西岸地区の違法パレスチナ人家屋9棟破壊:映画「ノー・アザー・ランド」彷彿と注目 2025.5.7

スクリーンショット

ヨルダン川西岸地区でベドウィン系パレスチナ人の居住地をIDFが破壊

ガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ、シリアで虐殺されるドルーズ救済、イエメンのフーシ派への反撃、そして、イランとの睨み合いと、ニュースが忙しく回っている背後で、西岸地区における対立も深刻である。

イスラエル軍は、5月5日(月)、べドゥイン系パレスチナ人の家屋9棟の家と、5棟のテント、5棟の動物棟を、ブルドーザーで全部破壊した。住民たちは行き場なく、屋外で破壊される家を見ている。

イスラエル軍によると、これらの建物は、軍関係のエリアに違法に建てられていたとのこと。おそらく、期限を決めて立ち退きを要請したあと、強制破壊に至ったと思われる。

しかし、パレスチナ人によると、2023年10月7日以来、イスラエル軍は、西岸地区で拠点を拡大しており、パレスチナ人はなかなか居住許可を得られにくくなっているという。

今回の破壊の様子は、昨年2024年のベルリン国際映画祭で発表されたドキュメンタリー映画、「ノー・アザー・ランド(故郷は他にない)」という映画そのものであったため、日本を含め世界から注目された。

この映画は、イスラエル軍に家を破壊されたパレスチナ人家族と、その家族の一員であるパレスチナ人ジャーナリストと関わりを持つようになった、イスラエルのユダヤ人ジャーナリストの記録である。

この映画のアドラ監督によると、イスラエル軍と過激ユダヤ人入植者たちは、今回破壊されたパレスチナ人居住地の周囲に、前哨基地を建てていたという。

最終的にこの村を破壊、追放して自分たちの“違法”な入植地を建築しようとしていると主張している。

また、今のネタニヤフ政権が、右派政権であることから、最近は、過激ユダヤユダヤ人による、パレスチナ人地区への放火などの暴力が大胆に、また頻回になっている。

その者たちは、ほとんど逮捕されず、逮捕されてもすぐ釈放されていると、パレスチナ人たちは訴えている。

www.timesofisrael.com/military-demolishes-most-of-west-bank-bedouin-hamlet-displacing-dozens/

映画「ノー・アザー・ランド(故郷は他にない)」

この映画は、パレスチナ人のバーセル・アドラーさんとハムダーン・パラールさん、イスラエルのユダヤ人ユバル・アブラハムさんと。ラヘル・ショールさん、4人の共同監督で作成されたドキュメンタリー映画である。

西岸地区において、イスラエル軍による強制立退や家屋破壊に直面するパレスチナ人家族の様子を記録している。

パレスチナ人とイスラエル人が共に制作したドキュメンタリーということで、世界が注目し、ベルリン国際映画祭に続いて、コペンハーゲン映画祭でも、ドキュメンタリー賞を受賞。

今年2月には、アメリカのアカデミー賞(オスカー)においてもドキュメンタリー賞を受賞していた。日本でも今年2月から各地で放映されている。以下は公式サイト

www.transformer.co.jp/m/nootherland/

この映画がオスカーを受賞すると、親イスラエルの人々の間で物議となった。

イスラエルのゾハル文化大臣は、「映画界は、問題の複雑さを提示するのではなく、イスラエルのイメージを悪化させる道を選んだ」と遺憾を表明した。

www.timesofisrael.com/bds-movement-rejects-israeli-palestinian-oscar-winner-no-other-land/

西岸地区での紛争:ナブルスでパトロール中のイスラエル兵2人負傷

IDF

上記、映画のアカデミー賞受賞の直前、4月30日(水)、西岸地区パレスチナ人の町、ナブルスで、パトロールにあたっていた、イスラエル軍予備役兵2人が、爆発物にあたって負傷した。

すぐに病院に搬送されたが、1人は重傷である。

西岸地区では、イスラエル人に対するテロ計画が、際限なく続けられている。パレスチナ自治政府が、これを十分にとりしまらないため、イスラエルは自らの治安部隊を西岸地区に送り込んで、事前摘発を続けている。

それでも昨年の戦没者記念日以来、パレスチナ人のテロで死亡したイスラエル兵は316人、イスラエル市民は79人となっている。

www.timesofisrael.com/two-reservists-wounded-one-seriously-in-west-bank-roadside-bomb-attack/

石のひとりごと

まだ全編は見ていないのだが、この映画は、パレスチナ人と、イスラエルのユダヤ人が共同で制作したという意外性からも、左派的な人道主義的な視点の人向けの映画ではないかと察する。

家を失うパレスチナ人の悲惨や、過激ユダヤ人の問題は確かに存在している。しかし、イスラエルが、テロ組織と戦わなければ、大勢のイスラエル市民が殺されるという現状も世界は知らなければならない。

また、パレスチナ人との衝突は、イスラエル市民が望んでいることではないということ。戦いが続く限り、イスラエル市民は、若い大学生の息子や、幼い子供がいる父親を招集されなければならない。

イスラエル人は、平和を望んでいるのだが、いかんせん、存在を否定されているので、戦わなければ、それこそ、行き場を失うことになる。

世界中で反ユダヤ主義暴力が悪化する中「故郷は他にない」と言うせりふは、ユダヤ人に、当てはまることばである。

ゾハル文化大臣が言っているように、この問題は、非常に複雑で、一筋縄で、どちらが悪いと言い切れるものではないのである。

しかし、いかんせん、そう言うことは理解されず、この映画で、日本を含め、世界のイスラエルへの嫌悪感は、増し加わったかもしれないと懸念する。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。