安倍総理イスラエル訪問:日本・イスラエル・ビジネスフォーラムより 2015.1.20

安倍晋三総理がエジプト、ヨルダンを訪問し、18日からイスラエルを訪問。ネタニヤフ首相、リブリン大統領との会見し、中東の過激化を止めることへの協力を確認。日本・イスラエルのビジネス・セミナーで両国の友好関係を深める道作りを行っている。

19日には、ヤド・バシェムを訪問して献花。ネタニヤフ首相夫妻と安倍首相夫妻そろっての夕食会。明日20日は、ラマラのパレスチナ自治政府のアッバス議長を訪問し、日本が援助して来たエリコ周辺の視察を行う。

安倍首相訪問は、イスラエル国内では、ほとんどニュースになっていないが、エジプト支援に430億円、ヨルダンの難民支援、対テロ支援に120億円の円借款を約束ことは、イスラエル人らの注目を引いているようである。

<安倍首相とともに日本から280人のビジネスマン>

安倍首相の公式訪問の取材は、日本から来た外務省付きの記者らが取材を行っているので、大手新聞社でも現地記者が取材できるのは限られているという。

唯一、取材できたのが、18日にエルサレムで行われた、ネタニヤフ首相、安倍首相ともに出席する日本・イスラエル・ビジネス・フォーラム(JETRO/日本貿易振興機構主催)だった。

JETROスタッフによると、セミナーには、日本から来たビジネスマン280人(費用は税金ではなく自前だと強調)とイスラエル人ビジネスマン300人が登録。実際には500人程度の経済人がセミナーに参加したとみられる。

両国とも参加者は、社長やビジネスマンで、日本からは日本総理府関係者、外務省、大使館関係者も来るなど、ほとんど全員が黒などダークカラーのスーツ姿、会場も5つ星ホテルのウォルドルフ・アストリアホテルで、高級感ただようセミナーだった。

セミナーでは、ネタニヤフ首相と安倍首相が冒頭で挨拶を行い、両国が、国をあげてビジネス・パートナーであることをアピールした。

ネタニヤフ首相は、今後数年間、日本とのパートナーシップ強化のために特別予算を計上していることを明らかにした。方策の一つは現在東京にあるイスラエルの貿易事務所を大阪にも設置する。

ネタニヤフ首相は、「イスラエルとの連携を決めた日本政府の決断は両国にとってよい決断である」と語った。

一方、安倍首相は、「両国は共に資源がなく、イノベーション(技術革新)が重要だ。イスラエルは、毎年新しい技術でスタートアップ国と言われる。イスラエルとの協力は不可欠だ。」と語った。

今回は特に、両首脳が見守る中、ICT(情報通信技術)分野での研究協力に向けた署名式が行われた。日本はサイバーセキュリティが弱く、情報は筒抜けと指摘されるところだが、今後、サイバーセキュリティでは世界一とされるイスラエルとの共同研究をすすめる。

その後、日本から来た日本企業で、イスラエルへの進出をもくろむ会社社長がそれぞれの社のプレゼンテーションを行った。

1)食品系

チョーヤ梅酒(株)の金銅重弘社長は、「梅酒の梅はプラムではない。日本にしかないアプリコットの類いだ。」 とこだわりを披露。梅酒がイスラエルの常識になってほしいと語った。なぜイスラエルなのかを聞くと、社長は、「イスラエルにはお金のある人が多いから。」と答えた。

チョーヤは、毎年一回、ラビを招致してコシェルの認定を受けた梅酒を、イスラエルの空港内で販売している。今回の会場でも梅酒をふるまっていた。今後さらにイスラエル国内に市場をひろげたいと語る。

チョーヤと並んで、ジャパンウィークでも単独で出店していた福岡県ブランドの日本酒「梵」が今回も酒を振る舞っていた。

次にキッコーマンの染谷光男社長。イスラエルでは寿司が相当な人気でもあることから、キッコーマンの醤油は、すでにイスラエルのスーパーでも普通に買えるようになっている。しかし、 500CCの醤油が、30シェケル近くする(約1000円)。

キッコーマンは、特にすぐれたコシェルであるウルトラ・コシェルの認定をとっている。キッコーマンでは、醤油文化をイスラエルにさらに浸透させるため、3年まえから毎年、すしのコンテストを行っている。

2)投資系

伊藤忠の投資系会社の安達俊久社長が、イスラエルのベンチャー企業への投資への意欲を語った。

「イスラエル人は、失敗を恐れない。また失敗してもやり直せる環境がある。”奇人変人”を受け入れるイスラエルには、0から全く新しい発想が出て来る」と評価(?)。日本はその点には弱いが、それを何倍にも拡散することができるとアピールした。

変わりどころでは、若手投資企業のサムライ・インキュベーター(テルアビブ本社)を経営する榊原健太郎氏。まだ若いがこれまでにイスラエルのベンチャー企業十数社に投資し、利益を上げている。日本企業の誘致活動も行う。http://www.samurai-incubate.asia/?lc=jp

最近では、テルアビブでトヨタとともにハッカソンを開催するなど、数多くのイベントをイスラエル国内で開催し、投資する企業をさがす。毎週木曜、テルアビブでサムライナイトを無料で開催し、イスラエルと日本を結ぶ働きをしている。

榊原氏は、若手らしい元気なプレゼンを行い、2015年には30社に投資するとの目標を語り、イスラエル人らから歓声があがった。なお、テルアビブには、もう一つ若手の岡田一成氏が経営するジャパンイノベーションセンターがある。

3)サイバーセキュリティ系

ザインエレクトロニクス(株)の飯塚哲哉社長が、イスラエルからはウイルスに感染した情報が非常に少ないと評価した。この他、情報通信研究機構(NICT)の坂内正雄もプレゼンテーションを行った。

この他、参加していた企業は、IBM, 三井物産、富士フイルム、三菱商事、パナソニック、みずほ銀行、前川製作所、欧州三井住友銀行など多数。

セミナーは2時間ぐらいだったが、ネタニヤフ首相と安倍首相に出番が終わるやいなや、報道陣はほとんど全員退散。チョーヤやキッコーマン社長らが、プレゼンテーションを行う中、最後まで残ったビジネスマンは3分の1程度だった。

会場右側日本人席、左側イスラエル人席だったのだが、閉会後、案の定、右側は整然としてごみもまったく落ちていないのに、左側は、プログラムやらなにやらが散らばり、むちゃくちゃになっていた。

セミナー後は立食ビュッフェ。ローストビーフや、新鮮なサーモンなど、高級料理がならんでいて、JETROの人にどうぞと言われるまま、思わぬお相伴にあずかってしまった。

<石のひとりごと>

今回、エジプトやヨルダンで相当な額の円借款を決めた日本。額が大きいので、イスラエル人らから、「Interesting」と言われた。いつもは非常に陰のうすい日本が若干、注目を得たようである。

しかし、表立ってイスラエルと手を結び、首相が、西側の対テロ政策に同調する発言をするなど、今後、日本も世界テロから無縁ではなくなってくるかもしれないと、私たち国民も覚悟を決めておいた方がいいだろう。

イスラエル側に立っているカナダの外相は、安倍首相とほぼ同時に来たが、パレスチナ自治区を訪問した際、卵や靴をなげつけられ、「カナダは歓迎しない」とのデモに遭遇している。

日本はパレスチナ人には相当支援を行っているので、安倍首相が靴を投げられることはないと思うが、そうした中東の本質は、アメリカですらよく理解できていないと言われる。日本の外務省がよく理解した上で、中東という火の中に手を突っ込んでいただきたいと思うところである。

安倍首相を直接拝見するのは初めてだったが、背たけや雰囲気などは、テレビで見るのと全く同じ安倍首相だった。中国人とも韓国人とも違う、「日本」のにおいがしてきそうな人物だった。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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