イスラエルのコロナ感染者298人:隔離に負けないイスラエル人 2020.3.17

嘆きの壁 出展:Western Wall Heritage Foundation

欧州やアメリカでのパンデミックが深刻になる中、イスラエル国内の感染者の数も増えつづけている。3月17日現在、298人の感染が確認された。このうち、重症は4人。感染者のうち24%は無症状。26%に呼吸器症状、14%が呼吸器症状と発熱がある。

新型コロナの検査を受ける人も激増している。チャンネル12によると、先週は400件であった検査件数が、今週は1200件。来週は2400件と予想されている。

エルサレムとテルアビブの間にある町、キリアト・エアリムでは、住民の約半数が自宅隔離となっており、8人の感染が確認されている。この町のみの閉鎖が検討されているが、今の所、ヨーロッパ諸国のような国全体の隔離は予定していないとネタニヤフ首相は言っている。

<呼吸器1000機を準備:空いたホテルを病室に準備>

重症に陥る患者が増えることに備え、健康省は、あらたに人工呼吸器1000基を準備した。現時点で人工呼吸器は3100基と予備に450基あるとのこと。

これは、イギリスが人口10万人につき8基しかないのに比べ、イスラエルでは、40基あるということになる。アメリカは、10万人につき52基。イスラエルの準備はかなりハイレベルになる。

www.jpost.com/Israel-News/Health-Ministry-to-order-1000-ventilators-boost-ICU-capabilities-621180

主に軽症者を収容するホテルは、テルアビブのダン・パノラマ、エルサレムでもダン系列のホテルが、隔離施設として準備が進められている。

www.jpost.com/Israel-News/Dan-Panorama-and-Hyatt-hotels-to-open-as-coronavirus-quarantine-centers-621200

<携帯によるサイバー監視はむこう30日:罰金もあり>

ネタニヤフ首相が提示した携帯によるサイバーテクノロジーによる感染者の監視は、司法庁に続いて閣議でも承認された。しかし、民主国家がこれを実施するとなると、著しく人権を侵害することになるため、閣議での審議の結果、向こう30日との期限を決めた。

これにより、今後30日間、国民の動きは、国内の治安を管理するシン・ベトが管理し、感染者の位置確認や、移動を厳しく監視することになる。まさにテロリスト監視と同じということである。

すでに防護服姿の警察官が感染者を逮捕する様子や、病院から患者が、窓を割って逃げたなどの報告もある。

なお、罰金は、①隔離を守らなかった場合、5000シェケル(約15万円)、②海外から帰国した時や自主隔離に入ったことを保健省に報告しなかった場合3000シェケル(約9万円)、③警察の指示に従わず、大きな集会を行った場合5000シェケル(15万円)

www.ynetnews.com/article/Bkoj48THL

<案の定・・・休暇楽しむイスラエル人も>

アウトドアなイスラエル人にとって、この春の素晴らしい季節に家の中に閉じこもっているということは相当難しいと思われる。

テルアビブでは、多くの家族連れや人々が、ビーチや、ヤルコン公園を訪れている。人々は、子供たちも家で飽き飽きしており、他者との距離を保つように気をつけながら、出てくるしかないと言っている。ビーチでは、普通に結婚式も行われていた。

www.ynetnews.com/article/BkxQgVTrU

アパート群では、バルコニー越しに結婚式をいっせいに祝っている様子も伝えられている。

www.jpost.com/Israel-News/Israelis-on-balconies-serenade-couple-getting-married-amid-coronavirus-621255

<嘆きの壁で祈る人は距離を開けて>

嘆きの壁でも、チーフラビの指示にもかかわらず、祈りに来る人は続いている。こちらも、他者との距離はとっているようである。

イシバ(ユダヤ教神学校)では、大人数の学生が一つの部屋にせまぜまと集まって論議するというスタイルである。保健省は、イシバを閉鎖するよう、勧告したが、最終的に閉鎖はしないということになった。

<石のひとりごと>

イスラエルのコロナ対策があまりにも劇的ではないかと思う人もいるかもしれない。

コロナ関連からもイスラエルについて見えてくることがある。まず、イスラエル人は、基本的に自立しているということ。前にも書いたが、政府を信頼しつつも、うまくいかないことがあることも十分予知しているので、政府に協力しながらも、最終的には自分でどうするかは決めている。政府に全面的な責任を追及しないのである。してもしかたがないからである。

次に、イスラエル政府はやはり、最悪を見据えて、その準備をするということ。呼吸器の準備やホテルの準備からもそれがわかる。国民がそれを嘲笑う事はない。

イスラエルは、今、民主主義と国民の命を守るということの両立のジレンマを経験しているが、国民のすべてが、最終的には、命が最も大事だということを十分理解しているので、今のところは、大きな問題にはなっていない。

このいのちへの考え方が、イスラエルは独特だと思う。ホロコーストを経験したこともるためか、同胞であれば、だれであっても、たとえ障害があっても、高齢であっても、命だけは最優先している。

日本では、最近、障害者19人を、「生きていても皆の迷惑になる」と信じきって殺害した者が死刑宣告を受けた。しかし、この件を通して、この犯罪者の意見に同意するものが少なくないことが議論になり、その答えが出ないという結果になっている。

イスラエルでは、このような考え方は存在していない。たとえ一人でも、障害があって、生産性がない人でもいのちはいのちであり、生きている意味がない、存在の意味がないなどと考える人はいない。そこに答えが出ない・・というとことろが、やはり、いのちは、人間の理解を超えて、創造主である神のものであるという聖書の理解が、我が国にはないということだろう。

今回、イスラエルが過ぎるほどにも感染防止対策を行っているのは、ともかくも一つでも、命を守ることを最優先しているからである。

イスラエルには、「これも過ぎ去る。」という考え方がある。いつ終わるのかわからないが、いつかは終わる。そうやって、彼らは苦難を乗り越えてきた。

また、イスラエルは、転んでもただ起きないという姿を何度も見てきた。ここから、彼らが何を導き出してくるのか。それもまた注目される点である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。