イスラエル・UAE・バーレーンの国交正常化署名完了 2020.9.16

手前がバーレーンのザイマン外相、ネタニヤフ首相、トランプ大統領、UAEのザイード外相 出展:ホワイトハウス

ワシントンでアブラハム合意宣言に署名

15日、予定どおり、ワシントンのホワイトハウスで、トランプ大統領を仲介者として、イスラエルとUAE、イスラエルとバーレーンが、国交正常化合意書に署名、さらに、3つ目の合意となるアブラハム合意宣言にも署名した。

今回、署名式に出席したのは、イスラエルのネタニヤフ首相と、UAEのアブダラ・ビン・ザイード外相、バーレーンのアブダラティフ・アル・ザイマン外相であった。湾岸アラブ諸国外相が、ともにアラブの民族衣装ではなく、通常のビジネス・スーツ・スタイルであったのが、印象的だった。

ホワイトハウスで行われた記念式典には、700人が参加した。サウジアラビアは、式典に代表を出していなかったが、トランプ大統領は、サウジアラビア含む、7−8カ国が、イスラエルとの国交正常化に向かうだろうと述べ、注目されている。

合意内容の概略は以下の通り。

1)イスラエルとUAE:「平和条約」

イスラエルとUAEの条約については、「平和条約」とされ、両国の平和、外交関係、大使館、ビザ、民間航空、イノベーションや、スポーツ、農業技術など様々な分野で、協力し、互いの繁栄を追求していくことで合意していくことが盛り込まれている。かなり詳細。

www.timesofisrael.com/full-text-of-the-treaty-of-peace-signed-by-israel-and-the-united-arab-emirates/#gs.fpiy42

2)イスラエルとバーレーン:「平和、協力、建設的な外交友好関係の宣言」

地域の安定、安全、繁栄のためみ、友好と協力の時代を開くことに合意する。イスラエルとバーレーンは、完全な外交関係を樹立し、武力の行使を避け、共存と平和の文化を全身させる。

この精神のもと、投資、観光、直航便、テクノロジー、通信など様々な分野での詳細な合意を、数週間以内に実現することで合意する。イスラエル・パレスチナ紛争の公正で、永続的な解決を達成するよう努力する。など。

www.timesofisrael.com/full-text-of-the-declaration-of-peace-signed-by-israel-and-bahrain/#gs.fpgj0m

3)アブラハム合意

①異文化間の対話を促進し、アブラハムの3つの宗教と、すべての人類の間の平和を促進していく。
②課題に対処する最良の方法は協力と対話を通してである。
③信仰、民族にかかわらず、すべての人に寛容と尊敬を求める。
④科学、芸術、医学、経済の取引をサポートし、人間の可能性を最大に引き出す。
⑤子供達のよりよい未来のために、過激可と紛争を終わらせる。
⑥中東、世界の平和、安全、繁栄を追求する。

www.timesofisrael.com/full-text-of-the-abraham-accords-signed-by-israel-the-uae-and-bahrain/#gs.fpice4

今回の合意は、まさに歴史的だとして、トランプ大統領は、「何世紀にもわたる分裂と紛争の後、新しい中東の夜明けを見ている。」と述べた。ネタニヤフ首相は、「これは首脳どうしだけの和平ではない。人々同士の和平だ。」と述べた。

パレスチナ人に口だけ配慮?:UAEとバーレーン

UAEのザイード外相は、「中東の中心で、変化を目撃している。世界に希望をもたらす変化だ。」と述べた。ザイード外相は、イスラエルに対し、西岸地区入植地(30%)の併合を中止したことに対する感謝とともに、UAEは、パレスチナ人を忘れていないと強調した。

バーレーンは、国内には、イランを警戒するアメリカの第5艦隊の司令部を置いている。しかし、国内には、イランと同じシーア派が多数派なので、国内には今回の合意に反発する勢力も大きい。ザイード外相は、イスラエル、アメリカとの国交は、イラン情勢が悪化する中で、バーレーンの安全保障のためでもあると強調した。一方で、ザイマン外相も、挨拶にパレスチナ人とともに立地続けることを強調する内容を盛り込んだ。

両国ともパレスチナ人を裏切ったわけではなく、この合意がパレスチナ人の益になると強調すると強調した形である。

しかし、どちらもパレスチナ自治政府が主張しているアラブ・イニシエチブ(アラブ連合が合意するパレスチナ問題の解決案・イスラエルの1967までの撤退含む)には触れていないことが注目されている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/287266

なお、西岸地区入植地の併合については、イスラエルの理解では、今は単にいったん棚上げしただけで、将来にわたって中止したわけではない。

www.ynetnews.com/article/186KP7TG3

元国連大使のダニー・ダノン氏はこれについて、最終的には、西岸地区入植地の併合はイスラエルが決めることで、他国の承認は必要ないと主張。かつて、ゴラン高原もそのようにして、イスラエルの決断のみで併合に至っていると述べた。

*湾岸諸国とイスラエルの和平はパレスチナ人の益になるのか?

UAEはこの合意が、実際には、パレスチナ人の益になると主張している。これについて、ダノン氏は、今後、イスラエルと和平を結ぶ国と、敵対する国に分かれていく中で、パレスチナ人が、湾岸諸国とともに、イスラエルとの和平に続く側につくことは可能だと述べた。

しかし、同時に、だからといって、イスラエルは、パレスチナ人が和平に動いてくるまで待つことはないと強調。和平が可能な国とは、どんどん和平を進めると述べた。言い換えれば、益にはなり得るが、パレスチナ人は、その道を選ばず、反発を続けて、繁栄の道は選ばないだろうとの見通しである。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/287357

トランプ大統領がシリアを黙らせた?

シリアについては、イスラエルとUAEのスタンスは正反対であった。

イスラエルは、シリアにイランが進出してくることに神経をとがらせており、もう数え切れないほどのイラン拠点への攻撃を実施してきた。

ワシントンでの合意直前の13日にも、シリアのアレッポ郊外にある軍事拠点が、イスラエルによるとみられる攻撃を受けている。翌朝、イランの核関連基地とみられた施設が破壊されている衛星写真が公開されている。この攻撃で、イラン関係者10人が死亡したとのこと。

www.timesofisrael.com/israeli-intel-firm-friday-airstrikes-in-syria-hit-missile-production-facility/#gs.fpyr7u

一方でUAEは、シリア(アサド政権含む)の復興支援のために多額を拠出し、シリアをアラブ連盟へ復帰させようと努力していたのであった。

こうした動きに対し、イスラエルと同様、イランと対立を深めるトランプ大統領は、2020年にシーザー法という、シリア国民を虐げているアサド政権や、ロシアやイラン関係する様々な組織に、経済制裁を発動するという法律を、2020年6月17日に発動させた。これにより、現在、アサド大統領含む、37団体が制裁の対象になっており、困窮が深まっていると思われる。

今、シリアが、イスラエルとUAEの合意への非難を抑えているとみえるのは、もしかしたら、今回の合意に黙っている見返りとして、UAEからの復興支援を継続するといった取引になっているのではないかとの分析もある。

イランを封じ込めようとするトランプ大統領の計算高い策略があった可能性も指摘されている。

www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/08/uae-6_2.php

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。