イスラエルに見るソーシャル・ディスタンスの効果 2020.4.4

左からシャイ・ババッド氏、ネタニヤフ首相、バル・シモン・トーブ氏 出展:Times of Israel

過越後に制限緩和の可能性:バル・シモン・トーブ保健省長官

イスラエルでは、感染者7428人(約400増)、死者40人(4人増)、人工呼吸器使用者96人となった。亡くなった人は、女性(70)、男性(79)、男性?(75)、男性(71)となっている。いずれも基礎疾患があった人である。しかし、今20歳代の人が人工呼吸器に繋がれたとの報告もあり、祈りが必要となっている。

www.ynetnews.com/article/U15II1F8U

しかし、昨日感染者が600人を超えたことからすると、今日は400人代で、死者も10人から4人に減少した。感染が最も拡大していたブネイ・ブラックが封鎖されたこともあり、保健省のバル・シモン・トーブ長官は、チャンネル12で、イスラエルがピークに達した可能性に言及した。

バル・シモン・トーブ長官は、政府指導者たちと、家から出ないでいる国民の努力を賞賛し、もしこのままであれば、経過によっては、4過越後、4月中旬ぐらいに、一部の経済活動の再開もありうると述べた。

Times of Israel によると、バル・シモン・トーブ長官に先立ち、国家治安顧問メイール・ベン・シャバット氏が、閣議において、まだ状況は変わりうるので、油断はできないとしながらも、「国民に強力な外出制限を出して以来、感染拡大が、おちつきはじめたと思える”しるし”が出てきている。」と報告したとのことである。

www.timesofisrael.com/top-health-official-some-virus-restrictions-could-be-lifted-after-passover/

バル・シモン・トーブ長官のこのコメントは、月曜日のコメント、「のちにこの日の私を笑えるようであればよいが、残念ながら、我々は数千人の犠牲者を覚悟しなければならない。」というものから大きく、向きを変えるものである。

まだ予断を許す状況にはまったくないし、いつ見通しが変わるかもわからない。しかし、イスラエルは、サバイバルをかけて、常に真剣に、非常に先まで読んで行動するので、そのイスラエルの保健省長官たちがこのようなコメントを出しはじめているというだけで、希望が持てる気がする。

リスク回避のポイント:過越、超正統派、高齢者

今後のイスラエルの動向は、来週から始まる過越の祭(4/8-15)で、感染がどう動くかである。

ユダヤ教は、個人ではなく、イスラエルの民と神との関係ということであるので、何事も集団でないと、あまり意味をなさないので、隔離した形で、どれぐらい人々が、過越をできるかという点である。

今後も、主なリスクファクターは、ユダヤ教超正統派地域と高齢者施設である。

昨日、市民38%、7万5000人が感染している可能性が指摘された超正統派地域ブネイ・ブラックは、今は封鎖に置かれ、ハイリスクの高齢者4500人は町の外に出して隔離する措置がとられた。

今後、エラッド、ミグダル・ハエメック、エルサレムの一部の超正統派エリアにも、治安部隊が入って監視を強める可能性があるとのことである。

また、もう一つの懸念は、高齢者施設である。イスラエルには700近くの高齢者施設があるが、近くイスラエル軍の国内管理部が、管理補助に入るとのこと。

www.timesofisrael.com/top-health-official-some-virus-restrictions-could-be-lifted-after-passover/

検査キット不足で検査対象を制限へ

日本は最初から、新型コロナの検査対象をかなり絞ってきたが、イスラエルは、とにかくできるだけ多くの人を検査して、要請の人とその周りの濃厚接触者を洗い出す作業を続けてきた。ここ数日は、アットランダムの検査まで行われ始めていた。

ところが、今、検査キットの不足し始めたという。このため、イスラエルも今後は、検査する人の範囲を狭めることとなった。なんともイスラエルらしい動きである。あまり先を考えずにわーっとやって、しまったと思えば、すぐに方向転換するのである。

その条件とは、①感染者が多いとされる地域に15分以上滞在した。②感染が高い国から帰国した。あと数日で、検査キットは病院が、感染を確認するために、保持しているものだけになる。

これが、感染が落ち着いていることのもう一つのしるしであればよいのだが。。。。

www.jpost.com/Israel-News/Health-Ministry-narrow-criteria-for-COVID-19-tests-needs-more-reagents-623535

イスラエルに見る隔離(ソーシャル・ディスタンス)の効果

イスラエルは、感染者が7000人を超えているにもかかわらず、死者が40人と最小限に抑え込んでいることから、今の所、コロナ問題については、最も安全な国との分析が出た。(Deep Knowledge group)

www.dkv.global/covid-19-health-safety

2月下旬、イスラエルは、早くから、ちょっとやりすぎでは?と言われるほどに、国民の外出制限を始めた。しかし、3月初旬、エルサレム郊外のユダヤ教超正統派が多い、キリアト・エアリムで、総人口6000人のうち、症状のある人もない人も含め、2000人が隔離の対象となり、国内感染への危機感が高まった。

このころ、キリアト・エアリムでは、大きなプリムのイベントが行われており、それに参加したフランスからの帰国者が感染源になったとみられている。

キリアト・エアリムのイツハク・ラビッツ町長は、政府の指示よりも厳しく、スーパーマケットすら閉じて、全住民に、完全な外出制限を指示した。その際、食料については、ネットでオーダーし、各家庭に配達するという道を残しておき、市民たちがパニックに陥らないようにした。店は24時間オーダーを受け付けたとのこと。

このとき、キリアト・エアリムのユダヤ教超正統派チーフラビは、町と協力し、特別に”Psak Din”と呼ばれる特別な律法を発令。内容は不明だが、ユダヤ教としてもシナゴーグを閉鎖して、市民たちに、隔離を指示したということである。

ラビは、自らも隔離に入って、住民たちに模範を見せ、「今はシナゴーグでの祈りと断食のない、2週間半のヨム・キプールのようなもの。」と説明した。

キリアト・エアリムでは、こうした説明と、治安部隊の市内巡回とともに、多量の支援物資も家庭に配布した。住民たちは外出制限を守り、ユダヤ教で重要なミニヤン(男性たち10人の祈り)は、屋外の通りで行われた。人々は、ベランダに出てともに祈りを歌うなどして励ましあったという。

これにより、キリアト・エアリムの住民たちは、おちついて隔離を継続し、それから2週間半の今、隔離が必要な人は150人となった。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/278254

これにくらべて、昨日封鎖が決まったブネイ・ブラックでは、ソーシャル・ディスタンスを守らない状態のままであったため、住民の3分の1が感染かとも言われる事態になった。

キリアト・エアリムと、ブネイ・ブラックは、どちらもユダヤ教超正統派の町だが、ソーシャル・ディスタンスをとったかどうかで、ここまで違いが出た。新型コロナ対策においては、やはり、強力な隔離が効果的と示しているようである。

戦場以外で活躍するイスラエル軍

高齢者宅に支援を届けるイスラエル軍兵士
出展:イスラエル軍

今回、イスラエルにおいて、イスラエル国防軍の働きがいかに多岐にわたっているかも明らかとなった。

イスラエル軍は、今、テロ対策、国境の防衛を継続しながら、隔離の監視パトロール、コールセンター、救急隊支援、隔離中の家に支援物資の配送、軽症者を隔離しているホテルでの患者の管理と、非常に多岐にわたった働きをしている。

若い兵士が笑顔で届ける支援物資を受け取る高齢者の笑顔が印象的だ。イスラエル軍は、戦場で働くだけでの戦闘集団ではなく、国民を総合的に守る社会構造の一つとして、今も非常に効果的に活躍しているようである。

イスラエルは確かに、他の国と同様に、失敗も悪も、罪もあるのだが、基本的、最終的には、聖書の神の価値観に土台をおく国として、今、私たちの目の前におかれている。彼らにも失敗はある。コロナ問題もまだ終わったわけではない。しかし、最終的には、決してあなどってはならない国だと思う。

・・・見なさい。私は、私の神、主が私に命じられたおきてと定めをあなたがたに教えた。あなたがたが、入って行って、所有しようとしているその地の真ん中で、そのように行うためである。

これを守り行いなさい。そうすれば、それは国々の民に、あなたがたの知恵と悟りを示すことになり、これらすべてのおきてを聞く彼らは、「この偉大な国民は確かに知恵のある、悟りのある民だ。」と言うであろう。まことに、私たちの神、主は、わたしたちが呼ばわるとき、いつも、近くにおられる。このような神を持つ偉大な国民が、どこにあるだろう。・・・(申命記4:5−7)

石のひとりごと

日本では、いよいよ東京で、国の緊急事態宣言のもと、ロックダウンが発動されようとしている。しかし、諸外国のように、警察や軍が出動するような強制力はなく、国民の自覚に依存する形の封鎖になるようである。

戦後の日本と違い、今の日本はモラルの低下、危機感の低下が指摘されているので、これで大丈夫だろうかとひやひやする。

強制力のある封鎖はできない。・・しっかりした法治国家であるためだが、要は、国民が危機的状況にあっても、思い切ったことはできないというのが日本の国ということである。政府であっても命をまもるより、個人のことには介入できないという文化の現れだろう。

しかし、我が国に関する一点の希望は、BCGを受けているという点。どうやらこのBCGワクチンが、新型コロナに対応しているという説があるらしい。

もう20年近く前の話ではあるが、アメリカの病院に就職する際に、BCGを受けているので結核反応が陽性であると自信満々に言ったところ、あやうく抗結核剤を内服させられそうになった。アメリカの人は、全員BCGをうけておらず、陽性であるということの方が問題だったのである。(少なくとも当時)

今、アメリカでは新型コロナの感染拡大が危機的になりつつある。日本は、コロナの検査をあえて、大勢に実施していないので、真相は不明ではあるが、BCGをやっている日本での感染は、いまのところ、ゆっくりにみえる。

しろくろはっきりさせずに、なんとなくコロナをやり過ごすのが日本流なのだろうか。いずれにしても、コロナ危機、日本はこのまま、やんわりかわせるようにと祈る。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。