イスラエルとハマスが歩み寄り!?:金曜国境デモ3週間保留 2019.11.30

ガザのハマスが、もう1年以上も毎週金曜に続いてきたガザ国境の暴力的な「帰還への行進」デモを、3週連続でキャンセルしている。

国境でのデモが3週間停止していることを受けて、ガザ沖では漁業が再開。カタールが、現金をガザへ搬入し、来週にも、貧しい1家族ごとに100ドルが配布されることになっている。29日には、イスラエルとハマスが、捕虜の交換も含めた新たな交渉を始めたと発表した。

先週、国連の中東特使ニコライ・ミラディノブ氏が、イスラエルのベネット防衛相を会談。続いて、数日中にガザを訪問する予定だという。

www.ynetnews.com/article/S1RjPqRhS

こうした流れではあるが、実際には、ハマスのキャンセルに従わず少人数は相変わらず国境に来て、イスラエル領に近づき、イスラエル軍の発砲で、16歳少年が1人死亡。これの応報としてイスラエル南部にロケット弾が発射され、イスラエル軍はハマスへの空爆を実施した。

ハマスがガザ全部を把握しているわけではないことは、イスラエルもすでにわかっていることなので、この動きが、今のハマスとの交渉再開に影響を及ぼすことはなさそうである。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/272474

<ハマスの変化は何が目的か?>

2週間前、イスラエルは、ガザにいたイスラム聖戦指導者のバハ・アブ・アル・アタと、シリアにいたアクラム・アル・アジョウリを暗殺。これにより、イスラム聖戦が350発に及ぶミサイルを、イスラエル南部地域に撃ち込んできて、これに報復するという黒帯作戦が勃発した。

2日間続いたイスラエルとイスラム聖戦が交戦中、ガザ市民の不信を買うというリスクを負いながらも、ハマスはまったく援護しなかった。イスラエルの誤爆とみられる攻撃で、ガザの一家8人が死亡したにもかかわらずである。

イスラエルも、いつもなら、ガザからの攻撃は、だれがやったかにかかわらず、すべて、ガザの支配者であるハマスの責任を追及するのだが、今回は、ハマスへの非難をしなかった。

さらに、興味深いことに、トランプ政権が、西岸地区のユダヤ人入植地は違法ではないとする立場を表明したことに反発し、26日、西岸地区各地では、これに反発する暴力を含むデモの日、「怒りの日」デモが発生した。この時もハマスは沈黙であった。

www.timesofisrael.com/palestinians-clash-with-idf-during-day-of-rage-over-us-settlement-change/

イスラム聖戦は、イランの指示で動く組織である。イスラエルにとっては大きな問題だが、ハマスにとっても今や手に負えない存在になりつつあった。イスラム聖戦の指導者が死亡することは、ハマスにとっても益になったとみられる。

作戦終了後、すぐにイスラエルとハマスが、捕虜の交換を含めた交渉を再開していることから、このイスラム聖戦との戦いにおいて、両者の間に共通の敵という認識の元で、作戦が行われた可能性があるのではとの憶測がとびかっている。

しかし一方で、アルーツ7によると、毎週金曜のデモの主催者の中からは、「デモのキャンセルと、イスラエルとの合意は関係がない。キャンセルは、今ガザで衝突が起こると、右派であるネタニヤフ首相に有利な流れになるからだ。デモは将来も続く。」との反論もある。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/272453

また、アッバス議長が高齢となり、いつ倒れてもおかしくないことから、パレスチナ自治政府では、以前から総選挙を行うという案件がでている。最近、それにハマスが同意したなどとのニュースも出た。

ハマスは、今はともかくも、イスラエルとの平穏を守って、総選挙で勝利して西岸地区も取ると作戦を行っているかもしれない。今、ハマスをおとなしくさせたからといって、必ずしもイスラエルの勝利とは限らないと釘をさす分析もある。油断せず、状況を見守る時であろう。

www.timesofisrael.com/palestinian-elections-are-looking-likely-and-may-be-spectacularly-bad-for-abbas/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。