イスラエルのイラン攻撃現実味:バイデン米新政権発足にむけて 2021.1.16

F35ステルス戦闘機 出展:IDF spokesperson office

1月20日、アメリカのバイデン新政権が発足することになった。今回は、上院、下院とも民主党が過半数で、ねじれがないため、左派的な政策がどんどん進められていくようになると予想される。これはイスラエルには、難しい時代の到来を意味する。

特に問題は、イランである。バイデン候補は、オバマ前大統領の時代、副大統領として、2015年のイランとの核合意を成立させた人物である。大統領に就任後は、イランとの再交渉にのぞみ、トランプ政権の時に離脱したイランとの核合意に戻る可能性を示唆している。

これが実現してしまうと、イランへの経済制裁が解除され、イランはウランをすぐに90%にまで濃縮して、核兵器を作ってしまう可能性も否定できない。殺人ドローンや、弾道ミサイルの開発が加速するかもしれない。

これまで、イランはアメリカの新政権の行方を見守っていたようだが、トランプ大統領が消えることが確定となった今、前より大胆に軍事行動を始めたようでもある。これをイスラエルが黙って見ていることはなく、シリアのイラン革命軍関係地点への攻撃の回数が増えている。

今後、バイデン新政権の出方によっては、イスラエルがイランの核施設に対する軍事行動もありうるのではないかと、緊張が高まりはじめている。

大胆になりつつあるイランの軍事行動

1)ウランの濃縮と核兵器への歩みを始めたイラン

イランは今月4日、ウラン濃縮を20%にまであげると発表した。これは平和的利用には不要なレベルであり、20%まで濃縮できれば、核兵器に必要な90%の濃縮までは比較的容易といわれている。

あきらかに2015年に交わされた核合意に反する。この合意に関わってるイギリス、ドイツ、フランスは、この発表の翌日、イランに、これをやめるよう警告をだした。

ネタニヤフ首相は、今、イランが核兵器保有をめざしていることが明らかになったと述べ、「イスラエルは、イランの核兵器開発を決して容認しない。」と釘をさした。

その後13日、IAEA(国際原子力機関)は、ウラン金属の研究開発にも着手していると報告した。ウラン金属は、核兵器の中核部分に使われるものだという。イランが急速に核兵器に近づいている可能性がある。

jp.reuters.com/article/iran-nuclear-idJPL4N2JO4KD

ネタニヤフ首相が言うように、イスラエルが、イランの核開発を容認することはありえない。バイデン政権の出方いかんにかかわらず、イスラエルがイランの核開発拠点を攻撃する可能性は、いつ発生してもおかしくない事態になっている。

2)神風ドローン開発・イエメンに配置でイスラエルも標的内に

今世界では、ドローン、特にAIによって標的をみつけて自爆攻撃をするドローンによる戦争スタイルが本格化している。これらは人間が指令しなくても、AIが管理するドローンが徘徊し、敵の存在を見極めると自動で攻撃をしかけることができる。敵陣地に人間に変わってドローンが侵入していって戦う形である。

その様子から、これらは、「神風ドローン」と呼ばれている。1年前に、米軍はこのようなドローンを使って、イランのスレイマニ総司令官を暗殺したのであった。無論、イスラエルも相当高度なドローンを開発している。以下はラファエル社のドローン

イランも高度な神風ドローンを開発し、今年年明けの5−6日、アラシュと名付けた神風ドローンを3含む、様々なドローン数百台のテストを公開した。アルジャジーラが、イラン陸軍副長官からの情報として伝えたところによると、空対空ミサイル、陸上標的への攻撃能力が証明されたとのこと。

www.aljazeera.com/gallery/2021/1/5/in-pictures-irans-military-holds-first-ever-drone-drill

www.tehrantimes.com/news/456789/Iranian-Army-unveils-7-important-new-drone-technologies-in-the

イランは、シャヒード136と呼ばれる神風ドローンを、イエメンの傀儡過激派組織フーシ派に配備している。これにより、発射地をイランと断定されることなく、周辺湾岸諸国とイスラエルも攻撃することができるようになっている。

www.jpost.com/middle-east/reports-that-iran-has-expanded-kamikaze-drone-base-in-yemen-655409

3)弾道ミサイル発射含む軍事訓練を連発

上記ドローンの訓練に続いて、13日、イランは、オマーン湾で、海軍の短距離ミサイルの訓練を2日間行った。15日には、海軍のパレードも行っている。

続いて15日、イラン革命軍は、イラン中央付近で、”敵基地”攻撃を模擬した弾道ミサイル(射程700キロ)の発射を含む大規模な軍事訓練を実施した。

今回発射された弾道ミサイルは射程700キロで、450キロの爆弾を弾頭に装着できるミサイルである。このほか、イランは、最大射程2000キロのミサイルを保有しており、イスラエルと、中東のすべての米軍を射程に収めていることがわかっている。

www.timesofisrael.com/iran-holds-ballistic-missile-drones-drill-amid-tensions/

4)イラン首都にアルカイダ拠点・スンニ派過激組織も受け入れか

昨年夏、アルカイダ(アメリカ同時多発テロ9/11主犯)のNo2であるアル・マスリが、テヘランで暗殺された。アル・マスリを暗殺したのは、アメリカの要請を受けたイスラエルであったとみられている。

表立った衝突をさけるためか、イランもアメリカもこれまで、この暗殺がテヘランで起こったとは認めてこなかった。しかし、今回、ポンペオ米国務長官は、アルマスリがイランの首都テヘランで暗殺されたと認め、アルカイダが。イランの保護を受けてその首都に拠点を置いていると報告した。

また、イランを拠点にしながら、アルカイダが、アフガニスタン、パキスタンの過激派とも連絡をとりあっており、イランが、今や世界の大きな脅威になっているとも述べた。ポンペオ国務長官は、「これまでは、イスラム教のシーア派とスンニ派は、敵対していると考えられてきたが、今はそうとは限らない。」と述べた。

アメリカは、今現在のアルカイダ首脳アル・マグレビを指名手配し、イランのどこにいるのか情報をもたらす者に、700万ドルの報酬を出すなどとして情報収集にあたっている。

ただし、トランプ政権が終わる直前でもあるため、次期バイデン政権が、容易に今の中東の力関係を崩すことがないように動いており、これもその一環であるとの見方もある。

www.bbc.com/news/world-middle-east-55631403

5)シリア南部にヒズボラ型イラン傀儡組織「ヒズボラ・シリア」を設立か

www.timesofisrael.com/iran-trying-to-deepen-roots-in-syria-despite-signs-it-may-no-longer-be-welcome/

シリアのアサド大統領は、イランとロシアの助けを受けて、今も大統領として国を維持している状態である。イランは、その見返りとして、シリア国内にイラン革命軍を配置して、じわじわとイスラエル国境にその拠点を近づけている。

イスラエルはこれを次々に空爆して破壊するという応酬が続いていた。このため、シリアは、今や戦争があるかないかわからないような状態に置かれ、国の復興はいっこうにすすんでいないという状況である。

湾岸諸国、特にかつてはイランとの友好関係をいじしていたカタールが、イスラエルとの国交に踏み切る中、シリアも揺らいでおり、イランの存在が重荷になってきているとの分析もある。

こうした中、イランが、シリア南部において、地元シリア人を支援して抱き込む形で、傀儡組織をつくるとの方向転換をしている気配があるという。

これはレバノンにいるヒズボラは、イランの傀儡でありながら、レバノンのれっきとした一つの政党である。ヒズボラは今も社会活動を通じて、レバノンの人心を引きつけてきた。こうした組織は、イラクにもあり、「カタイブ・ヒズボラ」と呼ばれている。

ヒズボラ・シリアが拠点とするのは、ゴラン高原シリア側で、スェイダ、ダラア、クネイトラに囲まれた部分とみられる。レバノン南部に加えて、シリア南部にもヒズボラが立つとなると、イスラエルは、北部に2つの前線を抱えることになる。

www.timesofisrael.com/iran-trying-to-deepen-roots-in-syria-despite-signs-it-may-no-longer-be-welcome

これに対処しようとしたのか、昨年1年、また先週は特にシリア南部への激しい攻撃が行われたのであった。

側近2週間半の間にシリアのイラン拠点4カ所を空爆

シリア側の声明によると、昨年中にイスラエルが、シリア領内のイラン拠点を攻撃した数は、50回以上。特にこの2週間半の間で、少なくとも4回の攻撃が行われた。

特に側近最後、12日の攻撃は、イスラエルから500キロ離れたシリア南部への15箇所にわたる大規模な空爆で、イランの武器庫など、イラン軍事関連施設が破壊された。この攻撃で20人以上が死亡したと伝えられている。この地域は、上記の項目に述べた通り、イランに支配されはじめていた地域である。攻撃については、例のごとく、イスラエルはノーコメントである。

しかし、この攻撃のあと、リクードの歴代大臣で治安エキスパートでもあるツァヒ・ハネグビ氏が、攻撃がイスラエルによるものと言及はしなかったが、「アメリカの次期政権は、イランを喜ばすようなことをしないほうがよい。イスラエルは、シリアにイランが進出することも、核兵器を作ることも受け入れることはない。」と軍事行動の可能性も含めて釘をさす発言を出した。

また、攻撃から数日たって、アメリカの高官が、この攻撃はアメリカの情報により、イスラエルが実施したと、アメリカとイスラエルの協力体制を明らかにした。

www.timesofisrael.com/us-official-israel-carried-out-syria-strikes-using-american-intelligence/

オバマ前大統領時代の2015年、アメリカがイランとの核合意を実現させたとき、イスラエルは本当に孤立しきった状況にあった。

しかし、今は違う。アブラハム合意で、湾岸アラブ諸国にも同じようにイランを警戒しており、イスラエルと協力する可能性がある。バイデン氏もそう簡単にイランには近づけないと思われる他、イランも大きく吠えてはいるが、実際に、イスラエルを攻撃することは、難しいだろう。

また今回、アメリカの情報により、イスラエルが、シリア(イラン軍拠点)を攻撃したことを明らかにして、イランのアメリカへのさらなる怒りを積み上げたことで、バイデン次期政権とイランとの交渉をさらに困難にした可能性がある。

トランプ大統領が始めたアブラハム合意、ポンペオ国務長官がすすめた、中東でのすべりこみ外交が、中東戦争への歯止めになるのかもしれない。

しかし、いずれにせよ、イスラエルは自衛のためには、容赦なく先手を打つだろう。今後のイスラエルと中東の動き、アメリカ新政権の動きが注目される。

www.timesofisrael.com/report-idf-drawing-up-plans-to-strike-irans-nuclear-program/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。