滑り込み得票作戦か:トランプ政権が親保守派・親イスラエル政策を連発 2020.10.31

西岸地区入植地エフラタを視察するフリードマン米大使 Jerusalem post

アメリカ大統領選を3日後に控え、トランプ大統領が必死の宣教運動に駆け回っている。一時、コロナに感染した70歳を超えた人が、ここまでアクティブに動けるなら、皆、トランプ大統領と同じ治療を受ければいいのではと、不思議に思わされるほどである。

そのトランプ大統領の支持基盤は、労働者層と、保守派、福音派クリスチャン(全米に9000万人)や、親イスラエルの人々と言われている。いかにも下品にみえるが、いかんせん、聖書的価値観に基づくと思われる方策をとっているからである。

イスラエルにとっても、エルサレムをイスラエルの首都と宣言し、米大使館をエルサレムに移動したり、イランとの対決姿勢を明確にして、イスラエルと同じところに立ってきたことは、これまでの大統領には見られなかった大胆な親イスラエルの動きであった。

今、トランプ大統領は、バイデン候補に遅れをとっているとも言われ、まさに必死の様相で、アメリカ中を駆け回っている。

そうした中、選挙のわずか1週間前になって、滑り込みのごとくに、福音派や、親イスラエル派が喜ぶと思われることを重大な決断を矢継ぎ早に打ち出している。

連邦最高裁判事に保守派のエイミー・コニー・バレット判事指名

今年9月18日、アメリカで27年にわたって連邦最高裁判事を務めてきたユダヤ系アメリカ人のルース・ベイダー・ギンズバーグ氏が死亡した。リベラル派ユダヤ人女性で、女性の権利獲得に貢献し、高い人気を維持してきた判事である。

とはいえ、リベラル派なので、女性の中絶の権利を認めるなど、何かと論議されながら、尊敬もされてきた人物であった。ユダヤ人(ウクライナ系)であったことから、イスラエルでもその死は大きく惜しまれながら報じられていた。

アメリカの連邦最高判事とは、日本で言えば、最高裁で、アメリカの価値観、道徳などを左右する重要な機関である。判事の数は、9人とされ、大統領が指名し、上院が承認することで決まることになっている。

トランプ大統領になってからは、保守派の判事が2名指名され、連邦判事9人のうち、5人が保守派、4人がリベラル派という形になっていた。しかし、キングズバーグ氏が死去すると、トランプ大統領はすぐに、保守派のエイミー・コニー・バレット氏を指名したのであった。

大統領選挙も近かったことから、新しい大統領が指名するべきではないかとも言われたが、結局、トランプ大統領は、選挙まで8日の時点で、バレット氏を指名。上院がこれを承認したことから、26日、バレット氏は新しい判事として加えられることになった。

これにより、9人中、6人が保守派ということになる。今後、中絶反対、同性愛結婚反対といった保守派の意見が通りやすくなるということで、福音派たちが、トランプ大統領に感謝し、続けて支持する形である。

エルサレム生まれの人の出身国イスラエル明記記載認める

エルサレムは、1967年以降、イスラエルが統治する首都と、イスラエルは主張しているが、国際社会はまだ認めていない。実際、西側は、圧倒的にユダヤ人で、東側は、パレスチナ人地域と、今も実質的には分離されており、紛争も時々発生している。

このため、アメリカでは、エルサレムで生まれた人でアメリカ国籍の人がパスポートを取る際に、イスラエル生まれと書くことを受け入れていなかった。エルサレム生まれと書かれてきたのであった。

しかし、 29日、ポンペオ国務長官は、米国人で、エルサレム生まれの人が、出身国イスラエルと表記することを認めると発表。2017年に、アメリカがエルサレムを首都として認めたことに連動するとして、ただちに発動と表明した。

www.timesofisrael.com/us-announces-citizens-born-in-jerusalem-can-now-list-israel-on-their-passports/

これを受けて、エルサレムのフリードマン米大使は、エルサレムで生まれた米国籍のメナヘム・ジボトフスキーさんに、イスラエル出身と表記したパスポートを手渡した。

実際には、エルサレムと表記するか、イスラエルと表記するかは、本人に希望しだいとのことである。

www.timesofisrael.com/us-gives-first-passport-with-israel-birthplace-to-jerusalem-born-teen/

この動きは、エルサレムをイスラエルの首都と認めたことの実効性を表したようなもので、イスラエル人や福音派クリスチャンにとってはエクサイトなことといえる。

科学的開発協力に関する合意を西岸地区・ゴラン高原に拡大

27日、イスラエルとアメリカは、両国の科学開発協力に関する合意について、西岸地区の入植地、ゴラン高原にまで拡大することで合意。西岸地区アリエルにて、ネタニヤフ首相、フリードマン米大使が、合意書への署名式を行った。

西岸地区とゴラン高原は、まだイスラエルの領土として国際社会に認められていないため、アメリカはこの地域にある研究所とも協力開発や投資をすることができない状態にあった。

しかし、この合意により、1970年に設立された両国の3つの科学的開発基金が、西岸地区、ゴラン高原の研究者たちにも適応されることになる。いわば、イスラエルが西岸地区入植地を併合する前段階のような形である。

これについて、イスラエルとの国交正常化を進めているUAEは、イスラエルが併合を諦めた理解しているが、ネタニヤフ首相は、「棚上げしたにすぎない」と表明していることが指摘されている懸案である。

www.timesofisrael.com/israel-and-us-to-extend-their-scientific-cooperation-to-west-bank-and-golan/

ボルトン候補に期待する?アッバス議長

上記のことから、イスラエルではおおむね、トランプ大統領を支持する人が多い。

一方で、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、イスラエルとの国交樹立に流れていく湾岸諸国,、さらにはアフリカのスーダンにまでその動きが始まったことで、もはやパレスチナ人を省みるものはいない、といった落胆を表明している。

今後どうなるかだが、まずは、トランプ大統領が勝つかどうかが大きく影響するとみられる。トランプ大統領が勝ち残った場合、中東ではさらにイスラエルとの国交樹立に進む国が出てくるだろう。

そうなれば、85歳のアッバス議長がいよいよ引退、総選挙ということになることもありうる。ハマスがどこまで出てくるのか、ファタハからは誰が出てくるのかが論じられることになる。

ファタハでは、2002年以来、テロ指導者としてイスラエルの刑務所にいるマルワン・バルグーティの人気が今も高いままとなっている。しかし、昨年であったか、イスラエルの刑務所内で、囚人のハンガーストライキが行われた際、リーダーであるはずのバルグーティが、こっそりチョコレートを食べている様子が隠しカメラで撮影され、ネットに報じられた。これにより、バルグーティへの信頼と人気が著しく落ちたとの見方もある。

トランプ大統領が留任するかどうか。パレスチナ人たちも固唾をのんで、見守っていると思われる。

www.timesofisrael.com/israel-arab-accords-an-earthquake-for-palestinians-who-pin-their-hopes-on-biden/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。