イスラエル兵誘拐・休戦2時間で崩壊 2014.8.2

8月1日朝9時半、ガザ南部ラファ付近で、トンネルの捜索にあたっていたイスラエル軍部隊が、トンネルから出て来たパレスチナ人に襲撃され、2人が死亡。1人が誘拐された。

イスラエル軍によると、誘拐されたのは、クファル・サバ出身のハダル・ゴールディン中尉(23)。父親でテルアビブ大学のシムハ・ゴールディン教授は、「イスラエル軍と政府を支持する。軍は、息子を必ず無事に奪回してくれると信じている。」と語った。

殺害された2人は、ベナヤ・サレル司令官(26)とリエル・ギドニ軍曹(20)。武装戦闘員は、イスラエル兵のすぐそばで自爆したという。サレルさんは、結婚式を2週間後に控えていた。

戦争で忙しくなって、結婚の準備ができていないことについて、サレルさんは、「準備は、全部彼女(婚約者の女性)がやってくれている。彼女はギバティ部隊司令官の秘書をしている人だから、僕の使命の大切さをよく理解してくれているはず。」と語っていたという。

<休戦崩壊へ>

ゴールディン中尉が誘拐されてから約30分後の午前10時、ガザから1Kmのケレン・ショムロンの検問所が、砲撃を受けた。ここは、主に人道支援物資をのせたトラックが出入りする場所である。

今朝、休戦という情報を受けて、ちょうどこの時間に、多くの報道陣とともに、バスでケレン・ショムロンに向かっていたのだが、確かに、10時ごろから、妙などかんどかんという音が聞こえ始めていた。

バスがケレン・ショムロンに到着したのは午前10時半。この時には、緊急事態を受けて、イスラエル軍が検問所をすでに閉鎖。中に入ることはできなかった。

プレスオフィスが軍に事情を聞いている間、検問所付近では、イスラエル軍の戦車砲と思われる砲撃が、ひっきりなしに聞こえた。実際に戦闘中の戦車は見えないのだが、攻撃している地点が近いせいか、これまで聞いていた地響きのような、どどんという音ではなく、ドピューンといった砲撃のあとに弾丸が飛んで行く音まで聞こえた。

後の報道によると、この付近からラファのガザ南部周辺でのイスラエル軍の激しい反撃で、ガザでは、少なくとも40人が死亡。200人が負傷した。 

ガザからもスデロットや南部周辺にロケット弾が、計61発撃ち込まれたが、今のところ被害は報告されていない。

イスラエル軍のラーナー報道官は、ハマスがイスラエルへの攻撃を開始したことで、事実上、休戦が崩壊したことを認め、イスラエルは、ゴールディン中尉の捜索とともに、断続的な攻撃を再開したと発表した。ハマスが休戦の約束を破るのはこれが4回目。

ネタニヤフ首相は、「ハマスはこのつけを厳しく払うことになる。」と言っている。

<イスラエルの大軍>

ケレン・ショムロン周辺は、小麦の収穫が終わったあとの広大な農地と、白っぽい黄土色の砂埃が舞い上がるだだっぴろい荒野である。

バスで移動中、少なくとも3カ所、戦車がずらりとならぶイスラエル軍の駐屯地が見えた。戦車の中には、イスラエルの旗を高々と掲げているものもある。時々移動している車両が砂埃を上げている。戦車もその周囲にいる軍車両も兵士もテントも、すべてが砂埃で白っぽくみえた。

イスラエルは予備役をさらに1万6000人招集し、今では8万5000人の大軍となっている。昨日はゴラン高原にいたのだが、普段は北部で見られる戦車がほとんどいなかった。皆、南部ガザ周辺に行っていると聞いていたが、まさにそれぐらいの戦車が見えた。

<ハマスの策略!?>

イスラエルが、ハマスの攻撃によって休戦が頓挫したと発表した後の正午ごろ、ハマスは、「イスラエル兵殺害については午前7時であり、休戦に入る前だった。約束は破っていない。」と主張している。ハマスは予定通り、アッバス議長の代表団に合流し、予定通り、カイロへ赴く構えである。

思えば、ハマスが、これまで拒否していたエジプトの仲介を急に受け入れると言い出したのは不思議だった。休戦により、空軍の援軍がない状態で、トンネル捜索を続けるイスラエル兵。彼らが無防備になった時を見計らって誘拐し、交渉を有利にすすめる計画だったのではないかとの分析もある。

エジプトは、イスラエルの休戦中断との発表を受けて、カイロでの交渉は延期することを決めた。

<戦いをあおるハマス>

ハマスは30日、レバノンのヒズボラに対して、イスラエルを北部から攻撃するよう、呼びかけた。また西岸地区と東エルサレムのパレスチナ人にも新たなインティファーダを始めるよう、呼びかけた。

1日は金曜日。神殿の丘での祈りが終わって出て来たイスラム教徒アラブ人とイスラエルの治安部隊が衝突。39人が逮捕された。西岸地区でも同様の衝突が発生し、パレスチナ人1人(22)が死亡した。これはハマスの呼びかけに応じたものと考えられている。

ガザでの作戦が脚光をあびる中、東エルサレムや西岸地区では、不穏な緊張が続いている。東エルサレムに住むクリスチャンのパレスチナ人Aさんは、妻と子供たちを守るため、一時ヨルダンに避難させたという。

しかし、それはパレスチナ人の暴動が危ないのではなく、過激なユダヤ人”入植者(セトラー)”が危ないからだと言っていた。Aさんによると、7月初頭にパレスチナ人の少年が殺害されて以来、時々入植者が来ては、子供を誘拐しようとしたり、通りがかりのパレスチナ人に暴力を振るっているという。

Aさんは、ガザで家族を殺された人は、イスラエルへの憎しみを持つことになると訴える。「イスラエルに反抗するつもりはないが、ガザへの攻撃は間違いだったと考えている。」と言った。

日常的にユダヤ人との衝突が耐えない西岸地区パレスチナ人が、今ガザの悲惨な様子を見て、イスラエルへのさらなる憎しみとともにハマスを応援する心を持つ結果になっているからである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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