イスラエルの世界一地下緊急医療施設 2014.3.26

イスラエルと北部で国境を接しているレバノン。そこにいるヒズボラは、2006年のレバノン戦争でイスラエル北部都市にミサイルを撃ち込んで大きな被害をもたらした。

このときの戦争でヒズボラは、イスラエルから大きな打撃を受けたものの、イランの支援ですみやかに回復し、今では以前よりハイテクのミサイルを10万発以上イスラエルに向けて並べている状態だ。

こうした状況を受け、2008年、ハイファの総合病院で、研究および医療教育の中心でもあるランバン・メディカル・センターは、地下3階分に及ぶ外界の脅威から隔離された緊急総合医療施設の建設に着手した。

それが6年後の今年ほぼ完成し、実験をかねた最初の訓練が昨日、行われた。

<駐車場が医療施設に早変わり>

病院とはいえ、行ってみると、一見、1500台収容のどこにでもある3フロアの病院駐車場。しかし、その天井や壁の中などに空気清浄の他、自動発電、酸素、水(トイレ、シャワーなど)、下水のライン、医療物品の備え、そして関係者によるとおそらく最も重要なコンピュターシステムなど、病院に必要な設備がすべて整えられている。

つまり、一見、駐車場だが、48時間以内にすっかり大病院に変身できるようになっているのである。

緊急事態とはいえ、たんなる即席の野戦病院設営ではない。手術室や集中治療室、透析施設など本格的な医療施設に早変わりするのだ。収容人数は2000床。ランバンの患者以外に、他の病院の患者も収容することができる。

この地下施設は、ミサイルはもちろん、化学兵器や生物兵器からも遮断されており、いわばイスラエルでも最も安全な場所の一つ。大地震の際にも対処できるようになっている。

この地下医療施設は、電気が遮断されるなどの事態になっても72時間は機能し続けることが可能。地下医療施設としては世界最大規模とのこと。

施設の建設には4億5000万ドル(450億円)かかっている。中心的な出資者は、ユダヤ人のミリオネア、サミー・オフィル氏。イスラエル政府も多少は出資している。

今回の訓練では、実際に患者の搬送から、酸素や呼吸器、透析を稼働するまでにどれぐらいかかるかなどのチェックがなされた。以後は部分的な訓練が続けられることになっている。駐車場としては1ヶ月後にオープンの予定。

<石のひとりごと:ユダヤ人の底力にあらためて脱帽>

この医療施設の訓練の様子を見学しながら、「その日」の様子を考えてしまった。2000人以上の重傷者とその間を飛び回る医療スタッフ、軍関係者。叫び声がとびかい、大変な混乱だろう。もしかしたら、地球上で最後の人類が生き残るのがこの施設かもしれない(ここはエルサレムではないが)・・・まるでSF映画の世界だ。

この病院をみながら、ノアの箱船を思い出した。戦争か地震がやってくることはわかっている。しかし、それでもまだおこっていないことである。

確かにランバン・メディカル・センターは、2006年の第二次レバノン戦争では、実際に病院が攻撃を受けた経験がある。しかしそれでもこれほどの施設を、「おこると仮定して」450億円も、ほとんど一人の人が投資するのはすごいとしかいいようがない。

ちなみに投資したサミー・オッフェル氏は今はもうこの世の人ではない。まさに、人々の命を助けるために、全財産をささげたということである。こういうところがユダヤ人のすごいところだ。終末の最後の最後まで生き延びているのがユダヤ人だというのも納得できるような気がした。

もう一点は、イスラエル人の緊急事態での段取りの良さ。普段はかなり行き当たりばったりなのだが、この医療施設では、完全なマニュアルができている。

つまり、いったん指令がおりると、だれが何をどうするのか、かなりの詳細にわたったマニュアルができており、だれもが慌てる事なく、混乱なく動けるようになっているのである。まさに緊急事態に強い、いやそういうときこそ本来の能力を発揮する人々、それがユダヤ人なのである。

日本も大地震が来る事はもうわかっている。しかし、この医療施設ほど具体的な準備はおそらくできていないだろう。私たちも、まだおこっていないことに、しかも同胞たちのために大胆にお金と時間を投資するというメンタリティを、イスラエルから学ぶ必要があるのかもしれない。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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