超多様:イスラエル国内のさまざまな戦没者記念日事情 2025.4.30

A Memorial Day ceremony honoring fallen soldiers from Haredi tracks in Jerusalem on April 29, 2025. (Haim Twito)

戦没者記念日は、多様なイスラエルらしく、様々な形での式典が行われた。また、意見が違うイベントで反発する人々と治安部隊が衝突する様子もあった。*超正統派については別記事にまとめている。

右派ユダヤ機関シオニスト系Masaによる戦没者記念日:4500人参加

ラトルンでは、今年もユダヤ機関で、若者のイスラエル移住促進するプログラム、Masaによるイベントが行われた。今年はこれまでで最大4500人が、様々な国から参加した。

式典は英語だが、スペイン語、ロシア語、フランス語でに翻訳され、オンラインでも世界中に届けられた。

この式典では、特に世界中から移住してイスラエル軍で戦死した人々、10月7日の虐殺、今の戦争と、世界中で猛威を奮っている反ユダヤ主義、また10月7日以前から遺体となって返還されないままでいる人々にも焦点が当てられた。

www.jpost.com/israel-news/article-852014

極左によるイスラエル人とパレスチナ人が共に戦没者記念日:反対者暴動で負傷者

イスラエルでは、上記ユダヤ機関のイベントに対し、極左による、イスラエル人とパレスチナ人共同の戦没者記念日イベントもある。このイベントは、20年前に始まったもので、「対話と共通の経験」を土台に、イスラエル人とパレスチナ人が合同で行っている記念式典である。

これと並行して、2023年のハマスの襲撃で家族を失った遺族たちによる、極左団体によるファミリーサークルも、同様のイスラエル人とパレスチナ人の合同記念イベントを始めた。会場はテルアビブで、ヘブライ語とアラビア語で行われ、世界160ヵ国にもオンラインで流されていた。

キブツ・クファル・アザで従軍中だった息子のタルさんがハマスに殺された母親のリオラ・エイロンさんは、ハマスへの最大の復讐は、ハマスへの暴力的な手段ではなく、対話によって両民族の紛争の終結に至ることだと考えている。

今の右派政権と正反対の考え方である。

www.timesofisrael.com/an-alternative-memorial-day-ceremony-marks-its-20th-year-participants-say-its-the-future/

このイベントの様子を、オンラインで映し出して、約80人で見ていた、ラナナの改革派シナゴーグ(ユダヤ教リベラル系)に、右派の暴徒役200人が殴り込み、警察官4人と参加者3人が負傷した。

暴徒たちは、「お前たちはナチスだ!テロリストに死を!」などと叫んでいたという。

www.timesofisrael.com/rioters-attack-synagogue-hosting-screening-of-israeli-palestinian-memorial-event/

超正統派による戦没者記念日:従軍拒否派と従軍派

ユダヤ教超正統派たちの間では、従軍拒否派と従軍推進派に分かれている。戦没者記念日をめぐって、双方に動きがあった。

1)超正統派の従軍拒否派の反発

イスラエル軍は、今人手不足で、あと1万2000人、うち7000人は、最前線で戦う戦闘部隊兵士になる新兵が必要と表明している。こうした中、超正統派の18-24歳7万人が徴兵対象とされる。

しかし、ユダヤ教超正統派の多くは、今もまだ従軍を拒否している。昨年、イスラエル軍は、超正統派の若者たち1万人に、召集令状を送った。しかし、応じたのはわずか2%にも満たない、1721人だった。

戦没者記念日直前の4月28日(月)、テルハショメールにあるイスラエル軍の招集所に、招集に応じた超正統派新兵70人、予備役兵110人が、出頭することになっていた。

これに合わせてか、従軍反対派の超正統派たちが、招集所前に集まり、道路を封鎖するなどして、この人々の従軍を妨害しようとした。一行は、「シンワル(ハマス)と同じだ」と叫ぶなどして、国境警備隊と衝突となった。

同じ頃、エルサレムの徴兵オフィス前でも抗議行動があり、「シオニストはユダヤ人ではない」「我々は死んでも従軍には応じない」などと叫びながら、反シオニストたちが、治安部隊と衝突していた。

www.timesofisrael.com/haredi-protesters-block-streets-harass-conscripts-outside-idf-recruitment-centers/

2)超正統派の従軍推進派による戦没者記念日:3000人参加

従軍に反発する超正統派がいる一方、「片手にトーラー、片手にダビデの剣」と叫ぶ従軍推進派もいて、独自の戦没者記念日を開催。超正統派らしく、女性と男性が分かれて座る中、3000人が参加した。

このイベントは、超正統派男性の従軍を支援するネツァハ・イェフダと呼ばれる団体が他の組織とも協力して開催されたとのこと。

イベントでは、超正統派で戦死した兵士約50人の名前が読み上げられ、遺族や軍の代表が聖書の詩篇(ユダヤ教では祈りそのもの)を読み上げたとのこと。

The Hetz Haredi paratroopers company

超正統派が従軍した場合、戦場で律法を守り切ることが難しいことや、世俗の兵士たちにまみれることで、信仰が失われることも懸念される点である。

イスラエル軍は、超正統派だけの部隊を作るなどして対応しているが、不十分との声もある。

www.timesofisrael.com/as-idf-draft-battle-rages-haredim-gather-on-memorial-day-to-mourn-their-fallen-soldiers/

神戸にいる超正統派ハバッド派のラビは、従軍を支援すると明確に表明。支援物資も送っているとのことだった。

石のひとりごと

イスラエル人は約1000万人しかいないのに、この多様性。その元気の良さを思う。

日本は1億2000万人いるが、ここまでの対立や喧嘩はほとんどない。というか、その元気や、自分個人に直接関係ないことには、そこまで興味がないかもしれない。。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。