アメリカ大使館:エルサレムへ移動 2018.5.21

<大使館移転式典>

アメリカは、5月14日、予定通り、大使館をテルアビブからエルサレムへの移動式典を行った。移転先は、エルサレム南部にあるアメリカ領事館内。大統領代理として出席したのは、ジェレッド・クシュナー氏、イバンカ・トランプ氏夫妻であった。

トランプ大統領はビデオメッセージで、歴史的にエルサレムがイスラエルの首都であったこと、今は、政府行政機関と大統領、首相官邸も置かれ、首都機能がエルサレムにあると明言。イスラエルも他の国と同様に首都を決める主権を持つことなどを認めると明言した。

しかし、同時に、神殿の丘(別名ハラム・アッシャリフ)のステータス・クオ(現状維持)の原則は維持するとし、パレスチナ、周辺諸国の平和を望むと語った。言い換えれば、米大使館は移動するものの、実際の現地の状況にはなんの変化もないということである。また国際社会の認識にも基本的には反しない形である。

ネタニヤフ首相は、世界最強の国アメリカが、友としてエルサレムを首都と認めたことに深い感謝を述べた。またエルサレムがイスラエルの首都であるという歴史をアメリカは認めたと言い、ゼカリヤ書8:3を引用し、今日はイスラエルにとって歴史的な日だと宣言して、スタンディングオベーションを何度も受けた。

キリスト教国アメリカ大使館のイベントであるため、最後に祈りを捧げたのは、福音派で、パワフルなクリスチャンシオニストとして知られるジョン・ヘギー牧師であった。

ヘギー牧師は、エルサレムが、3000年前にイスラエルの首都であったことから、やがてメシアが来るイスラエルの首都であると述べ、祝福を祈ったが、さすがに、「主の御名によって」にとどまり、イエスの名によってとは祈らなかった。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5260407,00.html

式典に代表が出席した国々:アルバニア、アンゴラ、オーストリア、カメルーン、コンゴ、コンゴ共和国、エル・サルバドール、エチオピア、グルジア、グアテマラ、ホンデュラス、ハンガリー、ケニア、マケドニア、ブルマ、ナイジェリア、パナマ、ペルー、フィリピン、ルーマニア、ルワンダ、セルビア、南スーダン、タイ、ウクライナ、ベトナム、パラグアイ、タンザニア、ザンビア

<グアテマラも大使館のエルサレム移動を完了>

アメリカが大使館を移動した2日後、南米の国グアテマラが、エルサレムに大使館を移して、モラレス大統領が、ネタニヤフ首相とともに、オープニング式典を行った。グアテマラは、70年前も、アメリカに次いで、イスラエルを国として認めた国。

www.timesofisrael.com/watch-guatemala-opens-jerusalem-embassy-days-after-us/

続いて、パラグアイが21日に大使館をエルサレムに移動させることになり、同国のカルテス大統領がイスラエルに到着した。このほか、ホンデュラス、チェコが、公に移動検討を明らかにしている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5266500,00.html

イギリス、フランス、ドイツは、大使館の移動はないと言っているが、アメリカと同じ西側諸国として、立場は微妙な感じである。

日本は、5月2日、安倍首相が中東歴訪を行った。その際、まずヨルダンを訪問、次にベングリオン空港からパレスチナを先に訪問している。日本は西岸地区エリコ周辺に、ヨルダン、イスラエルとも協力して産業地帯建設計画を進めており、シリア復興にヨルダンが重要だとして、ヨルダンと日本の関係をさらび強固にする方針を伝えたとのこと。

その際、パレスチナメディアによると、安倍首相は、日本大使館をエルサレムに移動させる予定はないと表明している。

www.timesofisrael.com/japan-has-no-plans-to-move-embassy-from-tel-aviv-to-jerusalem-report/

<歴史的重要ポイント>

現状にはなんら変化はないが、エルサレムがイスラエルの首都であるとアメリカが認めたということは、非常に重大な出来事である。

なんと言われようとも、アメリカはやはり世界で最も影響力のある大国であるので、その国の承認を得たということは、今後、自他ともにエルサレムがイスラエルの首都となっていく一歩になったことを意味する。

エルサレムを首都とした国は、3000年前のダビデ、ソロモン時代から聖書時代(日本では弥生時代)のイスラエルだけで、以後、この地域を支配したどの国もエルサレムを首都にしていない。

パレスチナ人は、アメリカ大使館移動に先立って「故郷へ帰る」と銘打った反発デモを行っているが、実は、エルサレムは、パレスチナ人のみならず、そこを支配したイスラム帝国、オスマン・トルコ帝国、ヨルダンと、どのアラブ人支配の時代にも首都として機能したことはなかった。

しかし、1948年、イスラエルが独立し、準備が整った1966年以来、エルサレムにはイスラエルの首都として、政府機関や最高裁、大統領、首相官邸が置かれるなど、事実上、すでに首都として機能している。このいわば”歴史的事実”を、世界は今に至るまで認めようとしなかった。

その理由は、首都ではなかったにせよ、エルサレムの神殿の丘は、638年から今に至るまで、そのほとんどを、ハラム・アッシャリフと呼ばれるイスラムの聖地として機能してきたからである。その場所を含むエルサレムを、イスラムではないユダヤ人の国イスラエルの首都とすることにイスラム諸国が受け入れるはずがなく、大きな戦争を誘発する恐れがあった。

こうした中、アメリカだけは、エルサレムをイスラエルの首都と認め、大使館をその首都に移すことをすでに決めていた。しかし、それを実際に実行に移すほど大胆な大統領はこれまでいなかった。

今回、トランプ大統領がついに実行したということである。まさに、実質主義、ゴリ押し、ジャイアンのトランプ大統領であったが故に実現できたことだろう。

トランプ大統領自身が意識していたとは思えないが、エルサレムがイスラエルの首都になるということは、明らかに、終末時代にユダヤ人がこの町に集結し、世界がこれに向かって集まってくるということの始まりになりうる。

<中東和平への影響>

トランプ大統領は、エルサレムが事実上イスラエルの首都であるのに、この肝心なところが明確でなかったことが、これまでの25年間、中東和平が成り立たなかった理由だと考えている。

エルサレムはイスラエルの首都と認めた今、アメリカは、エルサレムを首都とするイスラエルという国が存在することを前提に、パレスチナとの和平交渉をすすめることになる。

これは、”占領者”イスラエルを追い出すという、パレスチナのこれまでのいわば公式の夢が途絶えた形である。当然、パレスチナ自治政府は、これに反発し、アメリカを仲介者としては認めないと言っている。

実際にアメリカ大使館がエルサレムに移されると、アッバス議長は、パレスチナ代表をワシントンから召喚した。しかし、経済的に依存しているアメリカを敵に回す事はできないはずなので、そのうち元に戻さざるをえないだろう。

この後、アッバス議長は、心労が重なっているのか、この1週間で3回も病院へ搬送された。肺炎ではないかと言われている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5265849,00.html

<アメリカの中東和平案に注目>

大使館をエルサレム移動した今、次にトランプ政権がどんな和平案を出してくるのかが注目されている。Yネットによると、今月15日に始まったイスラムのラマダン終了後まもなく、つまり来月には明らかにされるみこみだという。

それがイスラエルにとって有利かどうかはまだ不透明である。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/246211

<第51回エルサレム統一記念日(5/13)>

アメリカが新しく大使館をエルサレムでオープンする前日(12日日没から13日日没)は、第51回目のエルサレム統一記念日であった。

アメリカ大使館移動に反発するパレスチナ人が血気だっているところへ、シオニストの若者が大群衆となってイスラエルの旗を振りながら、旧市街のダマスカス門から入り、イスラム地区を行進していくわけである。

この日、イスラム地区を警備する治安部隊は1750人だった。嘆きの壁は、今年も超満員だったが、幸い、テロ等の事件も発生せずに祝典を終えることができた。

www.timesofisrael.com/ten-of-thousands-parade-through-old-city-of-jerusalem-during-annual-flag-march/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。