アメリカ軍:イラン革命軍スレイマニ総司令官を暗殺 2020.1.4

カッサム・スレイマニ司令官 写真出展:wwikipedia

トランプ大統領が、予想外に思い切った作戦に出た。アメリカのドローンが、2日夜、イラクのバグダッド国際空港で、カッサム・スレイマニ・イラン革命軍総司令官(62)らの乗った車両2台を攻撃。これにより、スレイマニ総司令官(文字通りイラン革命軍のトップ)を含む10人が死亡した。イラン革命軍もこれを認めた。

アメリカのペンタゴン国防総省は、「トランプ大統領の指示により、海外のアメリカ人を守るため、カッサム・スレイマニ・イラン革命軍総指令官を暗殺した。イラン革命軍は、アメリカがテロ組織と指定する組織である。」と正式に発表した。

報道によると、スレイマニ総司令官とともに、イラクの親イラン派、アブ・マフディ・アル・ムハンディス人民徴用軍総長(59)と副総長も死亡したとのこと。イラク人民徴用軍スポークスマンは、「敵であるアメリカとイスラエルがアブ・マフディ・アル・ムハンディスとカッサム・スレイマニを殺害した。」との声明を出した。

また、レバノンのヒズボラ関係メディアが伝えたところによると、ヒズボラの高官ムハンマド・アル・ジャバリもこの攻撃で死亡した。

www.timesofisrael.com/iran-quds-force-head-qassem-soleimani-killed-in-baghdad-strike-iraqi-tv/

<イランのハメネイ・イスラム最高指導者が深刻な反撃を予告>

イランのハメネイ・イスラム最高指導者は、3日朝、スレイマニ総司令官の死を受けて、イラン国営放送を通じて、3日間喪に服すよう伝え、「中東の自由な国々は、ともに犯罪者アメリカへの深刻な報復を行うだろう。」と宣言した。

イランのアナリスト、モハンマド・マランディは、「アメリカはイランとイラクに戦線布告した。アラブ首長国連邦やイラクにいる西洋人はすぐにも脱出したほうがよい。」と言った。実際、アメリカ政府は、イラクにいるアメリカ人に直ちに帰国するよう、指示を出している。

www.timesofisrael.com/iran-supreme-leader-vows-severe-revenge-for-soleimani-killing/

レバノンの親イラン組織でイスラエルに敵対するヒズボラのナスララ党首も、スレイマニ総司令官殺害への復讐をすることは、抵抗運動をする者の義務だと語った。

www.timesofisrael.com/hamas-mourns-soleimani-cites-major-role-in-supporting-palestinian-resistance/

*反イラン政権のデモ隊は?

イランでは、12月まで、激しい反政府運動が各地で拡大し、イラン政府はこれに軍事圧力で対応させられていた。今回も一応鎮圧したが、政府軍の攻撃で市民1000人が死亡したとも伝えられている。アメリカはこの市民による運動を支援していたとの情報もある。

今後、イラン政府が、アメリカやイスラエルに反撃するのか、これらイランの反政府勢力が先にイラン政権を打倒するかというところだろうか。。

<イスラエルの反応:世界のイスラエル大使館厳戒態勢>

スレイマニ総司令官は、これまでのヒズボラやハマスなどを使い、イスラエルへのロケット弾やミサイル攻撃を行っていたとみられることから、イスラエルは、2006年に一度暗殺を試みたが、失敗していた。今回のアメリカ軍によるスレイマニの暗殺は、様々なリスクを考えても、イスラエルにとっては歓迎する出来事であったと思われる。

今後、総司令官を失ったイラン革命軍の指揮系統は、乱れると予想されるが、それでも、このままイランがだまっているとは考えられず、イランが、レバノンのヒズボラなどを動員して、イスラエルを巻き添えにしてくる可能性も否定できない。

ネタニヤフ首相は、訪問先のギリシャから予定を繰り上げて帰国。3日、イスラエルは、シリアとレバノンと両国と国境を接するヘルモン山のスキーリゾートを閉鎖した。このリゾートでは、2019年1月にシリア側からロケット攻撃があり、破片が、スキーのリフトの一部を破損するという事件を経験している。

www.timesofisrael.com/israel-closes-hermon-ski-resort-as-iran-vows-revenge-for-us-killing-soleimani/

ネタニヤフ首相、ベネット国防相と、イスラエル軍のコハビ参謀総長は、テルアビブの防衛庁で、イスラエルの防衛態勢について協議した。まずは、世界各地のイスラエル大使館、領事館がイラン関係組織に襲われる可能性に備え、厳戒態勢がとられている。

www.jpost.com/Breaking-News/Four-rockets-land-on-Baghdad-airport-report-612947

<解説:最近のイラク国内の混乱とアメリカとイランの武力衝突>

アメリカとイランは、厳しい経済制裁で対立を深めてきたが、先週から武装闘争の様相になりはじめていた。ここに至るまでの経過は以下の通り。

イラクには、約5200人のアメリカ軍部隊が駐留し、ISと戦うイラク兵の訓練にあたっていた。10月には、シリアにいたアメリカ軍の一部もイラクに撤退して、これに加わっていた。この時点で、中東湾岸地域にいるアメリカ軍部隊は14000人と伝えられている。

12月27日、アメリカ軍が駐留していたイラク軍基地が攻撃を受け、アメリカ人作業員1人が死亡、米兵ら数人が負傷した。アメリカによると、この攻撃を実施したのは、イラクの親イラン武装組織でアメリカがテロ組織と指定しているカタイブ・ヒズボラ(首領は今回暗殺されたアブ・マフディ・アルムハンディス)であった。

これを受けてアメリカは12月29日、イラク国内にあるカタイブ・ヒズボラの武器庫を含む司令塔など5カ所を攻撃した。これにより、25人が死亡した。

すると31日、これに憤慨したカタイブ・ヒズボラの群衆が、バグダッドのアメリカ大使館を取り囲んで、「アメリカに死を!」と怒りを叫びながら暴力的に侵入しようとした。大使館は、催涙弾を使うなどして抵抗したが、1月1日には、暴徒が大使館の外周にまで入り込み、大使館職員も一時退避したとのニュースも流れた。(実際にはしていなかった)。

これを受けてトランプ大統領は、アメリカ大使館襲撃の背後にいるのはイランだと非難。「イランは大きなツケを払うことになる。これは警告ではない。脅しだ。」とツイートした。その上で、イラクへあらたにアメリカ部隊750人を派遣すると発表した。

するとイラク政府は、アメリカ大使館を包囲していたデモ隊に撤退を要請。デモ隊は、イラク政府と、国内からアメリカ軍をすべて撤退させるということで合意に至ったとして1日夜、大使館の包囲網を解いて撤退したのであった。

www.nytimes.com/2020/01/01/world/middleeast/us-embassy-baghdad-iraq.html

しかし、これについて、アメリカは怒りをもって受け取っていたようである。アメリカは、2003年に、サダム・フセイン政権を打倒して以降、過去16年にわたり、より西側に有効的な新政権をたちあげようと、1兆ドルを使ってイラク政府を支援してきた。そのために戦死したアメリカ兵は5000人に上っている。

しかし、イラク政府は、アメリカ大使館が襲撃されても2日間、介入しようとはしなかった。

この後、アメリカのエスパー国防長官は、アメリカはイラクからイランを追放する準備を進めていると発表。先制攻撃もありうると示唆したが、その数時間後、スレイマニ革命軍総司令官らの暗殺となった。

攻撃の後、エスパー国務長官は、「イランは、これまでにも多数のアメリカ人を攻撃してきた。(27日のアメリカ人労働者殺害)は、我々にとっての赤線越えだった。イランは、これ以後も、多数のアメリカ人に対する攻撃を計画していた可能性がある。」として、今回の攻撃が自己防衛であったと強調した。

これに先立ち、ポンペイオ米国務長官は、イスラエルやサウジアラビアなどの友好国には、攻撃を予告していたようである。

www.timesofisrael.com/iran-quds-force-head-qassem-soleimani-killed-in-baghdad-strike-iraqi-tv/

しかし、これほどの緊張の中で、スレイマニ総司令官と、カタイブ・ヒズボラのアルムハンディスらが、おめおめと一緒に、車で移動していたことから、イランは、アメリカが、まさかここまでやるとは思っていなかったのではないかとの分析もある。

*混乱のイラク:政府は親イランで、市民は反イラン?

ややこしいのは、今回の事件に先立ち、イラクが反イランと親イランに分かれている点である。イラクでは10月1日から、汚職にまみれ、イランのいいなりになっているイラク政府と、イランに反対する反政府・反イランデモが発生。

だんだんエスカレートして11月末には、ナジャフにあるイラン領事館が襲撃され、燃やされる事件に発展した。イラク政府はこれに武力で対処してきたため、この2ヶ月ほどの間に少なくとも350人が殺害されたと伝えられている。

www.aljazeera.com/news/2019/11/iraqi-protesters-torch-iranian-consulate-najaf-191127200729292.html

アルジャジーラによると、イラクの反政府デモは、バグダッドでアメリカ大使館を親イラン派が襲撃している間も続けられていた。こちらのデモ隊は、米大使館への暴行との関係を一切否定し、イラク政府はこの暴徒ををなぜとりしまらないかと訴えていたという。

www.aljazeera.com/news/2020/01/iraq-anti-government-protesters-denounce-pro-iran-crowds-200102144314331.html

<ロシア、中国、フランスがアメリカを批判>

ロシアは、スレイマニ総司令官は、イランを心から保護してきた将軍だったとして、イラン市民へ追悼を述べ、中東の緊張が一気に高まったと批判した。中国は、すべての国、特にアメリカに自粛を促し、イラクの主権は守られるべきだと述べた。

フランスのマクロン大統領は、「世界はさらに危険になった。」と述べ、すぐにも関係諸国と連絡を取ると述べた。

www.timesofisrael.com/liveblog-january-3-2020/

<石のひとりごと:トランプ大統領という人>

トランプ大統領は、中東には介入しないといいながら、実際には、どんどん介入している。しかも、不思議なほどに、イスラエルと同じところに立つという形での介入である。そして結果的に、聖書に書かれている状況をつくりあげてしまっている。

本人は意識しているのかいないのか・・・本当に不思議な大統領である。

聖書にはイスラエルを担ぐものは傷を受けるとあるが、今後、イランがどういう報復に出てくるのか。イスラエルとアメリカが守られるように祈りたい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。