対アメリカ準備!?:ロシアがシリアに対空ミサイルシステムを配備 2016.10.8

<アメリカとロシアがシリア問題で決裂>

シリアでは、一時アサド政権が風前の灯火になった時期があった。しかし、その後、イランとヒズボラが加わり、ロシアが本格的に軍隊を派遣するようになると、情勢は逆転した。

アメリカは、アサド政権を支援するつもりはないのだが、ISを攻撃して弱体化することは、皮肉にもシリア政府には追い風になった。今は、ロシアを背景にしたシリア政府軍が優勢である。

こうした中、ロシアとアメリカの関係が悪化してきたことはお伝えしている通りである。先週、両国が協力して導き出した停戦案が座礁にのりあげ、その直後に、アレッポの反政府勢力を急激に猛攻撃しはじめたことで、アメリカとロシアの関係は、急速に悪化している。

アメリカは、ロシアに対し、アレッポへの無差別攻撃は戦犯にあたる可能性があると指摘した。

これを受けて、ロシアは、そういうアメリカは、約束した停戦の条件を守っていないではないかと非難した。すなわち、群雄割拠する反政府勢力の中で反政府勢力と過激派勢力を、アメリカが分離するという約束である。分離した上で過激派を撃滅する計画だった。

ロシアが具体的に指摘するのは、過激派と目されるアル・シャム(元アル・ヌスラ)をアメリカが、穏健派の一派であるかのように扱い、分離するつもりがないのではないかという点である。

アル・シャムは、もともとアルカイダの傘下にある過激派組織だった。現在、ゴラン高原のクネイトラ周辺からシリア政府軍と戦い、UNDOF(国連兵力引き離し監視軍)も追い出して、その地域を支配するようになっている。

しかし、今年に入ってから、アル・シャムはアルカイダから離脱した。一説によると、穏健派と協力している可能性がある。

アメリカにしても、これまで支援してきた穏健派勢力だけではシリア政府軍にたちうちできていないため、強力なアル・ヌスラが加わることを黙認しているということも大いに考えられる。

ロシアにしてみれば、反政府勢力を撲滅しようとしているのに、アル・シャムが加わることで、戦争がながびくことになるのは、ぬきさしならぬ事態というわけである。それで今、アレッポで無残なまでに反政府勢力への猛攻撃を行っているのである。

アレッポでの惨状が伝えられる中、3日、アメリカは、シリア問題においては、ロシアとの対話を一時凍結すると発表した。するとロシアは、アメリカとの約束—武器レベルのプルトニウムを一掃するという約束を凍結すると発表した。

つまり、シリア問題に核問題を持ち出したということである。

<ロシア:地対空ミサイルをダマスカス郊外などに配備>

この直後、ロシアは、シリアのタルススに、S300地対空ミサイルを配備した。S300は、複数のパーツからなり、それぞれが車両に乗っているために移動可能である。それらが連携して、複数の位置から複数のミサイルを発射して、戦闘機を撃墜するものである。しかし、反政府勢力もISISも戦闘機は持っていないことから、今回のS300の配備が、アメリカの攻撃に備えたものと考えるのが自然である。

www.bbc.com/news/world-middle-east-37557138

アメリカがすぐにもロシアを攻撃することはないが、アメリカの内部では、アサド大統領暗殺しかないという声もあった。この地対空ミサイルの存在は、それを困難にするだろう。

ロシアの地対空ミサイル配備が示しているのは、アメリカには、もう切るべきカードが残されておらず、今やシリア問題においてはロシアが鍵を握っているということである。

結局のところ、ロシアがアサド政権の存続を目標としているのに対し、アメリカはアサド政権を打倒して反政府勢力から新政府を立ち上げることが目標なのであるから、いずれは決裂するのは時間の問題であった。今後どうなるのか?それは主だけが知るところである。

<地獄の様相:アレッポ>

BBCによると、ロシア軍とシリア軍がアレッポの反政府勢力の支配域(東アレッポ)を激しく空爆しはじめてから、子供106人が死亡するという悲惨な状況に陥っている。

アメリカによると、ロシアが地下貫通爆弾(Bunker Buster)を使っているため、地下の防空壕が破壊されて、かろうじてかくまわれていた子供たちが多数犠牲になったという。

東アレッポの地下で勉強する子供たち
www.bbc.com/news/world-middle-east-37561618 

病院も容赦なく攻撃を受けており、アレッポの最大病院も爆撃を受けた。医療スタッフも犠牲になっている。ロイター通信によると、東アレッポの人口は120万人で、しかも負傷者が溢れかえっている状況の中で、生き延びている医師は、わずか30人ほどとみられている。
www.bbc.com/news/world-middle-east-37528260

アレッポからは、血まみで、ガーゼもごみも散乱する“集中治療室”や、手術台ではなく、床の上で、脳手術をしている医師らの様子の映像が届く。

東アレッポの中でも特にシリア政府軍に包囲されている地域には275000人がいるが、攻撃が始まってから人道支援物資は届いておらず、水道もとまっている。

アレッポはもはや地獄の様相である。

<イスラエルとの関係>

アメリカとロシアがシリアで対立を深めているということ、シリアでS300が配備されたことはイスラエルにとっても無関係ではない。

イスラエルは、シリアからヒズボラへ武器が搬入されそうになると、まだシリア領内にあるうちに、空爆して破壊するという作戦を続けている。これについては、ネタニヤフ首相が、モスクワまで出かけてプーチン大統領の黙認をもらうことで合意を得ている。

しかし、万が一、この関係が崩れた場合は、イスラエルの戦闘機も安全にシリア領内に入れなくなり、ヒズボラへの武器搬入が可能になってしまう。今後シリア情勢についてさらに、外交、諜報活動が重要になりそうである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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