アッバス議長とオルメルト元首相がトランプ中東和平案を拒否表明 2020.2.15

アッバス議長とオルメルと元イスラエル首相 I24 スクリーンショット

アッバス議長:国連安保理演説で米中東和平案を正式に拒絶

11日、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、国連安保理にて、トランプ大統領の中東和平案を、イスラエル・アメリカ案と呼び、「イスラエルへの贈り物だ。」として、拒否する意向を明らかにした。

主な理由は、パレスチナの領地とされる部分が点在していることや、国境線が、1967年に国際社会が認めたもの(グリーンライン)ではない点などである。アッバス議長は、パレスチナとされる領土は、まるでスイスのチーズのようだと言った。

決議はこの日に行われる予定であったが、アメリカが拒否権を行使することは明らかであるし、アッバス議長への支持も十分でないことから、結局、決議はみおくられた。一時パレスチナ側から辞退したとも報じられたが、パレスチナ側はこれを否定した。

*パレスチナ世論:94%がトランプ和平案に反対

肝心のパレスチナ人の世論だが、ラマラのパレスチナ人統計学者、カリル・シカキ博士が、2月5−8日に、西岸地区、ガザ地区、東エルサレムのパレスチナ人1270人を対象にした調査によると、94%が、トランプ和平案を拒否すると返答していた。(13日、エルサレムプレスクラブにて発表)

また82%が、これがパレスチナ人国家の存続に関わる問題だととらえており、45%は、解決は暴力しかないと答えたとのこと。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Poll-94-percent-of-Palestinians-reject-Trump-plan-617560

アッバス議長とオルメルト元イスラエル首相との共同記者会見

アッバス議長が国連安保理で演説した後の記者会見には、イスラエルのオルメルト元首相が登場し、2人での会見を行った。

www.ynetnews.com/article/FPYK5RILQ

アッバス議長とオルメルト前イスラエル首相は、2008年に、中東和平の交渉を行い、ほぼ合意に至ったいたと言われるが、ちょうどそのころ、オルメルト氏の汚職が明るみに出て、裁判が始まり、最終的には、16ヶ月間、刑務所へ送られることとなった。

これにより、2人の合意は頓挫した形となった。その後は、右派のネタニヤフ政権となり、さらに親イスラエルのトランプ米政権が登場したため、アッバス議長は、イスラエルとアメリカとの交渉をいっさい断絶するに至っているわけである。

今回、アッバス議長の記者会見に参加したオルメルト元首相は、「アッバス議長は、平和の人だ。テロに反対している。イスラエルと和平交渉ができるのは、アッバス議長だけだ。」と述べた。

アッバス議長は、交渉自体を拒否しているのではないとして、「私は、西岸地区入植地を合法的にイスラエルに合併させ、2国家案を破壊するようなアメリカの案ではなく、オルメルト氏と始めた和平交渉を再開したい。それは、国際社会カルテット(アメリカ、ロシア、EU,国連)も認めていたものだ。」と語った。

国連安保理で、イスラエルのダノン国連代表は、「先週、イスラエルの市民と兵士がテロで負傷したこと、また今、イスラエルにとって最大の友人とも言えるアメリカを、イスラエルの元首相が、アッバス議長と同じところに立って非難するとは、恥知らずだと思う。」と述べた。

ネタニヤフ首相は、アッバス議長、オルメルト前首相の共同記者会見について、「イスラエル史上最低のできごとだった。」と述べた。

www.ynetnews.com/article/HyM3JYlXI

なお、ネタニヤフ首相は、西岸地区入植地の合併は、来月の総選挙の後になると発表したが、西岸地区入植地住民たちは、3月をまたずに合併準備を始めるべきだとのデモをおこなっている。

www.timesofisrael.com/settlement-leaders-protest-netanyahu-annexation-delay-in-jerusalem/

アメリカのポンペイオ国務長官は、「パレスチナ側が、アメリカの現実的な案を断るなら、別の案を提案するべきだ。」と述べた。

国連人権保護委員会:エゲッドバスなど含むイスラエル大企業をブラックリストへ

こうした時期に、国連人権保護委員会は、来月の委員会で、西岸地区、ゴラン高原、東エルサレムで展開するイスラエルの会社をブラックリストに入れて発表するみこみとなった。

リストに入れられているのは、入植地と関係する会社とされ、イスラエル国内をくまなく走るエゲッド・バス、薬品のテバ、スーパーマーケットのラミ・レビ、イスラエル最大の銀行2社、バンク・ハポアリムとバンク・レウミとなっている。

これらはどれも、イスラエルを代表する会社で、エゲッドもラミレビもかなりのアラブ人社員を雇っている会社である。これをブラックリストにいれるなど、イスラエルに住む人ならだれでもなセンスというだろう。

イスラエルはこの委員会とは無関係。アメリカは、あまりにも反イスラエルだとして、2018年に脱会。支援金支払いも停止している。

www.timesofisrael.com/un-to-publish-blacklist-of-israeli-companies-operating-over-green-line/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。