先週から最後の外交で7カ国を回っていたポンペオ米国務長官は、フランス、ジョージア、トルコ、イスラエルを訪問後、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問し、最後にサウジアラビアを訪問した。
23日にメディアにリークした情報によると、22日、ポンペオ国務長官が、紅海に面する未来都市ネオムで、モハンマド・ビン・サルマン皇太子(35)と会談した際、ネタニヤフ首相が合流したという。
ネタニヤフ首相は22日夕刻、イスラエルを飛び立ち、1時間後にネオムに到着。サルマン皇太子とポンペオ国務長官と3人で約2時間話した後、深夜過ぎにイスラエルへ戻ったとのこと。
イスラエルの首脳が、湾岸アラブ諸国の棟梁的立場であるサウジアラビアを訪問することは、少なくとも表向きは前代未聞。日本を含め、翌日には、世界中で報道された。後に、イスラエルとアメリカ、サウジアビアも、正式にこれを認める形となっている。最初から隠すつもりはなかったとみられている。
www.timesofisrael.com/netanyahu-mossad-chief-said-to-travel-to-saudi-arabia-meet-with-crown-prince/
<電撃サウジ訪問の目的>
1)イラン問題に関する合意とバイデン氏へのメッセージ
トランプ政権は、もうすぐ政権交代の過渡期にある。ネタニヤフ首相も、トランプ大統領が消えると同時に、汚職問題の追及が始まる予定である・次期首相予定のガンツ氏との関係も悪く、4回目総選挙の可能性もではじめて、いつまで政権にとどまれるかわからないというのが現状である。
こうした中で、共に、ポンペオ国務長官とネタニヤフ首相が、イラン問題について、サウジアラビアとの合意を確認することと、バイデン氏へ、3国の協力体制を強調して、イランとの核合意に戻ることはもうありえないとアピールする目的があったとみられている。
2)サウジアラビアとイスラエルとの国交正常化への試み:未来都市ネオムに関して
さらには、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化という野望もあったとみられる。
イスラエルは、UAE、バーレーンとの国交正常化に成功したが、そこに諜報機関モサドのヨシ・コーヘン長官の働きがあった。そのヨシ・コーヘン長官が今回も、ネタニヤフ首相のサウジアラビア訪問に同行していた。
ポンぺオ国務長官もともに、イスラエルとの国交正常化への合意に至るという野望があったとみられる。しかし、現時点で、サウジアラビアがこれに応じることはなかった。
しかし、イスラエルが、イスラムの聖地メッカ、メディナがあるサウジアラビアに足を踏み入れたというだけでも、かなり大きな出来事であろう。また、今回、この3者会談が行われたのが、今も建設中の未来都市ネオムであったことが注目されている。
ネオムは、サルマン皇太子がすべてをかけて開発する、未来都市、メガシティである。最先端技術の未来都市ネオムの開発にイスラエルの技術力は、非常に大きな役割を果たすとみられる。
このネオムが大きく成功するためには、ネオムからエジプト、ヨルダンへの交通網が必要になるが、ネオムからエジプトへは、問題のチラン海峡をまたぐ形で、10キロに及ぶ巨大な橋が必要になる。
しかし、チラン海峡はイスラエルから海へ出る出入り口になるため、この上をまたぐ橋ができることは、イスラエルにとっては治安上の問題にもなりうる。ここが、エジプトとの戦争のきっかけにもなったこともあり、今は、イスラエルとエジプトがこの海峡の通行についての合意を結んでいるほどの場所である。
このため、サウジアラビアがネオムでのプロジェクトを成功させるための橋を建設するためには、将来的に、イスラエルとの国交正常化が必要不可欠なのである。
ここ、ネオムでサルマン皇太子とネタニヤフ首相が会談したということは、今は国交正常化には至らなかったとしても、将来的な両国の交流を十分示唆しているといえる。
www.timesofisrael.com/netanyahu-mossad-chief-said-to-travel-to-saudi-arabia-meet-with-crown-prince
*未来都市ネオム
www.neom.com/en-us/about/#vision-2030
2017年、サウジアラビアのサルマン皇太子は、脱石油世界を目指して、世界に先立つ未来都市、ネオムの建設を始めると発表した。
ネオムは、サウジアラビア北西部、紅海に面して、エジプトとヨルダン、イスラエルのエイラットにも近い地域で、砂漠地帯を含む2万6500平方メートル(四国4県と兵庫県足したぐらい)の、海、砂漠、山岳地帯を含む広大な地域である。
この広大な地域を、イノベーションを集約して、文字通りの未来都市を建設している。予算は5000億ドル(50兆円)にのぼり、以下の9分野で、開発がすすめられている。このために世界の投資家が関わっているが、日本からは、ソフトバンクが名乗りを上げている。
その内容としては、①エネルギー、水技術、②交通、③バイオテクノロジー、④農業、⑤デジタル科学、⑥製造業、⑦メディア、⑧エンターテインメント、⑨生活
実際には、人間より、ロボットが多く住んで様々な仕事をこなし、車は自動運転のみなど、まさにSFの世界のようである。また、サルマン皇太子は、サウジアラビアの既存の政府の枠組みからはずし、独自の労働体系を作るというなど、文字通り未来志向の計画である。
計画では、2030年完成とされているが、砂漠地帯に0から始めるプロジェクトなので、少々無理があるのではとの声もある。しかし、こうした計画は、お金がないとできないことであり、お金はないが発想力、技術力にあふれたイスラエル人には、非常に魅力的なプリジェクトだといえる。
サルマン皇太子が、ポンペオ国務長官ととともに、この地でネタニヤフ首相と初会談したということにはそれだけで大きな意味があると思われる。
www.meij.or.jp/kawara/2017_112.html
しかし、サウジアラビアがこうしたプロジェクトに着手するのは初めてではなく、これまでも何回か挑戦して、失敗した例もあるため、今回のものも成功するかどうかは、まだ不透明といえる。