はいずれもイスラム教徒でキリスト教徒の政党は含まれていない。)

アラブ人は総人口の約20%にのぼる。もしアラブ人の投票率が上がったら、国会に予想議席数13議席を超える勢力になる可能性もある。

そのアラブ政党だが、数日前、左派メレツ党が、共同出馬(余った得票をシェアする)を申し入れた。しかし、アラブ政党は、これを断った。

もしこの合併が実現していれば、ユダヤ人とアラブ人の共同政党があり得たわけである。アラブ政党が、この話を断ったことで、結局は共存ではなく、アラブ人だけの政治を目指している、

つまりはイスラエルをアラブ人の国にするとの野望を持っていることが明らかになったと評する記事もある。  http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4634958,00.html 

日本では、自民党でも民主党でもさほど大きな変化はないかもしれない。しかし、今回は特に右派と左派という大きな違いを含む選挙になっている。どちらが政権をとるかで、国の今後の歩みから存続にまで関わって来ることになる。

リブリン大統領は昨日、「私は投票に行かない。」と主張する市民100人を大統領官邸に集め、話を聞き、投票するよう促した。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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