ヒズボラとの停戦が意味すること:焦点はイラン/元国家安全保障顧問 ヤコブ・アミドロール少将 2024.11.29

IDF operating in southern Lebanon November 14, 2024 (photo credit: IDF SPOKESMAN’S UNIT)

今回のヒズボラとの停戦が意味することは何か。これからイスラエルは何に焦点を合わせなければならないのか。元国家安全保障顧問のヤコブ・アミドロール少将が以下のように解説した。

ヒズボラとの停戦が意味すること:今後どうなるのか・イスラエルはどうするべきか

1)ヒズボラとの停戦はイスラエルに有益

今回、ネタニヤフ首相が停戦に応じたのは、ネタニヤフ首相はアメリカから、武器支援さしとめなどの圧力をかけられたためとみられている。しかし、アミドロール少将は、それを否定しないものの、それ以上に、イスラエルの計算上のことだったとみている。

その理由として、まずヒズボラが、すでに相当な打撃を受けていることをあげた。これまでの戦闘で、ヒズボラは、ナスララ党首はじめ、トップレベルの指導者をほとんど失い、武力もかなり失っている。

また、ヒズボラは、パレスチナ問題へのつながりがなく、ただイスラエルを滅ぼすためにのみ存在する、悪でしかない組織なので、中東諸国からは同情を得る理由がない。中東の国々のほとんどは、イスラエルがヒズボラをほぼ壊滅にまで追いこんだことを歓迎していると考えられる。

またイスラエルは人口1000万人に満たない小国で、資源は限られている。ヒズボラとの戦闘は、ずっと最小限に止めていたのであり、本格的な戦闘になったのは、ハマスの弱体化が明らかになった9月末からであった。イスラルは、2方向に前線を抱えることを避けているということである。

さらに、戦闘が1年を超えた今、イスラエルでは、予備役を招集することによる働き手不足や、経済的負担も重くなっており、これ以上戦闘を続けることに限界もある。

さらに2006年の時と違って、今回は、ヒズボラがどんな形であれ、合意条件に違反した場合、イスラエルは、攻撃する権利を有するという書面での約束を受け取っている。予告なしでも攻撃して良いということである。これは、イスラエルにとって非常に有利な状況である。

アミドロール少将は、このように、全体像をみれば、今この時点で停戦に入ったのは、アメリカの圧力でというよりは、計画的に停戦に応じた、言い換えれば、イスラエルが勝利したということだと語る。

ただ中東では、停戦に応じるということは、弱いからと考えるのが常識なので、イスラエルが勝ったとはだれも認識しないだろうとのこと。

2)停戦は続くのか:停戦が破綻したらイスラエルは力で反撃する必要がある

停戦が続くかどうかは、ヒズボラが、どれだけ自分が弱体化したかを自覚するかによる。もしまだまだ戦えると自覚した場合、停戦は破綻する。

しかし、もしかしたら、これまでヒズボラに頭が上がらなかったレバノン政府が、今は、ヒズボラを抑えこむことができるようになっているかもしれない。停戦が破綻するか続くか、ここ数日の間に、明らかになるだろう。

もし停戦が破綻して、ヒズボラが攻撃してきた場合、イスラエルは、力で対応しなければならない。これまでイスラエルはいったん停戦したら、あとは何があっても反撃してこないという失敗を繰り返してきた。

アメとムチの対応の中で、常にアメの道をとってきたのである。その結果、敵はどんどん強大になっていった。

今回は、必ずムチを使うべきだ。攻撃了解の書面をもらっているのであるから、レバノンの領内でもよい。ヒズボラとレバノン軍を区別しないほどに、圧倒的な力でこれに対処しなければならない。それでようやく平穏になる。

しかし、その場合、国際社会の非難を受け、イスラエル軍にも犠牲が出るだろう。大きな犠牲を払うことになるが、それでも力でもって対応するべきである。

ガザでのハマスとの交渉はどうなるのか

ヒズボラは、もともと、ガザのハマスを援護するために、イスラエルへ攻撃を仕掛けてきた。しかし、停戦協定において、ハマスのことはいっさい条件に出してこなかった。ハマスはもはや孤立している。

ヒズボラというバックアップが無くなった今、ハマスは、これまでのような強気の態度を改め、交渉に応じようとするかもしれない。その場合、イスラエルは応じるべきである。たとえ、大きな支払いをするとしても、人質をとりもどさなければならない。

これからの焦点はイラン:海外にいるイスラエル人を狙う?

アミドロール少将は、これからの最大の焦点は、イランだと語る。

イランは、国としては非常に強大な国だと指摘する。優秀な人材が多く、国のシステムや、イラン軍も安定している。そのため、イランは、これまで自分が手を出すのではなく、傀儡組織のハマスとヒズボラ、フーシ派などにイスラエルを攻撃させてきた。

しかし今、イラン最強の傀儡組織であるハマスとヒズボラが役に立たなくなり、イランは、イスラエルと直接対立する絵図になっている。しかし、イランはイスラエルとの直接対決は望んでいないと考えられる。

イスラエルは、今年のイラン本土への攻撃で、イランの防空能力を破壊した。また苦撃したスポットから、イスラエルが、イランの機密情報を得ていることを見せつけることにも成功している。イスラエルはイランをいつでもどこでも攻撃できるということである。

このため、イラン市民の間で、現政権の落ち度や弱さも明らかになった。今や、国内からの圧力もある。

この状態で、最も懸念されることは、イランが、無防備な、国外にいるイスラエル人、ユダヤ人が殺害されることである。

また、イランには、まだ核という問題があることも忘れてはならない。核については、来年トランプ政権がイランに制裁を再開するなどの政策をするのかどうかなども見て、判断しなければならない。

停戦後はネタニヤフ首相の責任追求も

イスラエル国民は、イスラエル軍は信頼しているが、政府への信頼は低い。ネタニヤフ政権の評価は、停戦ではなく、今後、北部国境の治安をどう守り、どう復興していくかで決まる。官僚をどう配置し、予算をどの程度北部に回すのかなどである。

また、状況が落ち着けば、いよいよ10月7日を招いた政府やイスラエル軍指導者の失敗の検証と責任の追求が行われる。ネタニヤフ首相への訴追は避けられないだろう。

*IDFのハレヴィ参謀総長は、すでに責任を認めており、検証が終わった時点で辞任することを表明している。

*これを避けるために、ネタニヤフ首相はあえて危機的状況を維持しているといった陰謀論も、イスラエル国内にはある。

石のひとりごと

停戦となり、南レバノンでは、喜んで、踊っている市民たちの様子が伝えられている。

イスラエル中部北部では、ほぼ1〜2時間おきに鳴っていた、サイレンが、もう2日以上、鳴っていない。しかし、イスラエル国内で、停戦を祝う様子はみられない。

停戦とはいえ、戦争が終結したわけではなく、まだヒズボラが攻撃してくるかもしれない。6万人の避難民も帰れないでいる。政府がこれから被災した北部地域とその住民に対してどんな方策を取るかもチャレンジである。

またイランがこれからどう動くのか。世界にいるイスラエル人は早く帰国するように、あらゆるところにいるユダヤ人が守られるよう、今まで以上にとりなす必要がある。

停戦はイスラエルにとって有利なのだろうが、勝利したのかそうでないのか、何やらよくわからない感じである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。