イスラエルの対コロナ戦略に休みなし 2020.4.12

出展:Jerusalem Post / Mark Israel Sellem https://www.jpost.com/Breaking-News/Coronavirus-Jerusalems-restricted-zones-announced-take-effect-Sunday-624371

イスラエルは今、過越の例祭中だが、対コロナ戦略に休みはない。現状の分析、課題の洗い出しと、早めの備えが続けられている。失敗や課題は、日々明らかになってはいるが、それに取り組むスピードは、まさに他国に例をみない速さである。

政治的には、ガンツ氏が折れて、ネタニヤフ首相とともに連立政権をたちあげるべく、交渉がすすめられた。しかし、過越前に連立を立ち上げることはできなかった。ガンツ氏は、組閣まで2週間の延期をリブリン大統領に申請した。

イスラエル感染の現状

12日朝、感染者は1万743人、死者は103人。人工呼吸器依存者は129人。今後死者はまだ増えて行く見込みだが、これは前から重症だった人が死亡しているのであって、新しく感染、死亡しているわけではないとみられている。新しく感染する人の数は、減少傾向にある。

www.timesofisrael.com/israels-coronavirus-death-toll-climbs-to-97-with-10525-confirmed-infected/

また、イスラエルでの感染は、主に高齢者施設の基礎疾患を持つ高齢者と、とユダヤ教超正統派エリアで、地域的はエルサレムが多いなどが明らかとなってきたため、そこを集中的にカバーする方策もはじまっている。新しくはじまった戦略は以下の通り。

1)エルサレムのユダヤ教超正統派エリアを封鎖

保健省の土曜の時点でのデータによると、エルサレムの感染者は1800人近くで、死者も21人と全国の4分の1をしめている。その75%は、ユダヤ教超正統派地域在住者である。

エルサレム市は、過越の前から、封鎖という事態に備え、町を7つのゾーンにわけて、その準備は行っていた。しかし、過越で住民との対立が懸念されたため、まだ封鎖には至っていなかった。

www.jpost.com/Breaking-News/Coronavirus-Jerusalems-restricted-zones-announced-take-effect-Sunday-624371

しかし、国会も封鎖に合意したことで、12日午後12時、ハル・ノフ、ラモット、ロメマ、ネエベ・ヤコブ、メア・シャリーム、ゲウラなど、超正統派住民がほとんどの地域を含む4ゾーンで封鎖が始まった。住民は、様々な例外で許可があるケース以外、居住区を出ることは禁じられている。町の出入りは警察によって監視されている。

外出制限の度合いは、完全な封鎖ではなく、現在、数日間の完全封鎖から、少し緩和された今のブネイ・ブラックと同レベルの封鎖だという。

www.timesofisrael.com/jerusalem-ultra-orthodox-neighborhoods-to-be-locked-down-starting-sunday/

2)北部の町で自主封鎖(アラブ系・ユダヤ系)

イスラエルでは、過越の初日から丸1日、国をロックダウンして、都市間の移動を禁止した。これについては10日に解除された。しかし、北部のアラブ人地域、ユダヤ人地域の中には、自ら町を封鎖し、住民以外の侵入を拒否する町もでてきている。ダブリア、ジス・アル・ザルカ、クファル・ハシディム。

アラブ系住民については、検査の遅れが指摘され、そこからの爆発感染が懸念されていた。これまでに1万4000件の検査が行われ(東エルサレム以外の地域)、感染者は278人となっている。*東エルサレムについては別の課題があり、別に報告させていただく。

www.timesofisrael.com/3-israeli-towns-close-roads-to-outsiders-due-to-fears-of-virus-spread/

3)イスラエル人にマスク着用を義務付け

イスラエル保健省は、イスラエル人に対し、日曜朝より、食料買い出しなどで家から出る場合は、マスクを着用することを義務付けると発表した。ただし、6歳以下、精神に課題ある人などは別としている。なお、”要請”の日本と違い、義務ということは、マスクを着用していないと警察に注意されることになる。

www.timesofisrael.com/israelis-to-begin-wearing-face-masks-outdoors-under-new-order/

4)ワイツマン研究所が検査1000件/日を担当:政治と科学の分離

イスラエルは、状況把握のため、できるだけ多くの検査を行う作戦を続けている。1日に1万件からネタニヤフ首相は最大3万件を支持している。しかし、先週になり、検査キットの材料が不足するという事態になった。また、検査の誤差の懸念も持ち上がった。

検査に関する透明性を強化するため、多岐にわたる領域での科学研究所であるワイツマン研究所が、1日1000件の検査を担当することとなった。

これは科学的に判断するべきことが、政治的な影響をうけないようにとの計らいでもある。

www.ynetnews.com/article/0W5T789C1

4)血清療法の臨床実験

イスラエルは、人工呼吸器に依存している29歳の重症患者(超正統派・これまでの最年少)に対し、新型コロナに感染し、回復した人の血清を投与する治療を始めた。コロナウイルスに対する抗体を移植するようなものである。この男性は、基礎疾患があり、入院から1週間半で重症化していた。

いうまでもなく、新たな実験的なこころみである。患者は、重篤だが、落ち着いているとのこと。同様に治療をベエルシェバで男性(60)にも実施され、現在少し状態が緩和し始めているとのこと。

血清の献血をする人は、新型コロナ陰性の結果が出てから2週間経過した人である。

www.jpost.com/HEALTH-SCIENCE/29-year-old-among-first-to-be-treated-with-MDA-passive-vaccine-624353

5)治療の可能性ある薬・医療物資大量到着

イスラエルは、効果があるかもしれないと言われている既存薬を、世界中からかき集めている。日本のアビガンもその一つである。エルサレムポストによると、マラリアに聞くクロロキニーネ240万錠が、イスラエルに到着した。輸入元は非公開。

このほか、イスラエルは、2.5トンの麻酔薬をイタリアから、中国から何百万枚ものマスクや防護服を輸入することに成功している。

www.jpost.com/health-science/24-million-doses-of-experimental-coronavirus-drug-land-in-israel-624356

復活祭と祭司の祈りが同時進行

人事を尽くして天命を待つ・・・ではないが12日は、ユダヤ教過越の祭の、中日で、祭司の祈りとされる日であった。祭司は、聖書に記されている神殿で、働きをしたひとびとである。祭司は人間的に選ばれた人ではなく、神に選ばれている人として、コーヘン一族に属する男子と認識されている。

この日は、この祭司たちが、本来なら神殿で祈るところ、嘆きの壁で、神にむかって、イスラエル人を代表して、神に祝福を祈る。通常なら、嘆きの壁広場は、祭司の一段と、その祈りの祝福を直接受けようとするユダヤ教とで超満杯となる。

今日は、嘆きの壁の前に、マスクを着用し、祈りのショールをまとった祭司たち10人が、2メートルの間隔をあけて、神にいのりを捧げている。祭司たちが祈るのは、イスラエルのためだけではない。コロナ危機にある全世界のために祈るのである。して最後には、民数記6:24−27を祭司全員で祈って終わる。

その様子は生中継され、イスラエル人たちが家庭で見ることができるようにされた。(出展:Western wall heritage center/ GPO)

www.ynetnews.com/article/BkWHTIg00L

ちょうど同じ時間、園の墓では、イエス・キリストの復活を記念する礼拝が、時差を鑑み、4回に分けてささげられた。出展:CBNNews
*12日は、カトリックとプロテスタントの復活祭。ギリシャ正教などの東方正教会系の復活祭は19日

石のひとりごと

日本では、コロナとの戦いは戦争と位置付ける海外の動きに懸念を表明する人もいる。しかし、イスラエルの動きを見ていると、これは戦争以外の何物でもない。政府の出してくる戦略は、国民が考えるより早い。それこそが政府や軍の仕事だからである。国民もこれを意識して、彼らに投票、選出したわけなので、とりあえずは信頼しついていく。戦争となると、国と国民が一丸となって戦っている。

イスラエルの戦い方は、医療におけるステロイド療法を連想させるものがある。ステロイド(副腎皮質ホルモン)療法は、効果は絶大だが、副作用も重大なので、医師は慎重になる。しかし、イスラエルやアメリカでは、主に炎症が課題となる疾病において、これを一気に大量投与してまずは炎症を軽減させることがある。

炎症はたいていすぐに消失する。その後、炎症が再燃しないように注意しながら、徐々に減量し、早期に離脱を図る。短期で切り上げることができれば、副作用は心配ない。ところが、日本では、副作用への懸念が先立ち、なかなか処方してもらえない。患者は、延々と苦しみに耐えることになる。

今、イスラエルが、コロナ対策でやっているのは、これに近い作戦にみえる。一気に封鎖してコロナを封じ込め、再び出てくることがないよう、厳格な現状の分析をもって、徐々に経済活動への制限を解いていく。これでいくと、封鎖を短期間で終わらせることができ、経済への影響を最小限に抑えることも可能になる。

これは、日本のクラスター対策班の西浦教授も主張している作戦である。しかし、日本のコロナ対策は、どちらかといえば、政治と経済が優先なので、イスラエルのように、事をすすめることができない。中途半端な封鎖なので、コロナの封鎖に時間がかかり、経済への影響も延々と続く可能性がある。

日本の作戦に関する情報がうまく伝えられていないだけならよいのだが、どうも日本の戦略が見えにくい。テレビで何週間も同じ議論が繰り広げられている様子に恐怖すら感じる。

予想がはずれたらよいのだが、かつて、バビロンが攻めてくるというのに、主のいうことを聞かない王たちを前に、エレミヤが感じていた気持ちがわかるような気もする。

主が私たちの国を哀れんでくださるように!

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。