こんな時に!?女性議員1人離党でベネット政権が過半数割れへ:ネタニヤフ前首相が頭角 2022.4.7

Noam Revkin-Fenton, Noam.M / 中央の女性が、イディット・シルマン氏 Knesset Spokesperson Office, Ohad Zwigenberg

ベネット政権に激震

世界は、コロナ危機もまだおさまらない中、ウクライナでの戦争、目前に迫っている食糧、エネルギー供給への混乱に直面している。特にイスラエルは、ロシアと欧米との間で難しい立ち位置にある。さらには、足元では、ラマダンとともに、パレスチナ人のテロ頻発という問題もある。

こうした危機的状況の中、6日、ベネット首相所属、ヤミナ党の女性議員イディット・シルマン氏が、突如、政権離脱を表明し、政界に激震が走った。

これにより、政権外アラブ政党協力も入れての総議席62で始まったベネット政権は、2議席目を失って60議席となり、過半数ではなくなることなった。このため、今後、議案を出しても通りにくなる。政権運営がかなり難しくなると予想される。

シルマン氏は、ヤミナ党首でもあるベネット首相に、前もって辞意を表明していなかったため、ベネット首相は、このことをメディアを通してはじめて知ったと言われている。

シルマン氏は、辞職の理由について、イスラエルをユダヤ人の国に戻すべきだと語っている。右派左派アラブ政党まで入っている政党ではなく、右派によるユダヤ人の政権に戻したいということであった。

ベネット首相とヤミナ党緊急会議:離反者を止められるか

ベネット政権(2021年6月)
Photo by Amit Shabi/POOL

シルマン氏の爆弾宣言を受けて、ベネット首相は、与党各党首と会談後、ただちにヤミナ党会議を開いた。

ベネット首相は、党員に対し、「与党8党は、今の政府がよいと考えている。この政府は、国民のために働いている。」と伝えた。しかし、これからまた総選挙になり、さらなる総選挙といった不安定な状態に戻るかもしれないので、ともかくも平穏を維持するよう努めると語った。

ベネット首相は、シルマン氏について、これまで、リクード、右派シオニスト党など右派政党支持者から、かなりひどい嫌がらせを受けていただけでなく、イシバで働く夫や子供達もが、ひどい嫌がらせを受けていたと聞いていたと語り、彼女はその圧力のとうとう耐えられなかったのだろうと、野党からの圧力が原因だとの見方を示した。

しかし、Times of Israelなど地元メディアは、まだあと2人、離反者が出る可能性もあると指摘する。これまで、コロナ対策、予算案通過、ウクライナ対策となんとか危機を乗り越えてきたベネット首相だったが、足元の自分の政党から離脱者を出し続けた結果、今回の事態になったと言われている。

www.timesofisrael.com/silmans-coalition-defection-catches-political-partners-off-guard/

やはり、かつてはリクードよりもさらに右派思想が強い、右派政党として立ち上がったヤミナ(右)党であるにもかかわらず、ベネット首相(党首)が、左派や、アラブ政党とも協力するという事態に、党員たちがついてこれなかったということである。

加えて最近では、ベネット首相が外交に忙しくなりすぎて、足元の国内と自分の政党へのケアが足りていなかったとも指摘されている。

www.timesofisrael.com/how-naftali-bennett-doomed-his-own-coalition/

シルマン氏離反を大歓迎の野党:ネタニヤフ前首相演説

離党を表明したシルマン氏は、おそらくリクードに寝返るとみられている。ネタニヤフ前首相が、首相に返り咲く可能性が浮上したということである。

6日、エルサレムでは右派のラリーが行われ、その中でネタニヤフ首相が演説を行った。

本来は、対テロのためのラリーであったが、治安の方は、とりあえず落ち着いていることもあり、ネタニヤフ氏は、右派政治からに「家に戻れ。」と呼びかけ、ベネット首相には、「家に帰れ。あなたはユダヤ人のアイデンティティを壊している。」とすっかり政治的ラリーとなった。

ネタニヤフ氏は、シルマン氏は正しいことをしたのだと語った。

www.timesofisrael.com/at-rally-of-supporters-netanyahu-calls-on-right-to-unite-and-return-home-to-likud/

今後のシナリオ:さまざまな可能性

今、ベネット政権は大きな爆弾を落とされた形である。今後どうなっていくのだろうか。総選挙になるかもしれないが、またかつてのような、総選挙してもやりなおしになる可能性が高い。

まずは総選挙するかどうかの議会での審議が行われるかもしれないが、それについても、議会を通さなければならない。

一番可能性が高いのは、困難な政治運営にはなるが、どりあえずは、今のままで政府が運営を続けていくというシナリオだと言われている。それ以外の可能性は以下の通り。

1)今の議会のままで、政権の中心がリクードになる。

さらに政権からの離脱者がでるなどして、総選挙なしに、政権を後退するパターン。今リクードは29議席なので、ヤミナからの離党者を含め、宗教シオニスト党、シャス党など右派政党全部を含めても52議席しかない。可能性は高くない。

2)総選挙をする

もし議会が、総選挙を行うことで可決した場合、総選挙が行われるまでの数週間の間は、ベネット首相ではなく、ラピード外相が首相として立つことになる。

しかし、イスラエルのテレビ局がそれぞれ、次の総選挙をした場合の世論調査を行ったところ、ネタニヤフ氏のリクードが議席を伸ばすかもしれないが、それでもまだ最大57議席で、過半数には届かない見通しである。総選挙をしても、また総選挙やりなおしの繰り返しになる見通しである。

3)青白党ガンツ氏次第・・?

ガンツ防衛相

こう考えると、今また注目されるのは、青白党のガンツ防衛相である。青白党は、かつてラピード外相と共に、青白党で、世俗政権をたちあげようとしたが、ガンツ氏が、ネタニヤフ前首相の側に寝返って、実現しなかった。ところが、次の選挙では、ガンツ氏は、ベネット首相とラピード外相側に寝返り、今の政権を可能にしたのであった。

今また、ガンツ防衛相が、青白党を率いて、再びリクードに寝返れば、政権はネタニヤフ氏に戻る。またまたガンツ氏次第ということになりそうである。となると、今度は、ガンツ氏防衛相が首相になる!?可能性も0ではないということである。

www.timesofisrael.com/as-coalition-teeters-snap-polls-show-gridlock-could-continue-after-a-new-election/

石のひとりごと

11日、コロナ閣議前記者会見中のベネット首相 Amos Ben-Gershom (GPO)

個人的な意見ではあるが、これまで見てきたところによると、ベネット首相は、本当にイスラエルの国のことを考えている人物ではないかと思う。

ベネット首相は、正統派ユダヤ教徒である。かつては、ユダヤ人が国全体を治める中で、パレスチナ人も共存するという1国家2民族派の、まさに筋金入りの右派であった。イスラエルはユダヤ人の国だという強い意志を持っている人であることに間違いはない。

しかしながら、不思議な流れで首相となってからは、右派でこりかたまるばかりでは、先へ進まないということ、多様な政権だからこそ、うまく立ち回れるということも見出したようであった。

イデオロギーを前面に出せば、今のウクライナ戦争のようになってしまう。しかし、国民の命を守ることこそが、国の本命であることを全面に出すなら、やはり多様な状況に対応していかなければならない時も出てくる。その時に政府が多様な顔ぶれであれば、うまく協力して、右派がいい時は右派が、左派がいい時は左派が対処できる。これは実に便利な形であったと思う。

一方、ネタニヤフ氏もまた、イスラエルへの愛は、執念といってもよいほど強く、すぐれたリーダーシップを持った人でもあった。このため、汚職疑惑にある今も高い人気を維持している。

しかし、今、また元に形に戻ることが果たして、イスラエルのためになるといえるかどうかは、わからないと思う。特にこんな緊張している中で、ベネット首相を支えるどころか、足を引っ張るような動ができるということが疑問だからである。

しかし、逆に、右派からすれば、こんな時だからこそ、ベネット首相にはまかせておけないということなのだろう。

ベネット首相が主に選ばれた指導者ならば、このまま、この危機もまたなんとかすり抜けていくだろう。反対者が多いところからも、主に選ばれたリーダーだと考えられなくもない。しかし、全ては主の御手の中であって、我々人間にはわからない。

ともかくも、今の危機の時に立てられている首相は、ベネット首相である。

今後、政権交代があるかどうかはわからないが、今また一つ、大きな重石を背負わされたベネット首相が支えられるように、とりなしていただければと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。