西岸地区で悲壮すぎるテロ:出産間近で病院に向かっていた女性死亡 2025.5.16

The scene of a terror shooting attack on Route 446 between the Bruchin and Pedu'el settlements on May 14, 2025. Inset: Tzeela Gez, who was killed in the attack (Magen David Adom; courtesy)

西岸地区で出産直前の女性がテロ犠牲者に

5月14日(水)夜、西岸地区北部のブルチンに残住するユダヤ人、ゲズさん夫妻の車が、パレスチナ人テロリストに銃撃された。

妻のツィラ・ゲズさん(30)は妊娠9ヶ月で、もう出産が近いことが分かったため、夫とともに病院に向かっていたところだった。監視カメラで、銃撃の様子を目撃したイスラエル兵たちが、急ぎ現場に駆けつけた。

車を運転していたハナニエル・ゲズさんは、軽傷だったが、妊婦のツィラさんは重傷を負っていたため、最も近い病院に救急搬送した。

そこで緊急帝王切開が実施されたが、新生児は重体。小児病院で救命治療が続けられている。ツィラさんは、翌朝死亡した。

ゲズさん夫妻には、3人の子供がおり、新生児は4人目の子供である。ハナニルエルさんは、子供たちにもすでに悲報をはっきりと告げたという。WhatsAppでは、妻が死亡したことの悲しみを表明しながらも、生きていることに感謝し、これからも国のために戦い続けると書いていた。

ツィラさんは、生前、SNSを通じて、トラウマや人間関係で悩んでいる人たちのセラピストであったという。10月7日事件以降、「今生きている、今、ここにいることに感謝している」と述べて、笑顔だけでも光を届けることが可能だと言っていた。

ハナニエルさんの言っていることとどこか通じるものがある。

www.timesofisrael.com/woman-en-route-to-hospital-for-delivery-critically-wounded-in-west-bank-terror-shooting/

西岸地区で続くイスラエル人とパレスチナ人の対立

西岸地区では、ハマス含め、あらゆるテロ組織が渦巻いており、イスラエル国内でのテロを計画している。

イスラエル軍が、テロ計画を事前に摘発する作戦を、特にその中心であるジェニンで継続している。5月7日の情報で、すでに100人のテロリストが死亡しているとのことだった。一方で、イスラエル兵にも重傷を負う兵士も出ている。

こうした動きに加え、過激右派ユダヤ人によるパレスチナ人居住地への放火をする事件が時々発生している。

また、右派であるネタニヤフ政権は、無許可だとしてパレスチナ人居住地を破壊し、行き場を失うパレスチナ人が出ている。イスラエル政府は今、じわじわと、西岸地区の入植地を拡大する政策を進めているようである。

最近では、歴史的にイスラエルの首都であった、サマリアの考古学的な発掘を開始して、西岸地区におけるイスラエルの権利を主張する動きに出ている。

サマリアは、紀元前1200年から、バビロン捕囚の紀元前586年まで、イスラエルの都市として重要な役割を果たした町である。それを考古学的に証明することで、西岸地区におけるイスラエルの権利を主張できるようになる。

www.timesofisrael.com/archaeologists-launch-new-excavation-in-west-bank-at-capital-of-ancient-israel/

当然ながら、西岸地区におけるパレスチナ人とイスラエルの対立が深まっている。

しかし、この状態でもなお、西岸地区に住み続け、戦い続けようとする、宗教的なイスラエル人がいるということである。

宗教的なユダヤ人で、聖書によれば、西岸地区は、イスラエルの地であるから、そこから出てその地を失うのは、神のみこころではないと考えている。確かに、この人々がいなければ、イスラエルはとっくに西岸地区を失っていたかもしれないと思う。

石のひとりごと

イスラエルの友人たちは、今の右派政権になってから、特に西岸地区での右派系のイスラエル人の動きが、活発になっていると言っていた。

したがって、特に、西岸地区におけるパレスチナ人、特にテロリストのイスラエルへの憎しみは、確実に高まっているといえる。

ゲズさん夫妻は、危ないとわかっていながら、西岸地区に住み、夜に車を走らせたらテロリストに狙われることも分かっていて、神に祈りつつ、病院に向かっていたのだろう。だから、こんな悲惨な目にあっても、まだ負けないと言っているのだと思う。しかし、遺族にとって、特に子供たちにとって、母親を失うことは、単純なんことではない。

ユダヤ教では、「一人の人を救うことは、一つの世界を救う」と、命の大きさ、その存在の大切さを教えている。ということは、その逆もあるわけで、ツィラさんが死亡したことで、失われた世界があるということである。

生まれたばかりの子供やその兄弟たちは、幼くして母を殺された。彼らの世界もまた失われたということである。それでも、夫であるナタニエルさんは、気丈に戦っていくと宣言しているということである。

ツィラさんを撃ったパレスチナ人は、今どんな思いなのだろう。妊婦だとわかって撃ったわけではないだろう。なんとも。。。。。。。。。。。。。。

人間の愚かさというか、しかし、憎むべきはその背後にいるサタンの力である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。