イスラエルとエジプト10年ぶり公式首脳会談:エジプト航空がイスラエルへ直行便開始へ 2021.9.15

Koby Gideon (GPO)

ベネット首相とシシ大統領が対等な会談:両国国旗に注目

13日月曜、ベネット首相は、シナイ半島のシャルム・エル・シェイクで、エジプトのシシ大統領と直接会談を行った。イスラエルの首脳が、エジプトを、公式に訪問するのは、2011年にネタニヤフ前首相が、ムバラク前大統領を訪問して以来、10年ぶりである。

今回、どのメディアもが報じていたのが、エジプトの旗の前に座るシシ大統領と会談するベネット首相の後ろに、イスラエルの旗が翻っていたことである。これは10年前の首脳会談の時も、その後、ネタニヤフ前首相が、水面下で続けてきたエジプトの首脳との会談でもなかったことであった。

側近では、2018年の国連総会の時に、ニューヨークで、両首脳が会談していたが、この時も、シシ大統領の背後にはエジプトの旗があるのに、ネタニヤフ前首相の背後にイスラエルの旗はなかった。

それが今回は、堂々とイスラエルの旗が、ベネット首相の背後にひらめいていたので、メディアも注目したようである。また、会談する両首脳の顔に、うちとけた笑顔があったことも驚きをもって報じられていた。

今回の会談は、イスラエルにとっては、前回のベネット首相とバイデン大統領の時と同様、まずは、顔合わせ、良好な関係への第一歩になったようである。会談後、ベネット首相は、イスラエルへ帰国直前のインタンビューで、シシ大統領との会談を高く評価し、将来の関係作りによい基礎が設けたと報告している。

シシ大統領がベネット首相を招いた背景

この会談は、先週、エジプトのシシ大統領と、ヨルダンのアブドラ国王、パレスチナ自治政府のアッバス議長が3者会談を行ったことと無関係ではないだろう。エジプト、ヨルダン、イスラエルは、みな、パレスチナ人テロ組織対策に手を焼いている。

そうした中、パレスチナ自治政府が経済破綻寸前となり、今これを助けなければ、ガザだけでなく、西岸地区にまでハマスやイスラム聖戦が支配を伸ばしてくるかもしれない。先週の3者会談は、テロ組織と指定されているハマスやイスラム聖戦と、一応、国際社会が前政府と認めるパレスチナ自治政府の立場の違いを強調し、パレスチナ自治政府を強化することが目的の一つであった。

この会談には、ベネット首相も出席するのではとも言われた。しかし、ベネット首相は、アッバス議長が、イスラエルを国際法廷に訴えている以上、今はまだ会う時ではないとして、この可能性を否定したのであった。エジプトのシシ大統領は、ベネット首相を別枠で招き、これにベネット首相が応じたということである。

また、この9月末には、ニューヨークで国連総会が予定されている。それを前に、隣接する国々と打ち合わせをしておくという目的もあったと考えられる。

また、エジプトは、昨今、バイデン大統領から人権無視の疑いで厳しい目をむけられている。イスラエルは唯一のアメリカとの橋渡しである。このベネット首相との直接対談は、国連総会でアメリカへ行く前に、エジプトからアメリカへのよきジェスチャーになったとの見方もある。

両国の関係強化もパレスチナ国家設立の可能性には否定的なベネット首相

エジプトは、近年、熱心にイスラエルとハマスの仲介を行っている。また、イスラエルとパレスチナ自治政府との仲介にも乗り出している。こうした中、両国は水面下では、かなりの話し合いや協力もおこなっていたのであった。

今回、両首脳はさらに、対等な両国の関係を強化する方向で様々なことが話し合われた。特にガザの治安維持に、エジプトが重要な役割を果たすことを話し合い、ガザで人質になっているイスラエル人2人と、イスラエル兵2人の遺体の返還についても話し合いが行われたとみられる。ベネット首相は、帰国後、人質になっているメンギツさんの家族と連絡をとっている。

一方、パレスチナ自治政府からパレスチナの国の設立についても話し合われたとみられるが、奇しくも、この背景で、パレスチナ人が、エルサレムの中央バスステーションで、イスラエル人2人を刺すというテロが発生していたところであった。

別の機会で、ベネット首相は、アッバス議長とはパートナーにはなれないとして、パレスチナ自治政府との和平交渉に向かう意思はないことを明らかにしている。

www.timesofisrael.com/bennett-says-he-wont-meet-mahmoud-abbas-palestinian-state-a-terrible-mistake/

アメリカと同様、エジプトともまだ意見に違いはあるが、とりあえず、同意できるところからはじめようという流れのようである。

エジプト航空がテルアビブへ直行便開始

イスラエルとエジプトの関係は、1979年の和平条約に基づいている。この条約によると、エジプトとイスラエルの間で直行便を飛ばすことになっていたが、両国の間には、常に敵対関係があったことから、1980年代に一応、直行便を回復させたものの、エジプト航空の旗印をつけた航空機ではなく、その子会社、シナイ・エアーが、エジプトの旗印をつけない形でこれを担当していたのであった。

このように、微妙な敵対関係にありながらも、イスラエルとエジプトの間には、一応の正式な和平条約が成立していたため、たとえば、エジプトのキリスト教徒は、巡礼者として、クリスマスや復活祭にイスラエルに来ていたし、イスラエル人も、シナイ半島のリゾート地を訪問したりしていたのであった。

しかし、エジプトがシシ政権になり、イスラエルとの特に治安意地に関する協力が密にできるようになったことから、イスラエル人が好むリゾート地でもあるシナイ半島の治安はかなり改善している。これに加えて、ワクチン接種がすすみ、ウイズコロナの方針から、政府は、ベネット首相が、シシ大統領に会う直前に、イスラエル人のシナイ半島への渡航制限を解除していたのであった。

こうした背景から、仮庵の祭りの後、10月から、正式にエジプト航空が、その旗印をつけて、カイロとテルアビブの間を、週4回とぶこととなった。

www.timesofisrael.com/egyptair-to-launch-direct-tel-aviv-cairo-flights-next-month/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。