パレスチナ自治政府市議改選:10月8日(予定)2016.9.4

パレスチナ自治政府は、前回2012年の市議会選から4年めにあたる今年10月8日に、市議会選挙を予定している。

西岸地区とガザ地区という狭い地域で、”市”などあるのかと思うが、前回2012年の市議会選挙では、93の町で選挙が行われた。選挙権を持っていたのは50万5000人だった。(Times of Israel)

今回の市議会選挙には、ハマスも参加すると表明している。これについては、西岸地区のファタハ(アッバス議長政党)、ガザ地区のハマス、双方がお互いの存在を受け入れたことを意味しており、Times of Israelによると、ハマスの選挙参加は、イスラエルと欧米も黙認しているという。

www.timesofisrael.com/fatah-said-to-beg-abbas-cancel-local-elections-hamas-will-win-west-bank/

これはパレスチナを民主化の元で、いったん統一させた上で、ハマス以外の指導者が立つことが今後の交渉にも便利だからと考えられる。しかし、これはかなり危険な賭けで、ハマスを優勢にすることは絶対に避けなければならない。

8月には、ファタハと、一部イスラエルも西岸地区にいるハマス(立候補とみられる人物を含む)を逮捕したため、一時ハマスが選挙には参加しないと脅迫したりする一面もあった。

最も深刻な問題は、この市議会選挙の結果が、近い将来、実施されるとみられる国民投票による議長選挙にも大きく影響するとみられる点である。

もしハマスが市議会選挙で優勢になれば、アッバス議長の影響力がさらに落ちて、西岸地区までハマスに支配されるようになる恐れがある。

ファタハ(アッバス議長政党)内部からは、万が一にもハマスが勝利した場合を考え、市議会選挙を取りやめるべきだとの声もある。

<ポスト・アッバス議長はどうなる?>

アッバス議長は、アラファトしかし故今ト議長の跡を継いでから、本来の任期4年をはるかに通り越して、すでに11年も議長職をつとめている。今に至るまで副議長も任命せず、後継者の育成はまったくしていない。

Times of Israel は、アッバス議長が後継者を育てて来なかったのは、”自分しかいない”状況を維持して政権を維持するためであり、仮に自分の死後、パレスチナ社会が混乱しても自分には関係がないと考えていると分析する。

実際、アッバス議長は、これまでのところ、パレスチナ市民からは失敗者とみられており、指導者としての支持率はかなり低い。ガザをハマスに奪われ、アメリカの仲裁で始まった和平交渉にも失敗し、なんの実績も残していないからである。

さらには、イスラエルと協力しての治安維持政策をとっていることから、”イスラエルより”とのイメージもあり、不満に思うパレスチナ人も多い。

それが11年も議長でいられたのは、他に有効な候補者がおらず、さらには、アッバス議長の次に出て来る指導者が、今よりもっと悪いと懸念されるからである。これはイスラエルにとっても同様で、アッバス議長はただ強いていうなら、”まし”なのである。

しかし、アッバス議長は今年81才。いつ死亡してもおかしくない年齢だ。もし今アッバス議長が暗殺や急病で急にいなくなれば、パレスチナ人の間に大混乱が生じることは避けられないだろう。

手続き的には、アラファト議長死去の時と同様、まずは、母体PLOの中央委員会が新しい議長が指名され、その人物がパレスチナ自治政府の長になることになる。

しかし、アラファト議長の時と違う点は、PLOとその傘下のファタハに圧倒的な支持率がない点だ。PLO議長がそのままパレスチナ自治政府の長になれるとは限らないのである。

では”その日”には、どんなシナリオがありうるだろうか。

1)マルワン・バルグーティの登場!?

現在のパレスチナ自治政府内部で、シニアのリーダー候補といえば、アラファト時代から様々な交渉に関わってきたサエブ・エレカット氏(72)がいる。しかし、パレスチナ人統計学者のシカキ博士によると、エレカット氏の支持率は、絶望的だという。

次にガザ地区出身だがファタハのモハンマド・ダーラン氏(53)。しかし、ダーラン氏もイスラエルとの協調路線が過ぎるとされる上、ガザ出身で西岸地区との関係がうすいとして、支持率は低い。カリスマ性もない。

ハマスに対抗しうる協力なファタハ指導者候補は、2005年以来、5回分の終身刑との判決で、今もイスラエルの刑務所にいるマルワン・バルグーティだけである。

バルグーティは、オスロ合意の賛同者であり、今もイスラエルとパレスチナの2国家2民族案推進派だと自称する。しかし、同時に第二インティファーダでは、イスラエルに対する暴力で、今のように刑務所で一生を過ごす身となったわけである。

刑務所にいながら、議長に選ばれるなど想像もつかないのだが、バルグーティは、イスラエルとの闘争で刑務所にいるこおもあって、協力なカリスマ性も持っている。ヘブライ語も話せる。

アッバス議長後の政権争いを避け、ハマスが西岸地区を支配してしまうことを避けえるとすれば、このバルグーティしかいない。また、パレスチナ人らが、刑務所にいるままで、バルグーティを議長に選出する可能性も0ではない。

そうなれば、イスラエルはどうするのか。釈放を検討せざるをえないかもしれない。しかし、イスラエルの刑務所ですでに10年以上服役しているバルグーティがイスラエルに協力的になったのか、相変わらずテロを奨励する危険人物なのか、どちらのバルグーティが出て来るかは全く不明である。

ハマスに政権をとられないようにするとはいえ、イスラエルにとって、バルグーティを釈放するかどうかは、かなり難しい判断になると思われる。

2)ハマス台頭による混乱

しかし、仮にバルグーティが指導者にならなかった場合はどうなるのか。ファタハは、前のアラファト議長死去の時のように、PLOが委員会がすみやかに時期指導者を決めるので混乱はないと言っている。

しかし、仮に市議会選挙で、ハマスが優勢になっていれば、ファタハが自らの議長を、自動的にパレスチナ自治政府の最高指導者にする権利はない。西岸地区のハマス代表アジズ・ダウェイク氏は、すぐにもガザ地区ハマスから時期指導者候補を出して来るだろう。

そうなれば、西岸地区とガザ地区2カ所に”議長”が生まれることになり、結局、暴力沙汰になると思われる。しかし、ハマスは、今でもいったいだれが最高指導者なのかわからないような状況にある。新しい議長をめぐって、ハマス内部の混乱から、とばっちりがイスラエルに来る可能性もある。

自国の治安にかかわるような事態になれば、イスラエルは介入せざるをえなくなる。どんな介入かといえば、強大な軍事力を背景にイスラエルが一時的にも西岸地区、ガザ地区の合併し、とりあえず平定するといった事態もありうる。

今は想像でしかないが、こうした状況の中で、10月8日、パレスチナ自治政府市議会選挙が予定されているということは理解いただければと思う。

主な情報源:The Jerusalem Report ” Succession strife”Sep 5. 2016 *エルサレムポスト傘下のニュース・マガジン

<西岸地区・入植地をめぐる動き>

上記のような政治的不安定の中で、イスラエルへのテロの波となっているわけだが、イスラエルは、暴力を煽動するグループや武器の摘発押収、またパレスチナメディアに踏み込んで破壊するなどの対策をとっている。

その中で、パレスチナ人の若者が死亡したり、イスラエル軍兵士が刺されたりといった事件は相変わらず散発している。

しかし、同時に、パレスチナ人らの人心を推し量って、最近のテロでイスラエル人を殺害したテロリストの遺体を順次返還するなどいわば、アメとムチをつかって平穏を維持、また国際社会の非難をやわらげる対策を続けている。

一方で、イスラエルは、テロへの報復の一環として、西岸地区のユダヤ人入植地の建築許可を出すという方策も続けている。

最近では、8月31日に、ベツレヘム周辺のエルカナや、エフラタ、エルサレムのギブアット・ゼエブなど複数の入植地へ、高齢者ホームを含む280軒あまりの許可の他、すでに建築済みの家179軒も追加許可としての許可を出した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4848725,00.html

当然、パレスチナ自治政府や国際社会からもするどい批判が出た。イスラエルは、西岸地区の違法な前哨入植地(通常はプレハブの家)を撤去するなどして、対処にあたっている。今回もヘブロン南部のアモナを強制撤去するよう最高裁判所からの支持が出た。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/217226

なお、西岸地区にいるユダヤ人は、現在、57万人で、その数は増える傾向にある。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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